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.国際  投稿日:2021/7/5

トランプと露KGBの関係 その2


スコット・フィリップスキー(ジャーナリスト、プロデューサー)

 

【まとめ】

・1970年代後半、トランプ氏はホテルのリフォーム事業で200台のテレビ機を2人のソ連からのユダヤ人難民が経営する電気屋から買った

・元スパイ、「電気屋のオーナーはKGBと関係があった」と証言し、

・諜報員がトランプ氏の強欲さを利用し、「関係を発展させることが出来る」と考えたと述べた。

 

1987年11月にゴースト・ライターが書いたトランプの自叙伝が出版された「 (英語タイトル:The Art of the Deal」によると当年1月にソ連新大使からの手紙でホテル合弁事業プロジェクトを目指すためにモスクワに招待されたという。

 

トランプはこの全経費が支払われる旅の招待を喜んで受けたとされる。しかしホテル合併事業はただの口実だ。

 

シュヴェッツの諜報分析によるとトランプとKGBの関係が始まったのは1970年代後半。当時、トランプ氏は、初めてのマンハッタンの規模を拡大する不動産プロジェクト、NYグランド・セントラル駅前グランド・ハイアットホテルのリフォーム建設中だった。トランプは、その最中に、奇抜な取引をしたという。 通常リフォームするホテルに入れる新しいテレビは一流電気製品売業者から購入することが普通だが、シュヴェッツ氏の取材によると、トランプは200台のテレビ機を2人のソ連からのユダヤ人難民が経営する小さな電気製品ショップから買ったという。

 

Joy-Lud Electronics(ジョイ・ ラッド電気店)という電化製品店で、所在地は現在ニューヨークでイタリアのグルメ食材と料理が大集結した高級食材店イータリーが入っている建物だ。80年代には国際おもちゃセンターでアメリカの最も大きいおもちゃ見本市が毎年開催されていた場所である。ジョイ・ ラッド電化製品店はアメリカに駐在しているソ連出身者やソ連からの観光客に大人気の店だった。それに加え、KGBと深い関係もあった。FBIからの盗聴攻撃を防ぐためにアメリカ国内で信頼出来る電気製品ルートが必要で、その役割を請け負っていた店だ。しかし役割はそれだけではなかった。

 

シュヴェッツ氏: 「この電化製品店はKGBワシントン支局で「我々の店」として知られていました。2人のオーナーは「スポッター(諜報員)」として、採用の目的にKGBに役に立ちそうな人材候補を探す役割をしていました」

 

写真)トランプ氏と最初の妻イヴァナ・トランプ グランド・ハイアットホテルにて 1985年1月10日
出典)Ron Galella/Ron Galella Collection via Getty Images

 

元連邦検事マイケル・マカラム氏が当時防諜やロシアのマフィア捜査でジョイ・ ラッド店の監視で集めた証拠を令状に入れた経験があるという。では、トランプはなぜアメリカ人が使わない怪しそうな店から何百台のテレビ機をホテルに購入したのか?

 

シュヴェッツ氏:「なぜ彼(トランプ)がこんな人間になってしまったのかわかりませんが、この男はビジネスマンのキャリアの最初からソ連の脂ぎった(Greasy)世界と繋がりのある脂ぎった経歴のある脂ぎったやつに囲まれていた。そういう性格だとしか説明しようがない。アメリカのまともなビジ ネスマンは通常このような人物たちとの関わりを避けます。しかしトランプは特異なクセのあるところがあった。 これは直接絡んでいないので私の経験からくる推測の分析になりますが、トランプにディスカウント価格でテレビを購入させるため、KGBが店の割引差額をカバーして、少なくとも何台かに盗聴器と隠しカメラを設置し、後から大成功したとモスクワに報告したでしょう。このようなただ一つの脂ぎった取引をする諜報活動、対敵情報活動は、非常に重大で驚異的な成果を挙げることが出来ます」

 

しかしこの奇抜な取引でトランプに強欲なところがあることがわかり、KGBにとっては非常に印象的だったという。

 

シュヴェッツ氏: 「結局、強欲の話だ。諜報員がその強欲さを利用すれば、関係を発展させることが出来る

 

 1970年代-1980年代当時、KGB諜報員の常識として、アメリカ人をエージェントにするのは不可能に近いとされていた。

 

 シュヴェッツ:「当時アメリカ人をスパイとして採用するのはほぼ無理だと思われていた。私の上司の 一人、第1総局本部長に言われた事を覚えています。『アメリカで誰でもいいからエージェントになれる人を見つければ、我々が使い道を考える』。だからこの機会に、ドナルド・トランプに目をつけた」

 

ちなみに当時トランプはまだ全米大スターではなかった。彼をテレビの人気者にしたリアリティー番組はまだ20年も先。しかし新築トランプ・タワーの話題がNYタブロイド紙面でにぎわっていたおかげで、トランプはすでにニューヨーク市でカリスマ不動産セレブになっていた。私がNYデイリーニュース紙やNYポスト紙を新聞配達のアルバイトしていた頃、日常的に出ていたトランプのネタの源は知らなかった。

 

「ジョン・バロン」又は「ジョン・ミラー」という偽名を使い、自ら広報スタッフのふりしながらよくトランプ自身がNYゴシップ記者たちと電話で自分の性的ゴシップネタ(見出し:マーラが自慢する:「トラン プとのセックスは今までのベスト!」NY Post1990年)や純資産を粉飾した数字などを記者に直接本人が伝えたという事が当時記者の中で有名だった。1991年のピー プル誌の記者がトランプの離婚取材で連絡した時を記事に 「・・気が付くと電話で話していた相手は偽広報スタッフのふりをしているトラン プ本人だった・・・」

 

強欲の次に虚栄心。この時代にKGB研修で使われていた「諜報員研修マニュアル:外国人に心理的影響を与える方法」でも、虚栄心の強い性格の人物は説得しやすく協力者として理想的だと記載されていた。

 

「このタイプは情緒不安定による影響で、自尊心が非常に強い性格になります。野心的で優越感を抱きやすく、自分にとって利益があれば、どのような被害や損害があり、どのような結果をもたらすのかを全く気にしない。自分の能力を過大評価し、特別扱いを求めながら、人に評価されたくて認められたい気持ちが強い」

 

シュヴェッツ氏: 「彼の性格は非常に採用されやすいタイプです。彼の全てが過剰になる。IQは割りと低くて基本的に知力が乏しい。虚栄心過剰、ナルシシズム過剰。虚栄心過剰と非常に低いIQというコンビは爆発性混合物でとても操りやすいんだ」

 

それで、ニューヨーク支局とトランプとの接触が定期的に行われることになった。

 

シュヴェッツ氏:「我々のやり方は約月に一度ターゲットとランチかディナー会合をする。彼の事をなるべく知るために会って情報を集めます。何年もかかる場合がよくあります」

 

しかし、ついにアメリカにソ連の存在を震撼させる大変な時期に入ってしまった。「イヤー・オブ・ザ・スパイ」と呼ばれた1985年に、冷戦の両側を揺るがす歴史的な度重なるスパイ事件で1986年11月に90人のKGBと思われるソ連政府関係者がアメリカから追放。大使スタッフ3人とTASSの記者になりすましたシュヴェッツ氏しかワシントン支局に残れなかった。その時の衝撃を今でも覚えている。

 

シュヴェッツ氏:「アメリカにある3つの(KGB)支局が壊滅した。人脈が全て失われ、ゼロからやり直しになってしまった。この時トランプをモスクワに招待する事が決定された。」

 

「事実、本当に全てたわごとだ。モスクワにおびき寄せるための口実だ。経験がある正気なアメリカのビジネスマンなら、誰も有り得るオファーとして扱わない。1987年モスクワにトランプ・タワーを建てることは考えられない事だ。ソ連が鉄のカーテンを立てた理由はまさにソ連の国民にそういう光り輝く超高層ビルを見せないためだ。北朝鮮が韓国から鎖国をしているのは韓国人の生活を北朝鮮国民に見せたくないからだ」 

 

 しかしトランプには、この現実は見えてはいない。

 

シュヴェッツ:「だから、(トランプの)こういうところは子供みたいだ。彼は心の奥でモスクワのトランプ・タワー計画はナンセンスだと理解していたのかもしれないけれど、彼の虚栄心に突き動かされて、『私は彼らにとって重要視されているし、真剣に私を受け入れているからおそらく建築は可能だろう』と思ってしまったのだろう。彼の性格はそういうふうに動きます」「彼の虚栄心を利用し、「あなたは素晴らしい人間だ、あなたは世界一の不動産開発業者である」と褒められることに喜びを感じさせる。そしてまだ上を目指し、「世界を変える力があるからオーストラリア、ニュージーランドや日本のような国を無視し、1945年ヤルタ会談のように世の中を2分割して、2人で支配すれば良い」

 

このようなメッセージは世界中に何十、おそらく何百人のKGB諜報員が日常的に流していたが、KGBが大変驚いたことに今回まんまと(トランプは)その餌に引っかかってしまった。トランプは完全に全てを飲み込んだ」 「そして訪問中、ノンストップで褒めちぎり、トランプが米大統領選挙に出ることが現実的だから出れば良いのだという結論をとらせたほど持ち上げられ続けた」  

 

(その3に続く。その1

トップ写真)トランプ氏と2番目の妻マーラ・メイプルズ
出典)Andrew D. Bernstein/Getty Images




この記事を書いた人
スコット・フィリップスキージャーナリスト・プロデューサー

Scott Filipski。2021年モンテカルロテレビ祭、ベストニュースドキュメンタリー部門ノミネート。ZDFドイツ公共放送局プロデューサー現職。NHK、朝日テレビ、TBS、フジテレビ、などでフィールド・プロデューサー、レポーターを務める。「ネイティブを動かすプレミアム英会話」英語監修(2020年新潮社出版)。コロンビア大学卒業Magna Cum Laude受賞。

スコット・フィリップスキー

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