<専業主婦では年金がもらえないフランス>なぜ、フランスでは80%以上の女性が働いているのか?
ulala(ライター・ブロガー)
先日、年金関係の仕事をしているフランス人の友人に、ふと思いついてフランスにおける専業主婦の年金はどうなるのか聞いてみた。すると、
「とんでもない。専業主婦は年金もらえないわよ。ちょっと前に来た女性にも、保険料を払ってないので年金は出ませんと言ったばかり。でもね、彼女は働いてなかったわけじゃないのよ。家でずっと職人の旦那さんを手伝ってきたの。だからもらえないと知って愕然としてたわ…。」
それを聞いた私の方も愕然とした。フランスでは、専業主婦に甘んじると老後は年金がもらえないのだ。 職人など自宅で仕事をしている人は、奥さんが仕事を手伝っているなら、本来なら労働者として申告しなくてはいけなかったのだろう。
しかし、もともと人を雇えるほど稼いでなかったから奥さんが手伝っているわけでそれが、表にでてきてない場合がある。実際そういう個人業の奥さんを何人か知っている。
家庭にいる主婦について調べてみると、子供を生んで育てることで保険料を払っていると数えられたり、年金とは別に補助が出る場合もあり、状況に合わせて多少はなんだかの支給があるようだ。 しかし、基本は働かなければ年金がもらえないのは事実で、専業主婦でも年金が支給される日本とは完全に待遇が違うことが分かる。
フランスでは、昔は女性の地位が低かった。男女の平等化が進んでいたヨーロッパだったが、「でもフランスを除いて」と言われていたほど。そんな世の中だったこそ、フランスの女性達は戦い、女性のライフスタイルでも不利にならないように働ける環境を手にいれ、現在80%以上の女性が働く国となった。
そこには、ただ単に「働きたい」と言う願望よりも、「働かなければいけない」という状況があったのだと思う。 フランス人女性に働く理由を聞くと、人それぞれではあるが、だいた下記の4タイプに入る場合が多い。
- 社会と繋がりをもちたい
- キャリアを上げて社会的地位をもちたい
- 家族を養うため。
- 働かないと、離婚などのリスクがあった時に窮地に落ちいる
1,2,3の理由は日本でもありえることだが、4は、まさにフランス人女性が働かなければいけない理由の一つだろう。
現在、フランスでは女性が働くのは普通というイメージがあるが、10年前ぐらいには「働くのを辞めて家に居たら?」と言う両親はまだまだいた。でもそんな両親にこう答えてきた女性達。
「何言ってるの?仕事をしなければ離婚などのリスクがあった場合に経済的に困窮するわ。そんな立場に自分の娘を追いやりたいの?」
以前、離婚後困った状況に陥った女性のドキュメンタリーが放送されていた。暴力夫からようやく離婚したものの、仕事もないし住む場所もないし頼れる家族もない。そこで乗用車に寝泊まりしながら子供を学校に通わせていたのだ。 この女性はまだ若く、テレビを見た視聴者から住居と仕事の提供があり、その後屋根のある生活ができるようになった。
しかし、同じことが60歳近くになって起こった時のことをイメージできるだろうか?考えるだけでも恐ろしい。そこには仕事もなく、年金もない老後が待っているのだ。
そう、一部の裕福な家庭以外では、フランスで専業主婦でいるとは大きなリスクとなり得る。働くことは自分の身を守るすべともいえるだろう。 そういったことも理由の一つとし、フランスでは女性が自立するためによりよく働ける環境を作り上げてきた。
その同時期に、日本では終身雇用体勢を固め、女性は家庭に追いやられている。でもその代わり仕事をしたくても子育てで仕事に行けない女性に対しても、老後に基礎年金が貰えるよう1986年に第3号被保険者制度が作られたのだ。
被保険者本人に支払っていたものを本人分と配偶者分に分けて給付されるため、家計に入る年金総額は変わらないが、専業主婦でも老後に自分の名義で年金をもらえることになり、お陰で日本人女性は安心して家事・子育てに専念することができた。
しかし、経済状態がよく、安定した夫の収入があった時期はそれでうまく行っていた日本も、失われた20年で状況は一変。 公的年金制度は2009年度以降、高齢化で膨張する年金給付を保険料や税金などで賄い切れない状態に。
そんな中、表面上不公平に見える第3号被保険者制度を段階的に無くしていくよう主張されるようになってきた。 一般世間の思い込みとしては「働いてない専業主婦が年金を貰えるのはおかしい」というのが主流だが、実際は、保険料はサラリーマンの夫が払っていることになっているし、しかも第3号被保険者の大多数はパートとして働いていてしかも年々増えてきている。どちらかと言うと、低い賃金でパートとして使われたうえ、厚生年金保険を会社が払わないなんて方が不公平かもしれない。
しかし、第3号被保険者制度を無くす本当の理由は、女性がもっと働くことで経済効果を促していくことだ。このシステムがあると「専業主婦の働く意欲を阻害」すると考えられたからだ。 要するにフランスの女性が置かれているような「働かなくてはいけない状況」ではないので、同じ状況にすべきだということなのだろう。
こうして見てくると、フランス人女性が戦ってきたように、日本でも女性が無理なく働ける社会を強く要求していくのは当然のことだ。周りの意識を変えていく努力をしていかなくてはいけない。それは、女性自身の身を守るためでもあるのだから。
【あわせて読みたい】
- <女性の6割が結婚と出産で退職する日本>子供を産んでもキャリアを継続けたい女性に必要な制度とは?(ulala・ライター/ブロガー)
- <モンスターママは悪くない?>母親たちはなぜ妊娠した幼稚園教諭を退職に追い込んだのか(木村映里・日本赤十字看護大学生・ライター)
- <男性の育児休業制度>遅々として進まない「男性の育児進出」は 同世代女性の社会進出と表裏一体(石川和男・NPO法人社会保障経済研究所理事長)
- <都議会セクハラ野次>当事者である女性が声を上げず・結束せずに、男性にばかり任せていてはいけない(安岡美香・コペンハーゲンIT大学 研究員)
- 社会で『活躍する女性/期待される女性』に“母親”は入っているか?〜母親の社会復帰に制限をかける「抑止力」〜(江藤真規・サイタコーディネーション 代表)