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ビジネス,経済  投稿日:2015/10/29

[神津多可思]【グローバル経済の新しいバランス】~日銀は追加緩和すべきか~

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神津多可思(リコー経済社会研究所 主席研究員)

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ここ数年、世界経済は金融危機前の4%台の成長になかなか戻れないで来た。とくにこのところ、これまで世界経済を牽引してきた新興国で成長率が低下し、逆に先進国では上下しつつもゆっくり成長率が上昇するというすれ違いが起きていた。

そうした中で、この夏場以降、中国経済の減速がさらに明確になっている。そのため、中国向けの輸出のウェイトが大きい国が影響を受け、一次産品のグローバルな需給が緩み、最終的にはそれらの動きが先進国経済にも波及して先進国経済の成長も失速するのではないかという心配が急速に拡がった。実際、国際金融市場では株価が下落するなど大きな動きも現れている。

そうした状況を受けて、米国では政策金利ゼロの解除を見送るべきだ、日欧では追加の金融緩和が必要だなどと、先進国での政策面の配慮を求める声が強まっている。しかし、まずもってここで良く考えるべきは、中国を始めとする新興国経済の減速は、避けるべきもの、あるいは避けられるものなのかということだ。

新興国経済も、いつまでも2桁の高度成長を続けられるわけではない。実際、企業、政府の債務の水準がかなり高くなっている国が多い。さらに、しばしば指摘されるように、先進国の大胆な金融緩和のスピルオーバーが新興国の成長を支えてきた側面も無視できない。こうした状況は、長期的には維持可能ではなく、どこかのタイミングで調整が不可避だ。

そう考えると、単純に「新興国経済の減速を招くから、米国はゼロ金利政策を続けるべきだ」というのはちょっと短絡的に過ぎることになる。米国の中央銀行(FRB)は、米国経済ができるだけ息の長い成長をするために、そろそろゼロ金利を解除すべき時期ではないかと考えているはずだ。それを否定して、もともと、減速せざるを得ない新興国経済の成長を支えることを優先すべきというのはお門違いというものだろう。

もちろん、経済は生き物であり、緩やかな景気拡大の尾根道をたどっていても、何かの拍子に坂を転げ落ちてしまうこともあり得る。何かの拍子に不安心理が拡がり、企業・家計が弱気化し、経済全体として必要以上にリスクを取らなくなり、結果的に景気後退がひどくなるという展開は、過去、さまざまな国が経験してきたことだ。

したがって、そうした思わぬ経済不振を避けるための慎重さは重要であり、現在、米国の中央銀行がゼロ金利解除のタイミングを見計らっているのも、そういう観点からの判断だろう。だからと言って、とりあえず目先波風が立たなければ、先々もずっと良いということでは決してない。グローバル経済における新興国と先進国の新しいバランス、それに見合ったそれぞれの経済の新しい安定をいかに円滑に実現するかが大切であり、そのためにどういう政策対応が最善かという議論こそが大事だ。

さてそこで日本経済だが、金融市場には日銀の追加緩和を囃す声もある。繰り返しになるが、日本経済が思わぬ不振に陥りそうだというのであれば、金融面、あるいは財政面の追加的措置も正当化される。現状を点検してみると、企業収益はなお高水準だし、日銀の9月短観をみても企業の設備投資意欲は後退していない。家計についても、実質雇用者報酬は今年度に入りようやく増加に転じ、そのプラスの影響が個人消費に出て来るのであれば、それはこれからと言える。物価面をみても、足元では昨秋来の原油価格等の急速な下落の影響が強く出ているが、一次産品価格は今年に入ってからは上下しつつも下げ止まりつつあり、したがって前年比でみれば下押しの影響が次第に薄れていく可能性もある。

今、日本経済は果たして尾根道から転げ落ちて思わぬ経済不振に陥ってしまいそうなところに来ているのか。日本には、先進国の中で財政赤字縮小の展望が一番はっきりしておらず、米欧に比べ追加措置の将来コストについて不確実性が高いという負い目もある。それも勘案した上で、追加的な金融財政政策による経済下支えが、いつ、どこまで必要か。ここが思案のしどころだ。

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