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経済  投稿日:2017/6/10

【日本解凍法案大綱】22章 オーナーは少数株主に対してフェアに

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牛島信(弁護士)

「いい話?だんご屋さんのこと?」

「さてどうかな?

僕の頭のなかでは、あなたはそのダンゴ屋さんの株を49%持っているんだよ。配当は年に10万ぽっきりだ。

あなたのお祖父さんがダンゴ屋さんのお祖父さんのお兄さんで、弟がだんごの店を始める時に土地を借りる金が要るというので出資してあげた。だんご作りにはとても熱心な弟だったが、金の計算はからっきしダメで、お金を借りてもすぐに返せるかどうか自信がないなんて言うから、株にして儲かったら返せば良い形にした。そのときに49%の株で出資してやった。だからお祖父さんから相続したあなたが、今ではダンゴ屋の49%の株主なんだ。

だんご屋さんのオヤジさん自身が40%持っていて、妹さんが11%持っている。いっしょに店で働いている。もうおばあさんだ。オヤジさん夫婦とオヤジさんの妹で、目まぐるしい世間の動きからすっぽりと外れたような商いをしている。

おじいさんの代にはお礼の意味もあって、地代をしっかり払ってくれていた。ところが、借地権はゼロで始まったのに自動的に増えて行って、今では土地全体の価値の9割は借地権になっている。借地法が借地人に味方だからね。自然発生借地権という」

「そう。知っているわ。私の会社でも貸した土地は取られた土地だと三津田作次郎が言ってました」

「あなたは今の現実のあなたじゃない。仮にそうだったらという設定です。

金がなくて、しかも49%も株を持っているから、あなたが死ねば子どもたちにはどんでもない額の相続税がかかってくる。税務署が同族株主ということに分類してしまうからね。そういう立場の、子どもが3人、孫が5人の88歳のおばあちゃんという設定だ。」

「あら88。大変」

「オヤジさん夫婦は会社から大した給料をとらない。妹にもさして払わない。兄夫婦と妹、父親のだんご作りを守ることが自分たちの使命だと思って生きている。だから内部留保が少しずつ溜まっていく。土地の値段がバカ高いこととダンゴの値段は何の関係もない。

その結果は、たくさんのお客さんが銀座で安くて美味しいダンゴを買って帰って、家族団らんで食べるのを楽しみにしているっていうことだ。

橘曙覧の世界だね。『楽しみは 妻子(めこ)むつまじく うちつどひ 頭(かしら)ならべて ものをくふ時』と歌っている。お店には客が引きも切らない。

好い話だろう?

でもそのコインの裏側にあるのが、49%の株主は無視されたままという厳然たる事実なんだな。オヤジさんには自分の40%と妹の11%のためなら対策を打つ動機がある。大変な額の相続税になるだろう。会社がなくなっては困るからね。事業承継というのは、よく話題になる。

しかし、少数株主の株など知ったことではない。

「あ、大日本除虫菊!」

「そうだ。頭の良いオーナー会長さんだね」

「私、不動産賃貸会社のオーナーですもの。他人事ではありません。

きっとそのダンゴ屋さん、フーテンの甥がいるんでしょう?」

「フーテンの甥か、まるで寅さんだね。なんだか自分が映画のなかの諏訪教授になって話している気分だ。寅さんの妹のさくらさんの亭主、博さんのお父さんだ。大学教授だった。『寅次郎君、歳をとると面白いことなんてなくなるんだよ』とでも誰かに話しかけたくなるような、そんな気になってくる」

「私、フーテンじゃありません」

「もちろん、違う。あれはスクリーンの上だけのヴァーチャルなものだ」

「でも、寅さんが久し振りに柴又に帰ってきたら、ダンゴ屋は影も形もなくなっていて、新しい巨大なビルの建設が始まっているのね」

「それでいいじゃないか。銀座ではなくても、もっと土地の安いところに移って、今度は100%自分の金で商売気のない、趣味のダンゴ屋をやる。犠牲になって影で泣く少数株主はいない。誰に遠慮もいらないさ」

「そうなのね。

向島の不動産賃貸業者も同じね」

「そうかもしれない。それは会社がそれぞれ決めることだ」

「僕の空想では、49%の株主である君の自宅に夜遅く電話がかかってくるんだ。

『もしもし、こんな深夜に申し訳ありません。私、鹿山建設の者でございます』って」

「あら、ゼネコンの?鹿山建設の方ならたくさん存じ上げてます」

「でも、部門が違うのさ、大きな会社だから」

「で、なんてその男は私に言うの?」

「男って、男と決め込んでいるのがちょっと悲しいけれど、でも確かに男なんだ。太い眉の下にぱっちりとした目のついた好青年だ。

『実は、大津様がお持ちの銀座だんご株式会社の株のことで、折り入ってお願いがあるのです』とくる。しかし、君にはなんことだかわからない」

「へえ、銀座だんごっていうのがだんご屋さんの名前なのね」

「うん、ダンゴは運慶って屋号で売ってるんだが、会社の名前は銀座だんご株式会社っていうんだ」

「なんだか面白そうなお話」

「鹿山建設の男の話はもっと面白い。

『大津様がお持ちの銀座だんごの株をお売りいただけないでしょうか』と来る。

『いえ、建設会社の者が申し上げているので、どうせとんでもない土地狙いで銀座通りの環境を破壊してでも金儲けをしようとしているんだろうと思われるかもしれませんが、これは違う話なんです』

と、誠実そのものの声で熱血青年が物語るのは、こういう話だ。

花椿通りの再開発をしている。地権者の協力で大きなビルになりそうだ。街区全体をおおうようなビルになれば、いろいろ特典がある」

「総合設計制度ね。知ってる。これでも不動産会社の会長だから」

「そうだね。

ところが、ダンゴ屋だけがどうしても協力してくれない。

『いえ、有難いお話ですが、私のところは今のままで結構です。お客様は、ご近所だけではなくわざわざ遠くからも来てくださる方もいらっしゃいます。仕事は自分と妻、それに妹の3人で、あとはパートの人で足りる。お金になぞならなくていいのです』

世の中のためと言ってもダメ。では金の話をと言うと、金は要らないという。土建屋さんも、金にものを言わせられないとなると喋ることがなくなってしまう」

「そうね。そうよね」

「でも、この店の占めている場所は、銀座の通りが立派な通りになって、日本で二度目のオリンピックを迎えるためにはどうしても必要なんだそうだ。そこをいっしょにしないと全体が生きない」

「なんだか、バブルのころの地上げみたいな話」

「細かくなった土地はいつの時代も同じだね。

鹿山建設のイケメン青年も必死だ。

『大津様がお金で動くなんて、これっぽっちも思っていません。でも、あそこを入れて再開発しないと、オリンピックに外国からお客様をお迎えするのに銀座に古い傷跡が残ったままになります』

そういわれると、確かにそうだ。あの店は昔造った二階家で、古めかしいところに独特の雰囲気がある。だんごの味も3割アップという雰囲気だ。でも、周囲とは調和していない。

「15億の土地、13.5億の借地権、49%の少数株、ね」

「そう。だから、鹿山建設の青年は憤りを隠せない。彼は公憤のつもりだ。

『今、お手元の49%の株は年に10万円の配当と承知しております。もしお売りいただければ、大津様に5億のお金が入ります』と言うんだな。

でも、君は金のために長い間持っていた株を売りたくはない。そう言うと、鹿山建設の青年は言うね、

『お金のためではありません。世界の銀座のためです。銀座通りの一角に借地権を持っている銀座だんごも協力すべきなんです。土地は地主が勝手にしていいものではなくて、みんなのためになるように使わなくてはいけない。

会社もそうです。過半数の株で支配しているからって、少数株主を無視するのは許されません』」

「おや、まるでどこかで聞いた台詞になってます」

「そうさ、鹿山建設の顧問弁護士は大木忠だからね」

「じゃあ、その人、『大木先生に相談してくれ』とでも言うの?」

「そのとおり。分かりが早い会長さんだ。大木先生の話を聞いてもらえば、大津様にもわかってもらえる、て青年は懇願するのさ。

君は大木に会う。金も悪くないが、世の中のためになるのとパッケージだからな、もっと悪くない。いや、とてもいい。

大木は、社団法人のことに触れる。同族会社ガバナンス協会だ」

「えーっ、やっぱり私はあなたに会うことになってるのね。嬉しい」

「そうだよ。そして、協力して、世界の銀座のためにできることをする。世のため人のためだからね」

「私、する!」

「ありがとう。

これは、おとぎ話だ。

でもね、僕は本気だ。非上場会社の少数株主が、譲渡承認請求すらできないばっかりに泣き寝入りしているのを助けたい。フェアな限り、なんでもやる。しかし、自分でフェアと信じられることしかしない。

本当は、これは道義的な問題じゃないんだ。法律の不備だ。非上場の少数株主に会社に対しての買取り請求権がないのがおかしい。そう思う。そこまで行かなくっちゃいけないと自分に言い聞かせることがある。

その立法が実現するのか、するとしてもいつのことなのか、僕にはわからない。でも、僕は明日のために木を植え続けていくつもりなんだ。僕の生きている間には、実のなることもない、大きな枝を広げて木陰を作ってくれることもないだろうけどね。でも、僕はその光景を胸にくっきりと頭のなかに描き出すことはできる。

誰かが、道義を実現するべきなのかもしれない。昔、有島武郎が農場を小作人に分け与えたように。

とにかく、法律論じゃない。なにがフェアか、だと思っている」

「フェアかどうか、ね。

では、ウチの会社のフェアな解決策はなんですか、社外取締役さん?

有島武郎って、自分の農場を小作人にただで上げてしまった人よね。ずっと年下の女性と心中しちゃった人。

あら、私たち、有島武郎のようになるの?

私、彼のように会社を他人にあげなくてはいけないの?」

「そんなことはない。

彼は妻を亡くしていた男だ。

会社を従業員に上げてしまうなんてのは、だめだ。お金を尊敬しない人は、しまいにお金に軽蔑されて暮らしに困ることになる。

そんなことより、先ず会社のフェアな評価を知ることだ。

それに、譲渡承認請求があったって、なにも拒否して買取りを背負い込むばかりが能ではない。他人が株主に入ってきても、いっしょになって経営を良くしていけばいいのさ」

「あなたのお蔭で、ウチには怖いことはなにもない」

「だったら、株主が誰に譲渡するのも自由なはずだ。

でも、それは現実的には解決にならない。非上場会社の少数株など買う人がいないからね。買う人がいないのは、買ってもフェアなリターンが期待できないからだ。

だから、配当が第一ってことになるね。配当が会社の評価の10%なら買う人もでてくるかもしれない。そうなれば、非上場の会社の少数株も少しは取引きが盛んになる。

なんだか、上場会社のコーポレート・ガバナンス論、そのなかでもROEの話に似てきてしまったね。

ま、稼ぐ力には限界があるけどね。それに上場会社ほど開示義務がないから、どれだけの人が買い手になってみようと思うものか」

「ダンゴ屋さんだと借地権が15億の9割で13億5000万。それの49%で6億6000万。10%の配当だと6600万」

「資産は配当には回せないから、少し事情が違う」

「でも、いずれにしたって凄い額。串に刺したダンゴを一本々々売っていたのでは無理かもね。

ウチだと、資産100億でもディスカウント・キャッシュ・フローでの評価だと50億っておっしゃたわよね。その49%は24億5000万円。その10%分の配当だと年に2億4500万円にもなってしまう。

とても無理。

49%分自己株買いをするとなると、それだけのお金が要る。ビルをいくつも売って、法人税をたくさん払うことになってしまう。

2億円の純利益。みんなの給料もなにもかも経費を除いて残るお金だもの、配当ならもっとできる。

半分で1億の配当。49%の少数株主に4900万払うことになる。

沙織叔母さんは12%だから1200万。それなら、できなくはないかも」

「ヴォワラ!」

「でも私にも5100万もの配当収入が入ってきてしまう。配当は総合課税で55%取られてしまう。会社に置いておけば30%の法人税で済むのに」

「難しいところだね。

少数株主の株を種類株に変えてしまって、議決権、つまり経営権はあなたが保持し続けるけど、あなたへの配当は少なくても済むようにするとか、なにか適当な方法がありそうな気がする。

そういう小難しいことは大木に相談してみよう」

「大木先生が直ぐに答えを出しませんように。

私、あなたにお会いすることができなくなると思うと、恐ろしいの。

会社のことで相談することがなくなったら、あなたはきっといなくなってしまう。こんなちっぽけな会社の社外取締役よりもっと大切な仕事のある方ですもの。

日本中があなたを待っている。

あなたはおっしゃった。新しい法律を作って、非上場会社の少数株主が会社に株の買取り請求権を持つようにしたいって。

それでなくても忙しい方が、そんなこともしなくてはいけないから、ますます忙しいのよね。

私、もっと若いときにあなたに会っていれば良かった。そしたら私はあなたの奥さんになっていたかもしれない」

「僕が初めの奥さんとは別れたことを忘れているのかな」

「いやっ。

いい。だって二度目の奥さんになるから」

「そういう人生はあり得たかもしれないね。でも、僕たちは68歳と63歳になるまで出逢うことがなかった。

今も昔も、若い人たちは青春を歌う。自分たちが200万年に及ぶ人類の長い歴史で初めて青春というものを発見したかのように。それが人類にとってどれほど陳腐な歌でしかないかということなど想像もつかないで、なんどもなんども繰り返し歌う」

「私も歌った歌よ。心を込めて歌った。

でも今は違う。

私は、週に一回、3時間だけあなたといる、その間だけあなたを独り占めにしていられる。それでいいの、十分に幸せ。この世のどこかに信頼できる男が生きていることが、女にとって一番の幸せ。いつもいっしょにいることができるかどうかは別のこと。愚かな夢を見て、なにもかも無くしたりしないくらいの分別はあるつもり。これでも、いろいろな経験をしてきましたもの。

いえね、あなたが男と女の関係に入ることを避けたのは分かっているの。それでいいの。私、不安だったの。自分を安心させたかった。あなたがいなくなってしまうんじゃないかって、心配で心配で。びっくりしたでしょう?

あなたがそういうことはしないんだと知って、かえって安心した。

でも、やっぱいなんだか怖い。

もしあなたが病気になって入院でもしてしまったら、私はあなたに会いに行けない」

「じゃ、入院している間は社外取締役を辞任できないな。オーナー会長さんが入院中の社取締役に緊急の相談に来る口実がなくなってしまうから」

「いやっ、そんなこと言わないで」

弾かれたような声を出して、目の前の高野にしがみつく。

(これは過去にもあったことだ。デジャビュ。一度ではない。男と女はいくつになっても同じことの繰り返しだ。200万年も飽きずに動き続けている回転木馬だな)

高野は黙って紫乃の体を包んだ両腕に力を入れながら、独り天井をにらんでいた。

(21章 「紫乃の忍びの舎(や)」の続き。23章に続く。初めから読みたい方はこちら) 

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この記事を書いた人
牛島信弁護士

1949年:宮崎県生まれ1975年:東京大学法学部卒業1977~1979年:検事(東京地方検察庁他)1979~1985年:弁護士(都内渉外法律事務所にて外資関係を中心とするビジネス・ロー業務に従事。)1985年~:牛島法律事務所開設2002年9月:牛島総合法律事務所に名称変更(現在、同事務所代表弁護士、弁護士・外国弁護士51名(内3名が外国弁護士)<専門分野>企業合併・買収、一般企業法務、会社・代表訴訟、ガバナンス(企業統治)、コンプライアンス、保険、知的財産関係等。

牛島総合法律事務所「少数株主対策チーム」 URL: http://unlistedstock.jp/

 

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牛島信

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