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.社会  投稿日:2014/7/7

[渡辺裕子]<デュアルなワークスタイルが地域を変える>鎌倉に拠点を持つIT企業プロジェクト「カマコンバレー」


渡辺裕子(一般社団法人G1サミット 事務局長)|執筆記事

 

毎月第3木曜日、夜7時。鎌倉某所のミーティングスペースに、起業家たちが続々と集う。この日は110人が訪れ、鎌倉市長の姿も見える。鎌倉に拠点を持つ企業の共同プロジェクト「カマコンバレー」の定例会の風景だ。

カマコンバレー定例会風景トリム

前月の活動報告が終わると、新たな5つのプロジェクトの発表が始まる。いずれも鎌倉を活性化するためのアイディアで、鎌倉在住の海洋冒険家・白石康次郎氏もその一人。発表が終わるや、早速ブレストが始まる。参加者は興味を持ったプロジェクトチームに加わり、「何ができるか」「こうすれば実現できるのでは」と意見を交わし、プロジェクトが走り出す。ここでは、すべてが「自分ごと」になる。

キーワードは「シェア」「コミュニティ」

2013年、カヤックやランサーズなど鎌倉に拠点を置くITベンチャー企業7社が「鎌倉をより熱くしよう」と立ち上げた「カマコンバレー」。この活動から生まれたベンチャー企業のひとつmicrostay株式会社は「一週間だけ暮らす場所を変えてみる」をコンセプトに、別荘や住宅の空き物件を利用し、地域での暮らしを1週間提供するサービスを展開する。

カマコンバレーから生まれたプロジェクトは、鎌倉市限定クラウド・ファンディング「iikuni」を使って、インターネット上で資金を調達することができる。鎌倉五山・建長寺と組んだITクリエーター合宿「禅HACK」や、世界的に流行している音楽動画「HAPPY」鎌倉版の制作など、新たな取組が次々と生まれている。鎌倉という地域が中核となり、起業家たちが人脈やノウハウをシェアしながら、コミュニティを活性化していく。

ベンチャー企業は「競合」から「共創」へ

しかし、そもそも競合であるはずのITベンチャー経営者同士が、なぜ手を携えているのだろうか。

yanasawa「だって自分たちが活動する地域だから。それを良くしたら、きっとお互いにメリットがあるよねって」と発起人の1人面白法人カヤック代表・柳澤大輔氏は語る。「あとはまあ、単純にみんなで仲良くやったほうが楽しいからですね(笑)。そういう人たちが集まっている地域だと思うんですよ、鎌倉は」。

自分たちの持つITの知識やツールを、地域に還元する。面白い仲間を、この土地に増やす。そして、もっとワクワクする仕事を「共創」していく。「カマコンバレー」から新たなベンチャーが生まれ、成長することは、鎌倉のためになる。コミュニティが活性化し、鎌倉に拠点を移す企業が増えれば、生態系が生まれる。それは長期的に見れば、自社にとってもプラスになる。鎌倉にあるのは、「競合」ではなく「共創」のためのコミュニティだ。

「デュアル」なスタイルが地域を変える

では、なぜ鎌倉なのか。「東京が通勤圏内でありながら、豊かな自然と食と文化がある」とある参加者はいう。「早朝に起きて仕事を片付け、サーフボードを持って海に行く。都内で打合せを済ませ、夜は鎌倉野菜を使った料理とワインを楽しむ。都内にいた頃には、ゆっくり見ることもなかった空の色や季節の移り変わりを、鎌倉で楽しんでいます」。

もともと東京在住だったが「子育てをする環境は東京ではない」と鎌倉への移住を決めた人もいれば、鎌倉と東京の両方に住まいの拠点を持ち、週末は鎌倉で過ごす人もいる。都市での生活と、地方での暮らしを使い分けている。

複線化する価値観を楽しむ人たちが集い、デュアルなワークライフスタイルが地域を変えていく。そこにあるのは、ひとつの会社に帰属して毎日通勤電車に乗り、「会社」と「家庭」というコミュニティしか持たない生活とは、まるで違う価値観だ。会社と個人が交差する「地域」というコミュニティを自分たちでつくり出す。賛同する人たちが集まり、社会を変えていく。鎌倉では、そんな動きが起こっている。

 

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【執筆者紹介】

渡辺裕子渡辺 裕子 (わたなべ ゆうこ)

一般社団法人G1サミット 事務局長

グロービスで日本版ダボス会議「G1サミット」を立ち上げに参画、プログラム企画統括のかたわら、地域・コミュニティ・ワークスタイルをテーマに活動。面白い人と取組みに魅せられ、組織と個人の間をフラフラ歩き、あちこちの街で仕事中。

 

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