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.政治  投稿日:2017/1/14

自衛隊、オスプレイの空中給油能力を活用? その2


清谷信一(軍事ジャーナリスト)

オスプレイの選定時に空中給油の話が出ていたら、「厄介なこと」になっていただろう。空中給油を前提とするならば、既存のUH-60やCH-47など既存のヘリに空中給油機能を付加した方が、コストも圧倒的に安い。そもそもオスプレイは必要ないし、特にCH-47であれば、より多くの隊員、より大きな装備(車輛や火砲)も輸送することができるし、オスプレイ導入のための数千億円も必要なくなる。空中給油を行えば、航続距離の面でヘリとオスプレイの差は余りなくなり、オスプレイの利点は速度がヘリより早いということだけになる。

更に申せば、オスプレイにはヘリに劣っている部分もある。ヘリには機関銃やロケット弾などが搭載でき、対地制圧能力があるが、対してオスプレイはランプドアに機銃を搭載するだけだ。米軍では一部に機関砲を搭載したオスプレイが存在するが自衛隊には導入予定がない。無論オスプレイ部隊には攻撃ヘリも速度、航続距離の問題で随伴できないのでオスプレイ部隊はほぼ丸腰状態となる。しかもオスプレイのヘリモードでの降下は徐々に降下する必要があり、時間がかかる。また低空での機動性が低いので、敵の対空機銃やミサイルなどからの回避行動が殆ど取れない。このためオスプレイだけの部隊が敵性エリアに強襲をかけるならばヘリの何倍もの犠牲を出す覚悟が必要だ。

これが故に米陸軍航空隊はオスプレイを導入しなかった。オスプレイのみの部隊が強襲を行うのは敵から見ればカモがネギを背負ってくるようなものだ。多数のオスプレイが兵員を下ろす前に精鋭部隊共々撃墜され、数十から百名を超える戦死を出し、着陸した少数の部隊が各個確保撃されて作戦が失敗すれば、国内の戦意は大きく下がるだろう。

空中給油機能を使用した作戦を立案するとヘリと比較されることになり、オスプレイ導入の利点が弱くなる。そうなればオスプレイ導入という「政治目的」が達成できなくなる可能性が出て来る。しかも陸自と空自の間の給油の調整も必要となり「面倒臭い」。故に敢えて空中給油能力の活用に関しては議論がされなかったのではないか。

仮に防衛省が本気でオスプレイの空中給油活用を考えているのであれば、導入を決定する前に行われた調査で突っ込んだリサーチをしていたはずだ。そうであれば先のオスプレイの事故のときに空中給油の安全性に関して、もう少し突っ込んだ説明ができたはずだ。

DDH(ヘリ搭載護衛艦、事実上のヘリ空母)やおおすみ級揚陸艦などと一緒にオスプレイを使用する場合も想定されるが、その場合は作戦のための準備にも時間がかかる。また船の速度は当然遅い。この場合もオスプレイの速度がさほどアドバンテージになるとは考えにくい。

近い将来で陸自のオスプレイで空中給油を行う可能性があるのは、米海兵隊や空軍など空中給油機から給油を受けることだろう。それにしても空中給油に関するノウハウが必要であることには変わりがない。しかしこの場合、米軍が何らかの政治的、外交的な理由で「参戦」を見合わせた場合には空中給油を使う作戦は立案できない。このため自前で空中給油能力を保つ必要があり、米軍による空中給油はあくまで補完と考えるべきだ。また日米共同作戦に於いても、相互にオスプレイに限らずヘリにも給油ができれば大きなメリットになるはずだ。

筆者はオスプレイを導入するのであれば、念入りに調査をするべきだと主張してきた。その上で軍事的、予算的な整合性があり、それに加えて米軍のオスプレイ反対に対する説得材料として採用するのであれば、特殊部隊用として少数採用するべきだと主張してきた。

現在陸自の特殊作戦群を輸送する専門の特殊作戦航空部隊は存在しない。第一ヘリ団にパートタイム的に任務を行うUH-60Jの部隊があるだけだ。海自の特別警備隊用に掃海・輸送用のMCH-101の2~3機がその輸送用の装備を有しているがこれまた専用ではない。 

だが特殊作戦用の航空部隊は夜間を低空飛行するなどの高度かつ特殊な技量が必要であり、専用装備も必要で、片手間ではできない。島嶼防衛作戦ではまず、特殊部隊の潜入による偵察や情報収集が必要であるが、その兵力投射の手段を自衛隊は有していない。

これにオスプレイを使えばよい。他国の特殊作戦航空部隊では固定翼機とヘリを併用するのが常だが、オスプレイならばとりあえず固定翼機のC-130、ヘリではCH-47、UH-60の役割を1機種で済ませることができる。その場合は米海兵隊用のMV-22ではなく米空軍の特殊部隊向けのCV-22を選択することになる。機数は予備機をいれても5、6機もあればよい。中期防で調達される17機の三分の一の予算で済むし、しかも本来必要だが存在しなかった部隊を獲得できる。

防衛省は17機、あるいはそれ以上の調達を予定しているが、これには巨額の投資が必要であり、その予算は陸自航空部隊の弱体化を招く。17機でも当面3,600億円ほどの予算が必要である。しかもヘリよりも高い整備費用が必要なので、維持・運用コストは固定費となり、陸自航空隊の予算を大きく喰うことになる。しかも防衛省は「後何機買うかわからない」といっているのだ。

かつて500機はあった陸自のヘリ部隊は350機程度になるとされているが、なし崩し的にそれ以下に減らされるだろう。特に62機調達するはずの、AH-64Dが13機で打ち切られた調達の無様な失敗もあり、攻撃ヘリは旧式のAH-1Sはこっそり用途廃止が進んで、攻撃ヘリ部隊はなし崩しに壊滅するだろう。AH-64Dの機数は部隊の稼働機は数機にすぎず、実戦部隊と言える状態なく、単なる予算の無駄遣いとなっている。更に申せば既存のヘリ部隊の予算も削られ、訓練や整備が減らされて練度、稼働率も大きく落ち込むだろう。事実今でさえAH-1S部隊の搭乗員が草むしりをしている状態だ。

攻撃ヘリ部隊を全廃、あるいは廃止してその資源をオスプレイにつぎ込むというならば、賛否両論はあっても、それは一つの見識である。だが、陸自航空隊の将来の作戦構想と機種のポートフォリオ、稼働率なども考慮せずに、単にアメリカのご機嫌取りのために「高い玩具」を無分別に買うのは、多額の税金を投入してわざわざ自衛隊を弱体化させるだけである。

このような問題について、国会でも真摯な議論が行われず、またメディアも予算などの視点からオスプレイに関する報道を怠ってきた。オスプレイ賛成派も反対派もエビデンスや冷静な分析に基づかす、情緒による報道や神学論争を繰り返してきた。ぜひとも次期通常国会では自衛隊のオスプレイの給油問題、またオスプレイ導入自体の是非を議論して欲しいものだ。

(了。全2回。その1


この記事を書いた人
清谷信一防衛ジャーナリスト

防衛ジャーナリスト、作家。1962年生。東海大学工学部卒。軍事関係の専門誌を中心に、総合誌や経済誌、新聞、テレビなどにも寄稿、出演、コメントを行う。08年まで英防衛専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(Jane’s Defence Weekly) 日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関「Kanwa Information Center 」上級顧問。執筆記事はコチラ


・日本ペンクラブ会員

・東京防衛航空宇宙時評 発行人(Tokyo Defence & Aerospace Review)http://www.tokyo-dar.com/

・European Securty Defence 日本特派員


<著作>

●国防の死角(PHP)

●専守防衛 日本を支配する幻想(祥伝社新書)

●防衛破綻「ガラパゴス化」する自衛隊装備(中公新書ラクレ)

●ル・オタク フランスおたく物語(講談社文庫)

●自衛隊、そして日本の非常識(河出書房新社)

●弱者のための喧嘩術(幻冬舎、アウトロー文庫)

●こんな自衛隊に誰がした!―戦えない「軍隊」を徹底解剖(廣済堂)

●不思議の国の自衛隊―誰がための自衛隊なのか!?(KKベストセラーズ)

●Le OTAKU―フランスおたく(KKベストセラーズ)

など、多数。


<共著>

●軍事を知らずして平和を語るな・石破 茂(KKベストセラーズ)

●すぐわかる国防学 ・林 信吾(角川書店)

●アメリカの落日―「戦争と正義」の正体・日下 公人(廣済堂)

●ポスト団塊世代の日本再建計画・林 信吾(中央公論)

●世界の戦闘機・攻撃機カタログ・日本兵器研究会(三修社)

●現代戦車のテクノロジー ・日本兵器研究会 (三修社)

●間違いだらけの自衛隊兵器カタログ・日本兵器研究会(三修社)

●達人のロンドン案内 ・林 信吾、宮原 克美、友成 純一(徳間書店)

●真・大東亜戦争(全17巻)・林信吾(KKベストセラーズ)

●熱砂の旭日旗―パレスチナ挺身作戦(全2巻)・林信吾(経済界)

その他多数。


<監訳>

●ボーイングvsエアバス―旅客機メーカーの栄光と挫折・マシュー・リーン(三修社)

●SASセキュリティ・ハンドブック・アンドルー ケイン、ネイル ハンソン(原書房)

●太平洋大戦争―開戦16年前に書かれた驚異の架空戦記・H.C. バイウォーター(コスミックインターナショナル)


-  ゲーム・シナリオ -

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清谷信一

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