安倍首相、弱り目G7に喝入れられるか?
嶌信彦(ジャーナリスト)
「嶌信彦の鳥・虫・歴史の目」
安倍首相は、外交の晴れの舞台・サミットの議長を務めるにあたり胸をウズウズさせていることだろう。これまで首相になってから海外を訪れ首脳会談を行なってきた回数は60回以上。日本にやってきた首脳との会談も数えれば100ヵ国は超える。
いまや日本の歴代首相の中では、首脳会談オタク、外交オタクといわれるほどの存在だ。今回はそれこそ先進7ヵ国の首脳一同を”自宅”に招いてホスト役を務めるのだから、あれこれ演出も含め胸を高鳴らせているに違いない。
ただ残念なことに、かつてのような先進7ヵ国のサミット(G7)の権威は、すっかり失われてしまい、G7が世界を引っ張れるような力も無くなってしまった。冷戦終結の90年ぐらいまでのG7といえば世界のGDPの3分の2を占め、G7の合意は国際情勢を牽引したし、その先2~3年間の流れもほぼ決めていた。G7は国連安保理やIMF、世界銀行の国際金融機関の諸会議よりも権威にあふれた国際舞台であり、世界はその議論と共同声明にかかれた内容と優先順位を必死に読み解こうとしたものだ。
ある時期までは、アジアの代表であった日本がG7の事前と事後に東南アジア各国に希望を聞いたり、説明にまわったりして気を遣った。まさにG7は首脳たち7人が互いの国益をぶつけあいながらも、最後は議長が落とし所をまとめ結束を誓い合うことで世界を動かしてきたのだ。
1975年にスタートしたサミットは、当初世界経済の安定をはかることに主眼がおかれていたが、次第に安全保障、対ソ連戦略、地球温暖化対策など世界の重要問題をすべてテーブルの上に乗せて議論しあった。また、いきなりG7を開くのではなく、シェルパと呼ばれる首脳たちの個人代表が何度も下準備の会合を重ね、最後にG7会合で首脳の裁断を仰ぐという緻密な議論の上に成り立っていた。
【G7とG20の妥協がカギ】
しかし冷戦が終結し、ロシアがサミット入り(2014年に離脱)したり、中国が自由主義経済の仲間入りして大きな影響力を持ってくるとG7も様変わりしていった。いまや世界のGDPの40%弱はG20と呼ばれる新興国が占め、G7とほぼ同じ経済力をつけてきた。
こうなるとG7が方針を決めてもG20が協力しなかったり、意見対決がまとまらないと世界経済の運営もまとまらなくなってしまう。私のみるところ、前回日本で開いた洞爺湖サミットあたりから、G7の権威は次第に落ちていく一方になったような気がする。
ここ2~3年、特に今年は”大乱”の年である。中東では戦争が終わらずイスラム教のシーア派の大国イランとスンニ派の大産油国サウジアラビアが国交断絶状態だし、中東の内乱で難民が後を絶たずEUに押しかけEUも難民対策で対立まで生じている。
一時は世界経済の下支え役だった中国も過剰生産でのっぴきならなくなり、リーマンショック時のように救済役を果たせていない。東南アジア経済はかつての勢いはなく、朝鮮半島は北朝鮮が核開発と実験で周囲を不安にしている。もっとも安定してきたとみられていたアメリカ経済ももうひとつ安定感がなく、二回目以降の利上げは延期されたままだ。
産油国は石油価格の暴落で経済、社会が不安定だし、パナマ文書の発覚によって各国、各企業、個人の大金持ちが不正に近い税金逃れを行ない世界が混乱しつつあり、さらに二極化が進行しそうな気配だ。
【日本は”新三本の矢”の実行を】
こうした国際政治、社会情勢を踏まえ安倍首相はどんなサミットにもってゆくのか。”新三本の矢”と成長戦略を打ち出し、財政、金融政策と構造改革、イノベーションをうたっているが、G7の思惑は必ずしも一致しておらず、特にアメリカが日本の円安政策に批判的だ。
日本はG7をうまく一つの方向に率いて世界のデフレ脱却に道筋をつけたいところだろうが、G7はまとまるような論理、妥協案を考えるだけでなく、日本が先頭を切って何をやるかを打ち出すべきだろう。会議のリーダーシップを握るには、まず自らが痛みを伴うプランを出し実行を約束することと、その事を日本の国民に理解してもらい、後押ししてくれるような態勢を作ることが重要ではないか。
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この記事を書いた人
嶌信彦ジャーナリスト
嶌信彦ジャーナリスト
慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、通産省、外務省、日銀、財界、経団連倶楽部、ワシントン特派員などを経て、1987年からフリーとなり、TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務める。
現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」にレギュラー出演。
2015年9月30日に新著ノンフィクション「日本兵捕虜はウズベキスタンにオペラハウスを建てた」(角川書店)を発売。本書は3刷後、改訂版として2019年9月に伝説となった日本兵捕虜ーソ連四大劇場を建てた男たち」(角川新書)として発売。日本人捕虜たちが中央アジア・ウズベキスタンに旧ソ連の4大オペラハウスの一つとなる「ナボイ劇場」を完成させ、よく知られている悲惨なシベリア抑留とは異なる波乱万丈の建設秘話を描いている。その他著書に「日本人の覚悟~成熟経済を超える」(実業之日本社)、「ニュースキャスターたちの24時間」(講談社α文庫)等多数。