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.社会  投稿日:2014/9/29

[安倍宏行]【メディア災害報道に批判集中】~ネット時代の取材ガイドライン作れ~


Japan In-Depth編集長

安倍宏行(ジャーナリスト)

執筆記事プロフィールWebsiteTwitterFacebook

自然災害が続いている。広島の土砂災害の猛威に震撼したばかりなのだというのに、御嶽山の噴火はあまりに突然で、驚きを禁じ得ない。そのの被害はさらに拡大するかもしれず、自然の猛威の前に人間は無力だと改めて感ぜずにはいられない。

そうした中、今に始まったことではないが、ネット上では、メディアの取材手法に批判が集まっている。広島の土砂災害の時だけでなく、生き埋めになった人を捜索している時に各社が報道ヘリを飛ばすことは捜索を妨害するとの声が上がっている。また、被害現場近くまで取材クルーやリポーターが大挙して押しよせることも批判の的だ。

今回の御嶽山の噴火では、噴火直前にツイートしていた人に、多くのメディアが情報を得ようとツイッターでコンタクトを取ろうと試みたが、噴火で安否がわからない人に群がるハイエナのようだ、とネット上で厳しく糾弾された。

メディアが速報を競い、時として過熱気味に取材攻勢に走ることを戒める声は日増しに強くなっている。実は、新聞・テレビ、それぞれ自主規制ガイドラインを決めている。(注1)どちらも2001年に制定されているにもかかわらず、今も批判に晒されていることをメディアは真摯に受け止めねばならない。

特に、SNSを使っての取材は東日本大震災後、急速に普及してきた感がある。SNSを学生時代から当たり前のように使ってきた記者が増えていることも関係しているが、二つの点で気を付けるべきだ。

一つは、ネット上の情報の信頼性だ。そもそも裏が取れている情報なのかどうか、不確かである。うっかり引用しようものならとんでもないやけどをする可能性がある。また、情報が投稿された時間もよく調べないと危険だ。本人の投稿と他人によるリツイートやシェアなどが混在しているからだ。

二つ目は、ネットを使っての取材手法の問題だ。ツイッターやフェイスブックを使って取材する記者が増えている。広く情報提供を呼びかけるパターンと、直接取材対象を絞ってその人にコンタクトを取るパターンがあるが、特に後者は今回の御嶽山のケースのように、一歩間違うと批判の対象となり易い。今後はSNSを使った取材がどのような問題を引き起こすのかを想定した新たなガイドライン作成が必要であろう。

さて、既存のメディアは速報の速さでもはやSNSには勝てないことが分かっている。無論、情報を早く伝達する努力を放棄すべきではないが、事件・事故・災害が起きた場合、その原因を特定し、対策を提示することもメディアの大切な役割だろう。

先日NHKが、群馬県下仁田町の防災の取り組みについて特集を組んでいた。過去幾度となく土石流などの被害を受けてきたこの町は、行政に頼らず、住民自ら自然を日常的に観察し、異常値を検知したら自主避難を住民に勧告するシステムを構築している、という内容だった。

沢などの水の流れの目視や、自家製のコップ型雨量検知器を使っての雨量の測定を通じ、異変を感じたら係りの人が自治会長にすぐ連絡し、自治会長が各地区のリーダーに避難を呼びかけるという。又、過去どの場所でどんな災害が起きたかが詳細に記載されている防災マップも作成し、各戸に配布している。まさしく、「自助」「共助」の参考となる例であろう。

こうした地域の優れた取り組みを紹介することが、各自治体の防災意識を喚起することになり、将来の災害時の被害を減じることにつながると思う。とても有意義な放送だった。

災害時の報道で、メディアは1次情報の提供だけでなく、災害が起きた原因を分析し、被害を最小限に止める為に今後私たちはどうしたらいいか、具体的に提案をしていくことがこれまで以上に求められている。

注1)日本新聞協会 集団的過熱取材に関する日本新聞協会編集委員会の見解

http://www.pressnet.or.jp/statement/report/011206_66.html

民間放送連盟 集団的過熱取材(メディア・スクラム)問題に関する民放連の対応について

http://www.j-ba.or.jp/category/topics/jba100553

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