[為末大]もっとも結果が出る心理状態とは「夢中」であること〜高すぎるボーナスよりも「普通のボーナス」の方が結果が出る
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
◆もっとも結果が出る心理状態とは何か◆
1969年に行われたゴキブリを使った実験がある。
直線と複雑な道で、参加したゴキブリ一匹だけの条件と、たくさんのゴキブリに周辺を囲ませた条件、どちらが早くゴールに辿り着いたか? という実験。結果は直線であれば囲ませた条件、複雑な道であれば一匹だけの方が早かった。
行動経済学者ダン・アリエリーが行った実験でも似たような結果がある。幾つかのゲームを行い、成功した場合はそれに対し、
- 安い
- 普通
- かなり高い
というボーナスを割り振った。最も結果が良かったのは普通のボーナス。極端に高い場合はむしろ緊張でうまく結果が出せなかった。
幾つかの心理実験で明らかになっているのは、複雑な作業では、インセンティブが高すぎたり、社会的な重圧が高すぎると、パフォーマンスが落ちるというもの。では反対にどんな状態がいいのかと言えば、心理学者チクセントミハイの言葉では「フロー状態」と言われている。
「フロー」とは行為そのものに没頭しているような夢中状態の事。何か外的なインセンティブ(目的)に向かう時にはフローは生まれにくい。逆に目的がない状態の方がフローになりやすい。「夢中」とは、それをやっている事自体が目的になる事。
試合会場で「頑張れ!」と怒鳴られているチームは、勝負弱かったような印象がある。モチベーションが低い選手への「叱咤」は多少効果があるけれど、高い選手にはせっかく「夢中」に入る瞬間に目を覚まされるように見えた。うまくいきそうな選手に「負けたら大変だぞ」とわざわざコーチが言っているようなもの。
ハードルの授業では、どんどんと飛ばせて転んだ子にも気づかないぐらいぐるぐるまわす。そうすると転んでも誰にも気づかれないから子供達はどんどん高いハードルを飛ぶようになる。
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