[清谷信一]陸上自衛隊の時代遅れな「最新型戦車」の量産に疑問〜1千億円の開発費と毎年10輛・150億円に効果はあるか①
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
陸上自衛隊の戦車の定数が次期防衛大綱では現行の400輛から300に輛減らされる可能性が出てきた。無論この数字は今後検討されるので350輛程度に落ち着く可能性があるが、限りある予算を有効に使うためには優先順位の低い戦車を削減するというトレンドに変更はあるまい。筆者は300輛でも過剰であると考える。
我が国に戦車が連隊単位で上陸してくるような状況は短期、中期的には全くありえない。中国にしろ、ロシアにしろ、そのような実力は有していない。唯一能力的に可能であるのは米国である。
新型戦車の必要性は低い。これは90式戦車が登場した直後には明らかだった。ソ連が崩壊し、東西両陣営で戦車を中心とした機甲戦が行われる可能性は殆どなくなった。しかも西側の第三世代戦車(90式含む)はソ連のT-72戦車に対して圧倒的な戦いができることが湾岸戦争で証明された。にもかかわらず、防衛省と陸自は約1千億円の開発費を新型戦車の開発を進め、止せばいいのに量産化しまった。このため毎年150億円程度予算をかけて約10輛の10式戦車を調達している。
陸自の最新型10式戦車は発想が時代遅れであでる。これの調達が陸自の機甲戦力を弱体化されていると言っても良い。最近出版界は自衛隊ブームで如何に自衛隊が精強かを謳っているが、それを鵜呑みすると現実は見えてこない。出版社が威勢のいい話をするのはその方が、読者の素朴な愛国心をくすぐって本が売れるからだ。
10式戦車は設計思想が四半世紀前遅れている。他国の現用の3・5世代戦車から見れば奇形とすら言える。諸外国の3・5世代戦車は重防御化のため概ね60~70トンとなっている。対して重量は44トンと、陸自の第三世代戦車である90式戦車よりも6トンも軽い。これは北海道以外の内地での運用を考えたためだという。
先にも述べたが、10式はソ連が存在していた時代に想定されていた、大草原を舞台にソ連機甲部隊と雌雄を決するというシナリオに沿った戦車だ。だが弱体化したロシアにそんな力はなく、軍備増強著しい中国ですら日本本土に師団単位の部隊を上陸させるような実力はない。敢えて誤解を恐れずにいえば、それはゴジラの上陸や火星人の襲来に程度の可能性しかない。
無論新型なので、10式には新規の技術は盛り込まれている。より高性能の主砲C4IR機能、上場把握システム、補助動力装置のだが、それは90式を近代化すれば良い話だ。わざわざサブシステムや試験費を含めれば約1千億円の開発費、約60億円の初度費用を掛けて、単価10億円で新型戦車を調達する必要はない。90式は重すぎて内地では使えない、90式は車内が狭すぎてC4IR関連のシステムを搭載するなどの近代化ができない。これが10式開発の理由であったが、どちらも事実ではない。平たく言うと嘘である。
まず90式が重すぎて内地で使えないのであれば、中国の新型戦車は大抵50トン以上なので、中国は我が国で戦車を使えないことになる。使えないというのは平時の法規制のためであり、法規制を改正すればいいだけの話だ。実際に先に公開された機動戦闘車はそれまでの道路法の規制である、横幅2.5メートルを大きく逸脱して横幅は2.98メートルとなっている。
元陸自の機甲科の幹部で、著作も多い木元寛明氏は90式を内地で使うこと問題はないと主張している。シンガポールのような都市国家ですら、90式よりもはるかに重たいレオパルト2を運用している。常識的に考えればおかしな話であることがわかるはずだ。そもそも防衛庁(当時)は90式を開発、配備するときに「これは北海道限定銘菓『白い恋人』と同じで、北海道限定でしか使えません」とは説明していなかった。
仮に北海道しか使えないならば大問題だ。
攻める方はわざわざ強い90式がいる北海道に侵攻する必要はない。新潟とか他の場所に上陸するだろう。そうなればご自慢の90式は遊兵化し、内地に配備されている旧式の第二世代の74式戦車は一方的に虐殺されるだろう。
それが分かっていて90式を導入したのであれば、軍事知識の欠落である。そもそもソ連の大規模な上陸作戦が想定されるのであれば、何故内地を守る74式の近代化をしなかったのだろか。
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