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.政治  投稿日:2017/10/6

幼児教育無償化に「?」 和田秀樹教授


「細川珠生のモーニングトーク」2017年9月30日放送

細川珠生(政治ジャーナリスト)

Japan In-depth 編集部

 

【まとめ】

・安倍総理が提唱する「幼児教育無償化」の効果は限定的。

・むしろ密度の濃い幼児教育や、幼児期に適応したカリキュラムの開発が必要。

・高等教育では、大学生の質の担保が全然できていない中、入学資格試験が必要。

 

先日解散された衆議院。安倍総理は「国難突破解散」と名付け、「消費税増税分の使途変更」などを争点に掲げた。安倍総理は増収分を「人づくり革命」の柱となる「幼児教育の無償化」などにあてるつもりだというが、その点について、政治ジャーナリストの細川珠生氏が、精神科医で国際医療福祉大学の和田秀樹教授に聞いた。

和田氏は、OECDが実施している国際学習到達度調査(PISA)において上位にあるフィンランドに視察に行った経験がある。フィンランドは、1クラス18人ほどの少人数教育、義務教育であったとしても基準点を超えなかったら留年という制度で、大学入学資格試験の存在などもあり、「出来が悪いまま社会に出さない」という姿勢だ、と和田氏は話す。

それは、「出生率が1.3だとしても1人当たりの生産性がよその国の2倍であるなら2.6並みだ、という考え方」が背景にあり、つまり、「出来がいい人が社会に出ることで1人当たりの生産性を倍にする」ということで少子化に対応していると解説した。

そのフィンランドが重視しているのは、「義務教育の時期」であるという。例えば、(先ほど言ったように)小学校で落ちこぼれを作らないために少人数制にするだとか、あるいはどうしても積み残しが出来た人にはもう1年補習をするだとかというやり方をしている。

安倍総理は増収分を幼児教育の無償化にあてるとしているが、それに対して和田氏は「幼児教育の無償化というのは確かに働くお母さん方が安心して働くという意味はあるのかもしれない。」とした一方、1クラスの人数を10人にするなど、密度の濃い幼児教育や、幼児期に適応したカリキュラムを開発する、といった将来の能力・学力を高めるための具体的な内容が盛り込まれていないことに対して、「ただ現行のままお金を放り込むということで幼児教育が人材を作る、国難突破につながるかというと疑問を感じる。」と述べた。

細川氏は、安倍総理の施策は幼稚園や保育園に分け隔てなく手当てするにすぎず、そこで何をやるのかという具体的な部分は触れられていないため、「いわゆる経済支援にとどまっている。」と指摘した。和田氏は改めて、幼児教育無償化を「少なくとも働くお母さんの味方にはなると思う」と評価する一方、「子どもたちの人材育成という効果は乏しいだろう。」と述べた。

無償化の議論の中で、高等教育無償化も議論されている。細川氏は、大学(学部・短大)進学率が平成28年度の調査で54.8%と過去最高を更新したが、同時に学生のレベルの低下を指摘する。大学改革の中でまず手を付けるべきはどこか、細川氏は和田氏に質問した。

和田氏によると、一部では大学の中で小学校や中学校で行う計算や英語のおさらいをしている現状があるという。推薦入試等の試験制度も多様化し、一般入試で入学する人は全体の半分といわれている一方で、今も日本の大学入試は大変なのでは、と細川氏が聞くと、和田氏は入試の実情について説明した。

和田氏は、「結局上の方の大学は相変わらず大変。」と、偏差値の高い大学の入試は変化していないとした。また医学部の人気が高いことをあげ、倍率の意味でも「大変」と表現した。

一方で和田氏は、大学は定員の倍ほどの合格者を出すため倍率が2倍に満たない約6割の大学は名前を書くだけで入れる、と述べた。つまり、「大学受験生の半分は推薦で残りの半分の6割が実質無試験だから、上の2割だけがちゃんとした試験を通して大学に入っているという状況」とした上で、「(細川氏の言う)大変だというのはそこの大学に入るのは大変だが、一般の大学生の質の担保が全然できていないという状態。」と述べ、大学生のレベルの低下の背景を分析した。

細川氏が改めて和田氏にどうしたらよいか質問すると、現在ある高校卒業程度認定試験より少しレベルが高いくらいの「大学の授業を聴くためにはこれくらいできていてほしいという試験は必要。」と和田氏はフィンランドのような大学入学資格試験の必要性を述べた。

教育改革は幼児教育から大学の高度な研究まで幅が広く、また、教育政策に限らないかもしれないが何かを変えるということは本当に大変、と教育委員をやっていた経験のある細川氏は述べた上で、どういう体制にすればスピード感がつくのか和田氏に質問した。

和田氏は、「僕は日本で憲法改正をするのであれば一番手を付けるべきは地方自治だと思っている。」と、地方に権限を移譲する方法を提案した。

例えばアメリカでは州によってカリキュラムが違い、教育をはじめとするいろいろな場面で「首長が相当な権限を持っている」という。また、うまくいった例があったらほかの地方もまねができるというメリットもあげる。地方が権限を持てば飛び級制度クラスのサイズを小さくする、逆に小中一貫教育を取り入れる、など様々なことが可能になるがそういうことが試せていない現状であるため、その点「単位を小さくする」ことが必要だと主張した。

同時に和田氏は、海外だと首長選挙の争点は医療・福祉・教育、とし、ブッシュ大統領もテキサス州知事時代の教育政策が成功した実績から大統領選挙に出たという例を紹介。海外においては教育政策を重要視している実態を指摘する。

和田氏は、「今日本人はノーベル賞をとっているから大丈夫と言ってもそれは20年前の日本人が優秀なのであって今の日本人が優秀なことにはならない。」と、「教育力が10年後20年後の国力につながる」という考えを示した。実際、学術論文の引用数も減っているところを鑑み、もっと危機意識を持った方がよい、と警鐘を鳴らした。

細川氏は今回の選挙について、「私たちは有権者として各党の教育政策を読み込んで考えて判断をすることが大事。」と述べた。

 

(この記事はラジオ日本「細川珠生のモーニングトーク」2017年9月30日放送の要約です)

「細川珠生のモーニングトーク」

ラジオ日本 毎週土曜日午前7時05分~7時20分

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トップ写真:©Japan In-depth 編集部


この記事を書いた人
細川珠生政治ジャーナリスト

1991年聖心女子大学卒。米・ペパーダイン大学政治学部留学。1995年「娘のいいぶん~ガンコ親父にうまく育てられる法」で第15回日本文芸大賞女流文学新人賞受賞。「細川珠生のモーニングトーク」(ラジオ日本、毎土7時5分)は現在放送20年目。2004年~2011年まで品川区教育委員。文部科学省、国土交通省、警察庁等の審議会等委員を歴任。星槎大学非常勤講師(現代政治論)。著書「自治体の挑戦」他多数。日本舞踊岩井流師範。熊本藩主・細川家の末裔。カトリック信者で洗礼名はガラシャ。政治評論家・故・細川隆一郎は父、故・細川隆元は大叔父。

細川珠生

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