<「アナと雪の女王」大ヒットを支える共感重視世代>普段プリンセス・アニメを観ない男子の多くが鑑賞
大平雅美(アナウンサー/大正大学客員准教授)
1937年『白雪姫』に始まるディズニー・プリンセス。白馬に乗った王子様を描いて以来、77年の時を経て最大の奇跡が訪れている。
日本では3月に公開され現在も映画興行収入、観客動員数ともに躍進中『アナと雪の女王』(以後「アナ雪」と省略)、国内歴代興行収入は現在、『千と千尋の神隠し』『タイタニック』に続き3位。観客動員数は1906万人(6月29日現在)で「タイタニック」をおさえ2位。全世界興行収入は5位。アニメーション映画としては世界1位である。
経済紙が大きく報じるほど社会現象になっているのは今更いうまでもない。知らず知らずのうちに歌を口ずさんだり、髪型を真似したり、アナ雪ネイルをした女性達も多くSNSはその類の画像であふれている。ディズニー・プリンセスに連なる「アナ雪」が人々を惹きつけた要因は何か、歴代プリンセス・アニメとどこが違うのかジェンダー的視点で探ってみよう。
まずこれまでの歴代ディズニーアニメの興行収入トップ10の1位「トイ・ストーリー3」(2010)、2位「ライオン・キング」(1994)、3位「ファインディング・ニモ」(2003)、4位「カールじいさんの空飛ぶ家」(2009)と続き、9位「アラジン」(1993)でやっとディズニープリンセス、ジャスミンの登場である。さらにハリウッドアニメでは「シュレック」「アイス・エイジ」「カンフーパンダ」などが上位を占め、プリンセス・アニメの「アナ雪」は過去を例にとれば大ヒットは難しかったはずである。
ところが今回は違った。その理由を私は公開の早い段階で確信していた。それはこれまでプリンセス・アニメに、ほぼ興味を示さなかった男性客の動員である。
大学の講義が始まった4月の始め。私は自分のクラス(「映像と社会」他)の学生約100人に「アナ雪」を鑑賞したかどうか尋ねた。するとその時は約2~3割くらいの学生が挙手したが、いつもと違ったのは男子学生が目を輝かせ手を挙げたことである。
感想を尋ねたら「ディズニーの王道」と言う学生と「Wヒロイン設定や恋愛ものではない革新的な作品」と両極端の意見が出たので、この作品はいけると思った。そこで6月学生アンケート調査を実施した。
結果は次の通りである。男女大学生(109人)中、「アナ雪」を鑑賞した人48.6%(53人)、複数回鑑賞は22.6%(12人)、学生の半数が観ていることも驚きだが鑑賞した人の4.5人に1人は複数回観ていることになりリピーターの多さも今回のアニメの特長である。(参考:民間の調査機関が男女2000人に行った調査では「見た」17.5%)
しかしこれはプリンセス好きな女子学生が数字を上げているのではないかと指摘されそうだがそうではない。共学男女72人に行った調査で男女別に数字を見ると女子学生41.9%、男子学生41.4%が「鑑賞した」でほぼ同数である。普段プリンセス・アニメを観ない男子が女性とともに多く映画館に足を運んだことも分かった。
男子学生が安心して女性と観に行ける要因として、
- 結末がウエディングベルではない
- 主軸は姉妹愛や絆である
- 普通の男性にも様々な可能性が認められている
、、、等が考えられる。
先ごろ厚生労働省が発表した20歳代の独身男女の結婚観に関する調査で「結婚したい」と考えている女性の割合は7割を超え10年前より6ポイント上がり75.6%、しかし男性は61.9%と前回調査からほぼ変化がなかった。厚労省は「結婚により経済的安定を得たいと考える女性が増えているのでは」と分析している。
大学生にとって結婚はまだ先の話のようだが、女性にとっては結婚願望を明らかにせず恋人よりも家族が大切と言い切ってくれた安心感があるし、男性にとっては恋愛に縛られない生き方と、自分のポテンシャルを認めてくれる安堵感がある。
「アナ雪」はディズニー初の女性共同監督・脚本であるが、女性の視点を生かすことで、誰にとっても共感が得られるストーリーが作り込まれている。男性監督だけでは成し得なかった優れたマーケティングの成果がここにはある。
姉妹愛や自己肯定、自己犠牲の精神を前面に出すことで、デリケートな結婚や恋愛といった部分をオブラートに包み、巧妙なラッピングが施されている。だからどんなに女性たちがWヒロインの外見を真似しようがプリンセスに憧れる夢見がちな女性と思われる心配はない。
現代的な男女の愛情表現を、魅力的な歌といっしょに家族の絆として紡いだ「新世代プリンセス・アニメ」。日頃映画館へ行かない若い世代の心をつかんだ要因がこのあたりにある。
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