ソーシャル・ファーミングが地域の介護を支える〜誰もがアクションする当事者として10年、20年先の地元を創造する②
大橋マキ(アロマセラピスト)
(①から続く)超高齢化社会のいまの日本における介護をめぐる現状は、とても厳しいものがあります。働き盛り、子育て世代は、仕事や育児に明け暮れ、ある日、突然に降ってくる介護の赤紙。これまでの社会的な繋がりを全て断ち切って、介護に孤立奮闘する現実へ向き合わねばなりません。
なぜ、日本の介護はこうも閉じているのでしょうか。
私も、祖父母が身近にいない核家族に育ちました。私も含め、同世代の多くが「介護」を身近に感じる機会がありません。もっと、どの世代にとっても「老い」や「介護」が日常の風景のどこかにあって、エイジングのひと繋がりとして柔らかに触れられたらいいなと思います。
今後、膨らむばかりの医療費、介護費を抑えるためにも、医療機関など専門家のほかに、地域を含めて多角的に「健康」作りに関わる必要があると思います。そもそも、医療の発展により、「健康」のあり方が益々変容していかねばなりません。「健康」とは、心身を完全な状態に保ことではなく、疾患と自分なりに付き合っていく力を身につけること。そのために、家庭でも職場でもない、「地域」という誰もがアクセスできる身近なところに、大きな可能性が眠っています。
葉山のソーシャル・ファーミングは、在宅介護者のリフレッシュを目的に、葉山社会福祉協議会と関東学院大学の地域福祉を専門とする山口稔教授、私の参加するハーブユニット「エルボステリア鎌倉山」との三者恊働で、地域の人たちと一緒にハーブや野菜を栽培し、加工する活動をしています。ホーリーバジルというハーブを水蒸気蒸留してとった芳香蒸留水を福祉現場でリフレッシュ・スプレーとして活用したり、ハーブをクッキーやパンに加工する作業を精神障害者の就労支援につなげるなど、地域に少しずつ広がっています。
月2〜3回の活動には、いつも20名前後が集まります。鳶の声が響く山の畑で、在宅介護中の人から介護を終えた人、これから介護を控える子育て世代や子どもたち、大学生が、一緒になって土に触れ、麗しい香りに包まれながら花摘みをします。それだけで、ごく自然に笑顔がこぼれます。収穫した大根やじゃがいもを畑に隣接するかまどで調理して、みんなで青空の下、豚汁をいただけば、もう他には何もいらないという気持ちになります。今や、同じ釜の飯を分け合う、大家族のようです。
農閑期には、漬け物が得意なおばあちゃんがワークショップを開催したり、お裁縫の得意なママがポプリ作りのリーダーになったり。互いが発信し、学び合う関係。「この活動がなかったら、私は壊れていました」。畑作業のとき、ふと漏らした在宅介護者の方の言葉が残っています。2年目に向けて、畑に隣接したカフェを作ろう! 青空大学をつくってみない? そんな話も出ています。
「地域福祉」という言葉にしてしまうと、堅苦しくて難しく聞こえますが、本当は誰にでも出来ることなんだと感じます。肩書きやバックグラウンドを越えて共通項は「地元」というだけ。そんな人どうしが繋がることが、こんなにも予想外の展開に満ちた、エネルギーを持っている。
誰もがアクションする当事者として、この活動を通じて、10年、20年先の地元作りに関わっている・・・という感覚を共有している。これは凄いことかもしれません。年齢を重ねることは、面白い。そう思える町に出会えて、とても幸せに思います。(①を読む)
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