日米関係、直ちに影響なし トランプ大統領で 阿達雅志参議院議員
「細川珠生のモーニングトーク」2016年11月12日放送
細川珠生(政治ジャーナリスト)
Japan In-depth 編集部(坪井映里香)
アメリカ大統領選挙が終わり、ドナルド・トランプ氏が次期大統領に決まった。与党自民党の外交部会長、阿達雅志参議院議員をゲストに迎え、アメリカ大統領選挙、そしてその結果が日本に与える影響について聞いた。
まず、トランプ氏が大統領に選ばれたことについて、阿達氏は、「非常に驚きだった。」と感想を述べた。しかし8月、9月の時点で、ひょっとしたら、と思いはじめたという。それは、多くの人たちからのバッシングがあれだけあったにもかかわらず、共和党の指名争いを生き残り、そして民主党と戦っても支持が衰えなかったという事実からだと述べた。
「今までとは何か違うことが起きている。アメリカ自身すごく大きなことが起きているのではないか。」との印象を抱いていることを明らかにした。阿達氏は、民主党側も指名争いの段階で、本来ならばヒラリー・クリントン氏がダントツで勝たなければいけないところ、バーニー・サンダース氏と最後まで熾烈な指名戦いを繰り広げた。そして共和党においては、本命候補が次々と撤退し、トランプ氏が指名を獲得。トランプ氏の当選が本当に実現するかというと、「3割がいいとこ」と思っていただけに、驚きが隠せなかったと阿達氏は語った。
結果を見ると、オバマ政権の8年間あるいはその前から国内の不満があり、それが最大勢力になったという見方もできる。これまでの政治のやり方にはNOをつきつける、そんな結果になったのでは、との見方を細川氏は示した。それに対して阿達氏は、オバマ大統領が大統領になった8年前と比較する。「アメリカ社会で、8年前アフリカ系アメリカ人が大統領になるということはあり得ないことだとみんな思っていた。当時のアメリカの人はCHANGEを求めていた。それだけ社会に不満があったということ。」と振り返った。ところが、「オバマを大統領に選んだ熱気というのがこの8年間の間に完全に逆になっている。」と指摘。オバマ大統領は、後半非常に評判が悪く、結局何も決められない何も変わらない、と国民は失望したとの見方を示した。
しかしその失望の矛先は、オバマ大統領や民主党にだけではなく、上院下院両方において多数派を占めていた共和党にも向かった。つまり、与野党両方に対する怒りが国民の間で広がった。そのことで、政治の世界に全くいないトランプ氏という人を引き上げた結果になったということだ。
その怒りの背景として考えられるのは99対1と呼ばれる、アメリカの格差社会。そして「リーマンショックの後遺症」だと阿達氏は指摘した。「失業率というのは仕事を探している人でカウントするが、仕事を探すことすらあきらめてしまった、本来ならば働けるはずの世代の人たちが働いていない」のが現在のアメリカ社会であると阿達氏は指摘した。
過激な発言を続けていたトランプ氏が大統領になったことで、「日米関係は大事と言いながら無理難題を突きつけてくるのでは。」と細川氏が懸念を示すと、阿達氏は、「私はそんなに悲観的な見方はしていない。」と答えた。その理由として、「選挙に勝つということとこれから政治をやるというのは全く違う。」と述べた。
また阿達氏は、トランプ氏が「選挙に勝つためにまわりの優秀なスタッフを一般の有権者に見えないようにしてきたと思う。」と述べた。今まで影を潜めていた「知恵袋」の人たちが今後ホワイトハウスや各役所に入ってくることになる。彼らの存在は大きい、と阿達氏は述べた。
また、トランプ氏の今までの発言は、「彼自身があまり理解をしていない」こともあるのではと阿達氏は指摘した。その中で、彼がクリアなメッセージとして言ってきたのは、「日米関係はきわめて大事」というメッセージだという。細かな発言にぶれはあっても、ここに関しては「すぐに大きな変化を起こすほどのぶれはない。」と述べ、日米関係に大きな変化がすぐに起こる可能性は低いとの見方を示した。
細川氏も、オバマ大統領も就任当時は日中韓の違いがよくわからなかったが、勉強しているうちにそれぞれの違いがよくわかった、という話をアメリカの人から聞いたことがあると述べた。また、トランプ氏が最初に演説でTPP反対だといった直後、なぜ反対したのか聞かれたときに、TPPに中国が入っていると思っていたといったエピソードも紹介した。
トランプ氏は、TPP反対の姿勢を明確にしている。就任した時に破棄するという発言もあった。そんな中、日本は今週、TPP関連法案が衆議院本会議を通った。30日後には国会で自然成立するということで、承認はほぼ決まったと言ってもいい。アメリカの次期大統領が反対しているのになぜ日本はそんなにも急ぐのか、といった世論もあるが、それに対し阿達氏は、「日本がまずTPPをアメリカが入ってきさえすればいつでも発効できるようにしておく、というのは非常に大事。トランプ氏自身がこれから考えを変える可能性も十分あるし、変える後押しをするためにも日本がしっかりTPPはやるという意志を示す。」との考えを示した。
トランプ氏はTPPだけではなく、NAFTA、FTAといった、自由貿易協定全般に不信感を示している。それは、自由貿易協定がアメリカの雇用減少とアメリカ経済の衰退を招く、と考えているからだが、「非常に短絡的に見ている面がある。」と阿達氏は述べる。今後大統領になり、考えを変える可能性は十分にあるという。
いずれにしても「やはり世界の安定、特にアジアの安定のためには日米関係は強固であるということは非常に大事なことだと思う。」と細川氏は日米関係の重要性を強調した。来週には安倍総理もNYで会談することが決まっている。日米関係の様々な懸案に対しトランプ氏がどのような発言をするか、注目される。
(この記事はラジオ日本「細川珠生のモーニングトーク」2016年11月12日放送分の要約です)
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この記事を書いた人
細川珠生政治ジャーナリスト
1991年聖心女子大学卒。米・ペパーダイン大学政治学部留学。1995年「娘のいいぶん~ガンコ親父にうまく育てられる法」で第15回日本文芸大賞女流文学新人賞受賞。「細川珠生のモーニングトーク」(ラジオ日本、毎土7時5分)は現在放送20年目。2004年~2011年まで品川区教育委員。文部科学省、国土交通省、警察庁等の審議会等委員を歴任。星槎大学非常勤講師(現代政治論)。著書「自治体の挑戦」他多数。日本舞踊岩井流師範。熊本藩主・細川家の末裔。カトリック信者で洗礼名はガラシャ。政治評論家・故・細川隆一郎は父、故・細川隆元は大叔父。