スポーツ  投稿日:2016/7/20

“刺激”を求めていくメディアの性

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為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)

前に芸人さんと、それから構成作家さんという職業の人と中華を食べに行った時に、麻婆豆腐と担々麺を頼んだはずなのに、回鍋肉とスーラータン麺が出てきたことがあって、頼んだのと違いますよと僕が言おうとしたら、二人は嬉々として”これはおもろい、ネタになる”と興奮していたということがあった。なるほどこの職業の人たちはこういう捉え方をするのだと勉強になった。

一方で、彼らも辛いことがあると話してくれた。番組に出るたび、舞台に立つたび、毎回面白いこと、人目を引くことを言わなければいけないのに、そんなに人生で面白いことばっかりが起きるわけがない。大御所になれば別なのかもしれないが、若手のうちはとにかくチャンスが来た時に面白いエピソードを言えることが大事で、そのネタを探すのに毎日必死で面白いことを探さないといけないと言っていた。そうなるとそのうちに小さなネタなのだけれど、上手に”盛って”面白いことに仕立てていくという手法を学ぶのだという。

私がこの時感じたのは、たまたま体験したものを自分の好きな時に話していい素人と違い、プロの世界は定期的に安定的にパフォーマンスを発揮する必要があるということだ。最近、同じことをメディアという業種にも感じる。つまり世の中にインパクトのあることがばんばん起きるわけではない中で、毎日、または毎週、発行や放送しなければならない構造上の難しさがあるのではないかと思う。芸人さんは自分で話を作っても誰も検証しないが、メディアは当たり前だけれど厳しくそれを追求される。

世の中は刺激になれる。前以上の刺激を求め続ければどんどん過激になっていく。9/11のあとに、不謹慎な話しだけれど、これから先何をやっても映像的なインパクトはあれに勝てないだろうなと話しているメディアの方がいたが、それもわかる気がする。本当は他愛のない日も、刺激的な日も両方をみんなが楽しめればいいけれど、人間はそういう風にはできていないのだろう。三浦梅園の言葉がふと頭に浮かぶ。

枯れ木に花咲くを驚くより、生木に花咲くを驚け 三浦梅園

為末大 HP より)

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この記事を書いた人
為末大スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役

1978年5月3日、広島県生まれ。『侍ハードラー』の異名で知られ、未だに破られていない男子400mハードルの日本 記録保持者2005年ヘルシンキ世界選手権で初めて日本人が世界大会トラック種目 で2度メダルを獲得するという快挙を達成。オリンピックはシドニー、アテネ、北京の3 大会に出場。2010年、アスリートの社会的自立を支援する「一般社団法人アスリート・ソサエティ」 を設立。現在、代表理事を務めている。さらに、2011年、地元広島で自身のランニン グクラブ「CHASKI(チャスキ)」を立ち上げ、子どもたちに運動と学習能力をアップす る陸上教室も開催している。また、東日本大震災発生直後、自身の公式サイトを通じ て「TEAM JAPAN」を立ち上げ、競技の枠を超えた多くのアスリートに参加を呼びか けるなど、幅広く活動している。 今後は「スポーツを通じて社会に貢献したい」と次なる目標に向かってスタートを切る。

為末大

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