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.国際  投稿日:2026/10/13

日本ともEPA締結に向け交渉開始へ―南米南部共同市場


執筆:山崎真二(元時事通信社外信部長)

【本稿のポイント】

・アルゼンチン、ブラジルなど5カ国で構成する南米南部共同市場(メルコスール)は、トランプ政権の関税政策を背景に対外交渉を加速させ、今年1月にはEUとの協定に調印。

・日本とのEPA交渉が年内開始の可能性もあるが、安い牛肉や砂糖の流入を懸念する自民党は慎重。

・メルコスールは韓国、インドネシア、ベトナムなどアジアとの交渉にも意欲的だが、域内GDPの6割を占めるブラジルで今月25日に行われる大統領選決選投票の結果が、今後の行方を大きく左右。  

 

米中の覇権争いや保護主義の広がりにより世界貿易秩序が揺らぐ中、南米南部共同市場(メルコスール)が存在感を強めている。長年停滞していた多国間交渉が急展開を見せる背景には、グローバル供給網の再構築を急ぐ各国の思惑と、資源・食料供給国としての南米の重要性の高まりがある。世界的な経済ブロック化の波と国際情勢の激変の中で、メルコスールが果たす役割と日本の通商戦略への影響について、元時事通信社外信部長の山崎真二氏が分析する。

 

 ブラジルなど南米主要国で構成する南米南部共同市場(メルコスール)が対外関係拡大に積極的になっており、近く日本との間でも経済連携協定(EPA)交渉が行われる見込みである。

◇総人口2億8000万人、経済規模は3兆ドル以上

 メルコスールはアルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイとボリビアの5カ国で構成される関税同盟で、域内貿易の関税を原則撤廃し、対外共通関税を設定することを目指す。ボリビアに関しては正確に言えば、同国は正式加盟に必要な国内法規を整備中だが、今年7月から事実上、加盟国としてメルコスールの会議に参加している。加盟国は民主主義を尊重し、維持することが義務づけられているのも大きな特徴。これら5カ国合わせると、人口は2億8000万人、経済規模は3兆ドル以上。メルコスールは近年あまり注目されなかったが、それにはいくつかの理由がある。重要メンバーだったベネズエラが2017年、国内での人権弾圧などを理由に無期限の停止処分とされたほか、中国の南米地域への急速な台頭、2001年のアルゼンチンの債務不履行(デフォルト)などがメルコスールの存在感を希薄にした。

◇今年初めEUとの交渉妥結

 ところが、そのメルコスールが今年に入ってから積極的に他地域・国との交渉を行っている。第2次トランプ政権の関税政策の影響でメルコスールの対外交渉が加速したとの見方が有力。メルコスールは今年1月、欧州連合(EU)との間でパートナーシップ協定及び暫定貿易協定に調印した。メルコスールとEUの正式交渉は1999年6月末に開始されというから約26年半も要したことになる。最近のメルコスールの動きで目立つのはアジア地域との交渉に熱心になっていることだ。特に注目されるのは対日交渉。今年6月、フランスで主要7カ国(G7)エビアン・サミットが開催された際、高市早苗首相とルラ・ブラジル大統領が会談、日本とメルコスール間で経済連携協定(EPA)の締結を目標に交渉を開始することで合意。その後、メルコスール首脳会議で日本との交渉開始が正式に決定された。

◇自民党内には懸念も

 メルコスールと日本の交渉がいつから始まるのか。現時点では未定とされているが、日本と南米の関係に詳しい外務省関係者によれば、現在、事務レベルでメルコスール側と調整中で、年内に開始される可能性もあるという。メルコスール加盟各国の間では年内開催への期待感が高まっていると伝えられる。一方、日本側はどうかというと、自民党の経済協定対策本部はメルコスールとのEPA入りを容認するとしながらも、南米から安い牛肉や砂糖などが入ってくれば国内の産業が打撃を受けるのではないかとの懸念から、政府に対し慎重に交渉を行うよう要請している。実際のところ、交渉はそう簡単には進まないだろう。メルコスールとEUの交渉が長い年月を要したのも、フランスなどの農業団体の強い反対があったからである。

◇影響大きいブラジル大領領選

 メルコスールは他のアジア諸国への進出にも意欲的。韓国、インドネシアおよびベトナムとも交渉を重ねている。ベトナムとは今年6月に交渉開始で合意しており、今年中には最初の交渉が行われる見通しである。メルコスールにとって気がかりなのはブラジルの大統領選の行方。先日のブラジル大統領選第1回投票の結果、右派のボルソナロ上院議員(ボルソナロ前大統領の長男)と現職の左派のルラ大統領との間で今月25日に決選投票が行われることになった。ルラ大統領はメルコスールの推進を最優先事項の1つに挙げているのに対し、ボルソナロ氏はメルコスールの在り方に批判的とされる。ブラジルはメルコスール全体の国内総生産(GDP)の6割を占めるともいわれるだけに同国の大統領選結果がメルコスールの行方に大きな影響を及ぼすのは確実だろう。(了)

【よくある質問(FAQ)】

Q.メルコスールはいつ、どのように設立されたのですか。

 A.1991年3月26日にアルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイの4カ国がアスンシオン条約に署名したのが始まりで、同条約は同年11月29日に発効しました。1994年12月のオウロ・プレット議定書で機構が定められ、1995年1月1日に関税同盟として正式に発足しています(外務省)。 

Q.日本とメルコスールはどのような経緯で交渉入りに至ったのですか。

 A.2025年12月20日、日本とメルコスールは経済関係の深化を話し合う「日・メルコスール戦略的パートナーシップ枠組み」を立ち上げました。その下で2026年1月27日にパラグアイのアスンシオンで第1回会合、3月25日にはWTO閣僚会合に合わせてカメルーンのヤウンデで第2回会合が開かれました。わずか2回の会合を経て、交渉入りが決まったことになります。 (外務省)

Q.日本とメルコスールの経済関係はどの程度の規模なのですか。

 A.日本はメルコスールにとって貿易相手国の上位10カ国に入り、2025年の貿易額は137億ドルでした。EPAが実現すれば、人口約4億人、GDP合計約7兆ドルの自由貿易圏が生まれます(在パラグアイ日本大使館)。また現地には約1000社の日系企業が進出しており、メルコスール域内には世界最大の日系人社会があります(経団連)。 

(本稿のリード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)

 

写真:日・ブラジル首脳会談 2026年6月16日 フランス・エビアン

出典:外務省




この記事を書いた人
山崎真二時事通信社元外信部長

 

南米特派員(ペルー駐在)、ニューデリー特派員、ニューヨーク支局長などを歴任。2008年2月から2017年3月まで山形大教授、現在は山形大客員教授。

山崎真二

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