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.国際  投稿日:2014/10/27

【急増する中国の対ロシア投資】~日本版NSCの真価問われる~


岡部伸(産経新聞編集委員)「岡部伸(のぶる)の地球読解」

執筆記事

欧米の経済制裁の影響で、通貨ルーブルが最安値圏に沈むなど苦境に立つロシアは中国との経済関係を急速に強化している。中国商務省によると、1~8月の中国の対露投資額は前年同期の1・7倍に急増。極東や中央アジア地域への進出を目指す中国企業による対露投資が活発化している。

モスクワからの報道によると、欧米の制裁が続く中でロシアを訪問した中国の李克強首相は、10月14日、メドベージェフ首相と会談し、ロシア経済支援のため、40項目の経済協力に乗り出すことを表明。両国の中央銀行が金融市場の緊急時に自国通貨を相互に融通し合う「通貨スワップ協定」(期間3年、1500億元(約2兆6000億円)規模)を結び、米ドル依存を下げ、中国マネーがロシアの銀行やエネルギー企業を支援することになった。

ロシアが30年までに計画する総額100億㌦(約1兆700億円)の高速鉄道事業へも中国が参加し、技術を供与し、国有銀行が低利融資して最高速度400㌔の高速鉄道の実現を後押しする。5月に締結した総額4千億㌦(約43兆円)の天然ガスの輸出ではパイプラインを中露共同での敷設を加速させることを決めている。さらに次世代携帯電話も中国の華為(ファーウェイ)が技術協力して端末導入を促すことが決まっている。

旧共産主義陣営の中露両国は、かつて「兄」である旧ソ連(ロシア)が先端技術を「弟」の中国に教える「主従」関係にあった。しかし、近年における中国の経済成長によって、「弟」の中国が「兄」のロシアを資金や技術で支える逆転現象が起こっている。

人口減少が進む極東シベリアでは、国境を隔てる中国の技術、資本を抜きに立て直せない現実がある。クレムリンでは、こうした「主従逆転」を苦々しく受け止め、急速に中国との経済関係を強化する一方で、過度な中国依存を歴史的にも地政学的に深く警戒している。

そこでバランスを取るために日本に秋波を送り、関係強化に乗り出したというわけだ。ロシア大統領府筋によると、プーチン大統領は、疲弊した極東開発に、日本を参画させてシベリアの中国化を防ぐ意向がある。モスクワからの報道によると、ロシア政府はサハリンから宗谷海峡を経由して北海道をつなぐ海底パイプラインの建設を提案している。

ただしロシアが一枚岩で、平和条約締結のため対日関係改善を目指しているかと考えるのは早計だ。クレムリンには、中国を脅威と考え日本との関係を発展させたいと考える勢力と、アメリカの同盟国である日本がアメリカから離れて対露独自外交を行う可能性は低いので、日本との関係は冷却させたほうがよいと考えるグループが、暗闘を繰り返している。またロシア外務省は自分たちの任期中に北方領土問題を解決させることに消極的であるといわれている。

ウクライナ情勢でロシアが欧米に譲歩して軟化する可能性も低い。そんなロシアに再接近する日本にアメリカはじめG7諸国からの強い反発も懸念される。

ミラノで実現した日露首脳の非公式会談の会場には、日本版NSC(国家安全保障会議)の司令塔である谷内(やち)正太郎国家安全保障局長の姿があった。

プーチン大統領訪日に向けて中露関係をにらみ、欧米に配慮しながら岸田文雄外相の訪露などハイレベルの政治対話を続け、経済や安全保障とともに北方領土交渉を加速化させる対露外交をいかに進めていくのか。発足1年を迎えるNSCの真価も問われそうだ。

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