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.国際  投稿日:2016/8/30

米中戦争は起こりうる その5 日本の決定的な役割とは


古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)

「古森義久の内外透視」

ランド研究所の報告書「中国との戦争」はもし米中戦争が起きた場合、その行方は日本の動きに大きく左右されると強調していた。その意味では日本は米中戦争のシナリオでは「決定的な要因」だともされていた。

同報告書はその日本の重要性について以下の具体的な諸点を記していた。

 

・米中戦争の際にはアメリカの同盟国、友好国の動きはきわめて重要となるが、なかでも日本の役割は決定的となる。日本が参戦した場合、とくに2025年近くまでの時期に展開される「長期で激烈」な戦争では日本の動向が米中戦争の勝敗を左右するほどの重みを持つ。

・米中戦争が長引けば長引くほど、日本の潜水艦、水上艦、戦闘機、ミサイル、情報・監視・偵察(ISR)の能力は米側にとって基本的な支援要因となる。日本はその種の広範な戦闘能力を今後、中期、長期に増強していくことが確実であり、中国軍にとっては日本への対処の負担が増し、アメリカとの戦争に悪影響をもたらす。

・中国側にとってアメリカと日本と両方の部隊と戦争を続けることが苦しくなり、逆にアメリカにとっては日米連合戦線で日本が米軍の消耗の埋め合わせをすることで負担が減り、攻撃能力が高まる。米軍は日本の支援を得れば、世界の他地域の部隊を中国との戦争に転用する必要が減り、グローバル 安全保障への懸念も少なくなる。

・中国軍は2025年ごろまでには年来の対米軍戦略の基本であるA2/AD(注1)の能力を大幅に高め、米軍の遠隔地からの兵力投入を抑え、対米戦も勝敗のつかない長期戦に持ちこむことができる見通しも強いが、日本の米軍全面支援は米中の均衡を変え、米軍を有利にし、膠着の見通しが減ることになる。

・中国は日本の参戦に対しては年来の反日傾向や領土紛争などから怒りを燃やす形で激烈に反発し、犠牲を覚悟しても攻撃を強め、増し、広げる可能性もある。だが対日戦の拡大は対アメリカ戦への兵力投入を減らしてしまうことが不可避で、米中戦争全体では結局は不利になる。

 

同報告書は短期、中期、長期の米中戦争での経済、政治、外交など非軍事面での損失を数量的に示しているが、日本が全面参戦した場合の中国側の経済成長や貿易活動の損失はアメリカだけが相手である場合にくらべ、顕著に多くなり、中国内部の混乱や反乱などをもたらす確率を高めるとも予測していた。

以上のような日本に関する数々の指摘の中でも、米中戦争が尖閣諸島をめぐる日中の対立から起きうるという点、そして実際に戦争が起きた際、日本の参加は避けられないという点、さらには長期で大規模な戦闘継続の場合、日本の役割が米中戦争全体の行方を決めるほど大きいという点など、現在の日本にとって真剣な考慮の対象だといえよう。

同時に米中両国の関係が表面は経済交流などで協調的、友好的にみえても、水面下では厳しい対立の領域が存在し、アメリカ側ではその対立の危険性を直視して、最悪中の最悪の事態だといえる米中戦争までを想定するという現実的な姿勢も日本への指針となるだろう。

(注1)A2/AD

中国人民解放軍の軍事戦略 Anti-Access/Area Denial 接近阻止・領域拒否 

 

(このシリーズ了。その4の続き。その1その2その3も合わせてお読みください。)

 


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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