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.国際,ビジネス  投稿日:2015/4/10

[三重綾子]【ラーメン革命、日本食からグローバルフードへ】~ハワイ発製麺工場の快進撃~


三重綾子New York University ジャーナリズムスクール留学中

執筆記事プロフィール

ニューヨークでは今、ちょっとした日本食ブームが再燃している。とはいえ、一昔前のスシではなく、ラーメンや居酒屋といった庶民的な日本の味がニューヨーカーの間では人気だ。特にラーメン店はものすごい勢いで数を増やしており、先日建物が倒壊したイーストビレッジには日本の一風堂まで進出している。

以前はインスタントラーメンとしての認識しかなかったラーメンだが、ここまでニューヨーカーの胃袋をつかんだのは、ホノルルに本社があるサンヌードルという製麺工場が2012年にニュージャージーに工場をオープンさせたことが大きい。米紙ニューヨーク・タイムズ紙によってトップ10にランキングされたニューヨークのラーメン10店のうち、9つのラーメンショップがこのサンヌードルの麺を使うほどだ。

サンヌードルは、1981年、単身ハワイに渡った夘木栄人社長によって創業された。当時既に、ホノルルには数件のラーメンショップはあったのだが、日本で使われているような生麺を使っている店は皆無。栃木県の製麺工場の長男だった夘木社長はそこに目を付け、それぞれの店のテーストに合わせた生麺を提供する事で、同社はハワイナンバーワンの製麺所に成長した。その後、カルフォルニアにも工場をオープンさせ、同社は今や北米のみならず、南米やヨーロッパにも麺を輸出している。
Sun Noodle's History page #4

Sun Noodle's History page #11

そのサンヌードルのニュージャージー進出は、夘木社長の長男で、ハワイで生まれ育った夘木健士郎ジェネラルマネージャーの手腕によるところが大きい。ミシュラン2つ星を獲得したMomofuku Koで有名なニューヨークのセレブリティシェフ、デービッド・チャン氏が2004年からサンヌードルの麺を使い始めた事から、同社の麺は東海岸でも評判を呼んだ。

しかし健士郎氏は、その品質はあまり自慢できるものではなかったと振り返る。なぜならば、西海岸から東海岸に輸送中に麺が崩れ、本来の品質が保つ事ができなかったからだ。当時、ニューヨークで顧客周りをしていた時にその事に気付いた健士郎氏が、帰りの飛行機搭乗前にサンヌードル製麺工場のニュージャージー進出を社長に提案、カリフォルニアに降り立ったときにはゴーサインが出たという。

サンヌードルがニューヨークに「輸出」したのは、麺だけではない。それは、ラーメンはインスタント食品ではなく、スープやチャーシューとのマッチングが非常に重要な「ビストロフード」だというコンセプトだ。工場オープン当時にはまだニューヨークに本格的にラーメンブームは到来していなかったものの、工場の中にラーメンラボをオープンし、本格的なラーメン調理の教育から始めた。こうした取り組みが噂を呼び、サンヌードルは連日メディアで取り上げられ、米国でオーガニック高級スーパーとして名高いホールフーズとのコラボレーションも果たした。

しかし、健士郎氏の「ラーメン改革」はまだ始まったばかりだ。ラーメン文化にまだ慣れない米国人の多くにとって、ラーメン店は10分で完食するファストフードというより、40分かけて堪能するグルメ食でもある。(事実価格も割高で、だいたいラーメン一杯あたり平均14ドルほどだ)。しかし、それではラーメンが伸びてしまい本来の風味が損なわれてしまう。その意識改革をするため、日本でも有名な「中村屋」の中村栄利ラーメンシェフを迎え、リトルイタリーにオープンしたラーメン店「ラーメンラボ」には椅子はない。ラーメンは、熱いうちにさっさと食べるというものだという、ラーメン文化をニューヨーカーに理解してもおうという試みだ。

しかし、健士郎氏は、ラーメンはスシと同じようにボーダーレスなグローバルフードになりつつあるという。日本に札幌ラーメンや九州の豚骨ラーメンというように、地域性があるように、米国でもそれぞれの風土を生かした食材を使ってラーメンが進化するべきだと健士郎氏は語る。事実、今やサンヌードルのラーメン旋風は、東西海岸だけでなく、テキサスやナッビルなど、これまでラーメン屋がなかったような場所にまで届いている。ニューヨーク風ラーメンやテキサスラーメンというカテゴリーができる日もそう遠くないかもしれない。

※トップ画像/夘木健士郎さん(ニュージャージーの工場で)
※文中写真/サンヌードルのホノルル工場(1980年代)

タグ三重綾子

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