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社会  投稿日:2016/2/11

衝撃!「水素社会」は来ない その2

水素ステーション
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文谷数重(軍事専門誌ライター)

■ 貯蔵も難しい

輸送同様に、水素は貯蔵も難しい。

すでに指摘したように水素は嵩張る上、気体水素はリークが多く、液体水素は蒸発損が大きいためだ。

例えば、通常のガソリンスタンドで20気圧10立方メートルの貯蔵庫を作っても水素ガスを600kg程度しか保管できない。20気圧は大型エンジン起動用圧縮空気容器の圧力であり、人家の近い町中で扱うにはそのあたりが実用上の限界である。

その上、水素は逃げる。通常空気でも20気圧のタンクからは空気が抜け、圧力維持のため1日1回は圧縮機が起動する。水素は空気よりも粘性が低くバルブ等からリークし易く、パッキン等のゴムも浸透する。つまり水素はほっといても抜けてなくなってしまう。

液体水素で貯蔵しても、蒸発損は基本は水素タンカーと変わらない。実際には高度な断熱ができないことを考慮すれば、タンクでは常にグラグラと沸騰している状態となる。気化した水素はガスホルダーに貯めて供給すればよいが、その量を超えると破裂防止のため大気放出、つまり捨てなければならない。

つまり、水素は貯蔵には向かない。その点で水素ステーションといった発想そのものが筋悪ということだ。

■ 製造も難しい

そして、水素は製造も効率が悪い。

現在、水素を経済的に生産する方法は天然ガス改質しかない。せっかく採取した天然ガスを分解して水素にするものである。当然だが、生産された水素のエネルギー合計量は原料の天然ガスが持つエネルギー量よりも目減りする。

それなら天然ガスそのままで使うほうが良い。水素よりも輸送も貯蔵も容易であり、用途も広い。今でも圧縮天然ガスでバスは動くし、都市ガス(今はほぼ天然ガス)でも家庭での改質で水素を取り出し燃料電池に使うことができる。

ちなみに、電気分解は結構効率が悪い。電気分解のエネルギー効率は50%強である。燃料電池の効率もよくて50%。つまり電気分解で作った水素を燃料電池に突っ込んでも、最初の電力量の25%程度の電力しか得られないのである。

■ 液体燃料にしたほうがよい

もちろん、将来的に電力が余れば水素を作ってもよい。いずれは燃料代ゼロの太陽光や風力発電が今以上に普及し、同時に省エネが進む。当然電力は余る。そうなればそれを使って水素を作ることも悪くはない。

だが、水素をそのまま使うのは効率が悪い。既述のとおり輸送や貯蔵が厄介であるためだ。

現実的には、生産した水素は液体燃料製造に回したほうがよい。水素があればガソリン、軽油、灯油の製造が可能となる。

水素があれば燃料合成ができる。水素と二酸化炭素と熱があれば、FT法その他で燃料が合成できる。二酸化炭素と熱は高炉やゴミ工場から入手できるし、その場合は二酸化炭素排出量から差し引くこともできる。

また、水素は低質油の改良にも使える。今ではあまり需要のない重油に水素を接触させることでガソリンや軽油といった軽質油に変えるものだ。

さらにバイオ燃料製造にも使える。植物油脂は水素を添加することで柔らかくなり、ディーゼル・エンジンやジェット機を含むガスタービンには利用可能となる。オーランチオキトリウムやボトリオコッカスといった藻類由来の油(実際は大分子量のワックス)も、分解の上で同様に水素添加すれば同じ製品をつくることができる。

無理に水素を水素のままで使う必要はない。液体に燃料に変え、今の物流網に流し込んだ方が効率はよい。実際に今のガソリンや軽油、航空燃料には合成・改質油やバイオ燃料も混ぜられている。面倒な水素供給網を作るよりも、そちらのほうが手っ取り早く安価ですみ、事業倒れのリスクも少ないのである。

衝撃!「水素社会」は来ない その1の続き。全2回)

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この記事を書いた人
文谷数重軍事専門誌ライター

1973年埼玉県生まれ 1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。 現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。退職後、軍事専門誌でライターとして活動。特に記事は新中国で評価され、TV等でも取り上げられているが、筆者に直接発注がないのが残念。

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