[宮家邦彦]<集団的自衛権>国連憲章上主権国家であれば当然の権利〜今更その是非を議論する実益はない[外交・安保カレンダー(2014年6月30-7月6日)]
宮家邦彦(立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表)
今週は再びワシントンに来ている。今頃東京は集団的自衛権をめぐる議論で大騒ぎだろうが、ワシントンでは一部の「アジア村住民」を除き殆ど議論になっていない。国連憲章上主権国家であれば当然の権利、今更その是非を議論する実益はないからだ。その意味で、日本での議論は重要かつ必要だが、若干「周回遅れ」の気がする。
毎回痛感することだが、ワシントンはこのところ内向きだ。オバマ大統領は周辺国に対し、「未成年者を一人で密入国させるようなことは止めて欲しい」と発言。違法移民のまま米国に数十年間滞在し米社会で立派に成功した人々がカミングアウトしては米国の移民政策の矛盾を問うている。形は違っても過去何度も繰り返された光景だ。
ところで、オバマ政権はイラクのマリキ政権を見限ったのか。同首相が退陣しない限り、米国は本格的な軍事支援を控えるだろう。それどころか、仮に政権が代わっても、米国の軍事的関与は最小限となる可能性が高い。現在投入されている特殊部隊はバグダッド陥落を回避しつつ、万一の際に官民米国人を退避させるためのものだと考える。
ちなみにISISは再び改称し、今やIS(イスラム国)と名乗っているそうだ。彼らの理想の政治体制が「正統カリフ制」だとしたら、これが長続きするはずはない。シリアは勿論、イラクでも世俗主義は生活の一部。ISが求める禁欲的生活が一般民衆に定着するとは思えない。当面ISの勢いは止まらないが、その限界は意外に近いのでは。
筆者が今週注目するのはイランと北朝鮮をめぐる協議だ。ウィーンではイラン核問題協議が、北京では日朝政府間協議がそれぞれ開かれる。
前者はイラクをめぐる米イラン実質対話が同時並行で内々進むだろうが、核協議自体は前進しない。交渉期限の延長でお茶を濁すと思われるが、イスラエルにとっては気が気ではなかろう。
日本にとっては拉致問題の方が重要だが、北朝鮮は対日国交正常化協議を行うつもりだ。小泉政権時代の様々な経緯もあるので、劇的な進展を期待すべきではない。米韓など関係国との協調は一見面倒だが、長い目で見れば拉致問題の早期解決に資するだろう。その意味でも北朝鮮側の動きには目が離せない。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
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