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.国際  投稿日:2023/7/26

米中新冷戦とはー中国軍事研究の大御所が語る その6(最終回)日本の「悪魔化」とは


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・中国の台湾攻撃のレッドラインは「台湾独立」と「米軍駐在」。

中国、日米分断狙い、『日本悪魔化』プロパガンダを世界に宣伝。

・防衛力、抑止力を異次元にまで高めることは日本に欠かせない対策。

 

古森義久――中国が台湾に軍事攻撃をかける可能性についてはどうみますか。

マイケル・ピルズベリー 「習近平主席が台湾の態度、アメリカの動向などをみて決めるということでしょうね。ただしアメリカや台湾が中国の反対することをここまですれば、習近平主席は軍事攻撃に踏みきるかもしれないという一線がいくつかあります。

中国にとってのいわゆるレッドライン(赤い線)です。

その一つは台湾独立、あるいは『一つの中国』原則の完全な無視でしょう。そんな事態が起きれば中国側は軍事力の行使を考えざるをえないと判断する確率が高い。

もう一つは台湾にアメリカ軍が駐在するという事態です。最近、バイデン政権内部からの情報リークで、実は台湾には小規模の米軍部隊が駐留しているのだ、という話が流れました。私はこの話は本当だと思います。その駐留米軍の規模はさらに大きくなるという情報も聞いたことがある。この事態も中国にとってはレッドラインになります。きわめて気になる点です」

 ――いまやアメリカに対して新冷戦を挑む構えになった中国は日本をどうみているのでしょうか。

「近年の中国は日本を極端に敵視する傾向があるといえます。私の著書100年のマラソンでも書きましたが、中国は日本を『戦前の軍国主義の復活を真剣に意図する危険な存在』として宣伝する工作に手をつけました。『日本悪魔化』とも呼べるプロパガンダ工作です。

この工作はアジア諸国と日本国内をも対象とするといえます。その狙いは日本がアメリカの主要同盟国として安保と経済の大きな柱である現状を突き崩すことでしょう。

日本を悪魔のような存在として描き、その負のイメージを国際的に、アメリカに、さらには日本国内に向けても投射する、というわけです。つまりは日米分断の試みともいえます。

この『日本悪魔化』戦術の一貫として私は中国側文献のなかで以下のような記述をもみたことがあります。

『日本の首相の靖国参拝は中国への再度の侵略への精神的国家総動員のためなのだ

日本の宇宙ロケット打ち上げはすべて弾道ミサイル開発のため、プルトニウム保有は核兵器製造のためだ

いずれも事実ではないことは明白ですが、なにも知らない他の諸国の人たちが聞けば、信じるかもしれない宣伝です。こんな日本非難が中国共産党指導層内部で堂々と繰り返されているのです。

その発信役はおもに『白鷹』と呼ばれる党や軍の強硬派ですが、そのメッセージ自体は共産党全体の発信だと解釈してよい。日本側はこの種の有害なプロパガンダを取り上げて、正面から論争を挑み、正すべきでしょう」

 ――しかし日本側でも最近は中国の言動を危険とみなし、その抑止のために防衛費を増して、日本独自の反撃能力を含めて防衛力を高める、とか、日米同盟をより堅固にするという動きが活発となりました。

 「きわめて健全な動きですね。中国の脅威を客観的に認識して、その軍事チャレンジを抑えるための防衛力、抑止力をこれまでとは異なる次元にまで高めることはいまの日本には欠かせない対策でしょう。

この面で私自身の考察として貴重な貢献があったと思えるのは安倍晋三政権で国家安全保障局長を務めた北村滋氏、さらには同局次長の兼原信克氏です。日本にとっての中国の危険性を理解して、そのための適切な防衛措置をとることを推進した人たちだと思います。

また私の旧知だった産経新聞社社長の故・住田良能氏もワシントン特派員時代から記者として、さらに編集局長などメディア経営者として、中国の実態をより多くの日本国民に知らせることへの大きな寄与があったと思います。この機会にこれらの方々への敬意を表したいと思います」

(終わり。その1その2その3その4その5。全6回)

**この連載は月刊雑誌「正論」8月号掲載のインタビュー記事「米国の過ちは抗議だけで対中政策を変えなかったこと」の転載です。

トップ写真:韓国と米国は同盟70周年を記念して合同実弾演習を実施(2023年5月25日 韓国・抱川、スンジン消防訓練センター)出典:Photo by Chung Sung-Jun/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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