NHK籾井会長の妄言〜日本のリーダーの対話力が低い5つの理由
田中愼一(フライシュマン・ヒラード・ジャパン代表取締役社長)
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私は憂いている。コミュニケーションを生業とするグローバルカンパニーの日本法人代表を務めながら、日々この国のリーダーの間で行われている対話や議論が、世界の百戦錬磨たちと対等に渡り合える水準に往々にして達していないと感じている。その場の対話の力学を理解し、読み、相手を動かす力、すなわち対話力が低いのである。
その一例として、去る2014年1月25日に行われたNHKの新会長会見は面白かった。リーダーの対話力を考える上で好材料を提供している。大なり小なり、多くの日本のリーダーたちが抱える問題点が見えてくる。このケースは日本のリーダーの対話力が低い5つの理由としてまとめることができる。
【1】 公と個の立場を使い分けない
従軍慰安婦に関する質問で、「コメントを差し控えたいがダメですか?」と言いながら、「どこの国でもあったことですよね」と個人的な持論を展開、売春宿を示すオランダの「飾り窓」のことまでボロボロと話す。飲み会の場であるならばともかく、リーダーが公式な場で発言する際は、公と個の立場を使い分ける事が対話力学の原則である。
【2】 現在の価値観や視点から判断されるという時制感覚がない
従軍慰安婦の是非を問われると、「(従軍)慰安婦が良いか悪いかと言えば、今のモラルでは悪いです」と発言、昔は良かったというニュアンスを残す。リーダーの発言内容はすべて今のモラル、価値観、視点など「現在の基準」から判断されるのが対話力学の原則である。
【3】メッセージを伝える自覚がない、対立の構図をつくる議論は御法度
記者が「戦争していた国すべてにそういう仕組み(従軍慰安婦)があったと?」質問すると、記者に対して「こちらから質問ですけど韓国だけにあったことだと思いますか?」と逆質問。日本と韓国だけでない、世界でもやっているということを匂わせる。記者に議論させる余地を与えてしまう。本来、逆質問の目的は、相手の考え方をもっと知るためか、話の方向性を変えるためか、更には、こちらの答えを考えるための時間稼ぎ。記者に議論をふっかける逆質問は相手の思う壺。マスコミは対立の構図をネタ化する。会見の目的はこちらのメッセージを浸透させること。記者との「議論」はそれを阻害する。これ対話力学の原則である。
【4】相手が見えていない、オン、オフのスイッチを自由に切り替えられると勘違いしている
「会長の職はさておき、ここは忘れないでくださいね」前置きをし、個人的な意見として韓国を批判。記者に「ここは会長会見の場」と切り返され、「じゃあ全部取り消し」と狼狽える。マスコミとの個別取材においてもオフレコは禁じ手である。ましてやテレビも入る公式記者会見で「会長職はさておき」が通用するなどと思ってはならない。これ対話力学の原則である。
【5】発信に対するリスク視点が欠如している
「取り消せないですよ」と記者の反撃に対して「しつこく質問されたから答えなきゃいかんとおもって答えましたが、取り消さないといわれたら、私の”さておき”はどうなるの、まともな会話ができない」と逆ギレ。会見は会話の場ではない。意見交換の場でもない。こちらの基本メッセージをしっかりと伝える場である。思っていることをそのまま発言することがコミュニケーションだと勘違いしている。言えば相手はわかってくれるという性善説に立っている。発信に対するリスク視点がない。発信したことの99%が誤解、曲解されるという性悪説に立つことがリーダーの対話力学の原則である。
日本のリーダーの対話力は低い。これを上げていかないと、グローバル化が進む中で、世界と対等の、あるいはそれ以上のコミュニケーション能力が求められる日本の成長、発展はない。日本の国も、日本の企業も、日本人も対話力学に基づいて対話力を身につけることが急務である。NHK会長の妄言を「他山の石を以って玉を攻むべし」(詩経)としたい。
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