[石川和男]数字は嘘をつかない~これまでの景気対策に生活保護改善の効果がなかった現実
石川和男(NPO法人社会保障経済研究所理事長、東京財団上席研究員)
毎年秋から冬にかけて、「経済対策」や「景気対策」などと銘打たれた巨額の補正予算が編成される。そして、翌年3月末までに“予算の年度内消化”をするため、巨額の税金が短期間でばらまかれる。今年度の補正予算は、12月上旬の編成、年明け1月の成立・開始を目指しているようだ。
景気対策が打たれるのは、不景気だからである。不景気の煽りを受ければ、失業したり、収入が途絶えたりする。最悪の場合、生活保護に頼らざるを得なくなる。
下のグラフを見ていただきたい。
(出所:厚生労働省)
これは厚生労働省が作成したもので、生活保護に関する被保護世帯数(青色の折れ線)、被保護人員(緑色の折れ線)、保護率(赤色の折れ線)の推移を表している。1990年代前半(上のグラフでは平成3~4年)を境に、それ以降は増加傾向を示しており、現在でもそれは止まっていない。
1990年代前半のバブル経済崩壊を機に、巨額の景気対策がほぼ毎年実施されてきている。しかし、生活保護に関連するデータを見ると、改善の兆しがあるどころか、悪果の一途を辿っていることがわかる。これまで数々の景気対策は、生活保護面での改善効果はなかったことになる。数字は嘘をつかない。
国の予算をばらまくことは、毎年行われる最大の景気対策だ。それを活用して生活保護から脱却しようとする人々を支援するため、雇用効果のある施策を打っていくことは、いつの時代でもとても重要なことだ。
しかし実際には、生活保護制度そのものは、生活保護受給者を生活保護から脱却させるという点では、ほとんど機能していないことがわかる。ただ単におカネを支給するだけでは、生活保護から脱却する手助けにはならない。
生活保護受給者数の増加の主な原因は、高齢者の増加と50歳以上の失業者数の増加だ。ここにも、少子高齢社会の影響が現れはじめている。こうした状況をすぐに改善させる特効薬も妙案もなかなか思い浮かばない。せいぜいあるとしたら、半ば無理やり仕事を創っていくことだ。景気対策とは、実はそういうことなのだ。
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