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社会  投稿日:2016/2/11

衝撃!「水素社会」は来ない その1

水素ステーション
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文谷数重(軍事専門誌ライター)

水素社会は来るのだろうか?

次世代エネルギーとして水素が注目されている。水素は化石燃料とは異なりクリーンなエネルギーであるためだ。

その利点を活かすため、自動車等への利用が進められている。トヨタの燃料電池自動車ミライやバス、フォークリフト等の荷役機械、建物等の固定式燃料電池への応用であり、供給のための水素ステーションの建設である。

だが、水素利用はペイするのだろうか?

水素には輸送や貯蔵に問題がある。そのコストを考慮すれば、水素をそのまま使うよりも石油化学の原料に使い、ガソリンや軽油といった液体燃料に変えて使ったほうがよい。

■ 水素利用の発達

水素利用が話題となっている。

東京都はオリンピックを期に水素燃料電池の利用を進めようとしている。これはスマートジャパン「浄水場の水素を燃料電池車に、東京の水道システムがオリンピックで進化」や、毎日新聞「『水素ステーション』整備、都が急ぐ 『東京五輪を起爆剤に』」で報道されているとおりである。

また、それ以外の地方でも活用が模索されている。神戸市は「水素サプライチェーン構築実証事業の推進」により輸入水素の扱いを狙っており、山口県周南市も「周南市水素利活用構想」で水素供給網整備を計画している。

これは新エネルギーとしての水素に期待したものだ。従来の化石燃料とは異なり、消費しても無公害であり、自然エネルギーや廃棄物からの製造よりエコといった印象をうけてのものである。

水素は燃料電池で使えば完全無公害である。燃料の水素と大気中の酸素を使うことで発電し、自動車や建物の電気を賄おうとするものだが、水しか排出しないので公害要素はない。

燃焼させても無公害に近い。化石燃料やバイオ燃料とは異なり硫黄を含まないため硫黄酸化物SOXは発生せず、炭素も含まないので二酸化炭素やPM2.5のような炭素微粒子の問題もない。原理上は窒素系酸化物NOXの発生は考えられるが、ガスタービンでは抑制の目処もついている。

製造もエコの印象がある。水素はソーダ産業等での副産物で発生するものであり、将来的には余剰電力による電気分解や、廃棄物処理等の排熱を利用した熱分解で作る目論見もあるためだ。

だが、水素には輸送と貯蔵に困難がある。このため、水素社会は来ないとみてよい。

■ 輸送は困難

まず水素は輸送が困難である。水素は経済的な輸送ができない。

水素は軽く嵩張り、液化困難である。この点で輸送効率はガソリンや軽油、灯油に敵うものではなく、プロパンや天然ガスよりも劣る。

気体水素は1立方メートルに詰めても100gしか運べない。タンクローリの容積はだいたい30立方メートルなので無圧縮では3キロしかつめない。仮に20気圧に圧縮しても60kgにしかならない。この点で立法メートルあたり0.9~0.6t、タンクローリで25~20t積めるガソリン等の液体燃料には大きく劣る。

また液化輸送にも限界がありプロパンや天然ガスに劣る。

水素の液化輸送は面倒である。まずマイナス250度まで下げなければ液化しない。これは絶対零度まであと20度の超低温だ。そして、液化しても1立方メートルで70kgにしかならない。その上、蒸発しやすい。1立法メートルはたった7000kcalの熱量で完全気化してしまう。これはコップ一杯、150ccの水を蒸発させるだけの熱量でしかない。

対して、プロパンは加圧すれば常温でも液化し、天然ガスはマイナス160度(メタン)で液化する。その際にはプロパンで1立米500kg、天然ガスで260kg(純メタン)以上となる。同じ容積で4-7倍の量が運べる。蒸発損にしてもメタンは加圧すれば蒸発しないし、天然ガスも水素よりも蒸発しにくい上、予冷により沸点までの時間が稼げる。

■ トラック輸送は絶望的

この輸送の非効率は、周南市長へのインタビューでも明らかである。「エネルギーの街、公用車はFCV「MIRAI」…周南市 木村健一郎市長」『HANJO HANJO』によれば

「コンビナートから生産された水素は液化水素化され、トレーラーで水素ステーションへと輸送される。運ばれた液化水素は最先端設備により再び気化され1キロあたり1100円で販売されており、市内をはじめ近県のユーザーにも利用されている」

とある。つまりは周南市で液化した水素は近郊にしか運べない、それ以上の距離では蒸発損が多すぎて話にならないということだ。

■ タンカーも同じ

輸送効率の悪さは水素タンカーも変わらない。最新の断熱材を利用し、表面積を最低限にした天然ガスタンカーでも1日に0.6%のガス蒸発損が生まれる。同じタンカーで液体水素を運んだ場合、その損は5倍以上、1日3%以上となる。豪州の褐炭ガス由来の液体水素輸入の話があるが、日本までの輸送日数14日で半分は蒸発してしまう。

川崎重工が高断熱の専用船を作るもある。だが、高価格が確実な割に2500立法メートル、つまり175トンしか積めない。これなら飛行船のような気球に詰めて、通常の石炭や鉄鉱石のばら積み船で曳航したほうがマシだ。

■ パイプラインも難しい

水素輸送唯一の解決策はパイプラインである。要は都市ガス同様に配管で運ぶ方法だ。

だが、供給網としての実現は難しい。日本の都市近郊では地上設置配管は難しいため、地下配管となる。当然、建設費や維持費が高く付く。

実際に日本ではコストの問題からパイプラインは少ない。列島を縦断するような大規模パイプラインは新潟ガス田-関東間の1系統しかない。また、都市ガス供給もコスト的問題から都市部しかつくれていない。

それ以上に利用先が限定される水素パイプラインはコスト的に現実的ではない。例えば「埼玉県で20軒の水素ステーションのため東京湾岸から40キロの基幹線を引き、そこからさらに水素ステーション1軒ごとに5kmの分配線は引けるか」を考えればわかるだろう。

衝撃!「水素社会」は来ない その2 に続く)

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この記事を書いた人
文谷数重軍事専門誌ライター

1973年埼玉県生まれ 1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。 現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。退職後、軍事専門誌でライターとして活動。特に記事は新中国で評価され、TV等でも取り上げられているが、筆者に直接発注がないのが残念。

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