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.政治  投稿日:2014/11/23

[小黒一正]【対立軸は増税vs社会保障費抑制】~消費税率10%でも足りない社会保障費~


小黒一正(法政大学准教授)

「小黒一正の2050年の日本経済を考える」

執筆記事プロフィール

 

安倍首相は2014年11月18日、経済成長の下振れ懸念が強まったと判断し、消費増税の一年半延期を問うための衆議院の解散を正式表明した。

11月21日に衆議院を解散してしまったので、もはや誰も止めることはできないが、筆者は、増税の延期は将来に禍根を残す判断だと考える。もし1年半後の2017年4月に延期した消費増税が実施されるなら、まだ傷は浅い。しかし、将来の経済動向は誰にも予測がつかず、景気が低迷したときでも、本当に増税が実行できるのか疑問が多い。実際、今回は増税を延期しており、次が増税できるという保証はない。

それに1997年4月の増税実施(消費税率3%→5%)から、今回(2014年4月)の増税(消費税率5%→8%)が国会で決まるまで、17年もの時間がかかっており、政治の一寸先は闇である。実際、消費増税の延期が2016年4月でなく、2017年4月となったのは、2016年の夏には参議院選挙が予定されているからだろう。このため、リーマン・ショックや東日本大震災のような異常事態が起らない限り、再増税を延期することは賢明な選択ではない。

むしろ、増税を延期するなら、今回の総選挙の争点として、社会保障費の抑制に関する議論が出てこないのは不思議だ。消費増税の目的は「増大する社会保障費(年金・医療・介護等)に対応するため」であるとよく言われるが、近い将来に消費税率が10%になったとしても、それだけでは不十分だ。

というのは、社会保障制度を通じて国や地方から給付される金銭やサービスの総額を表す「社会保障給付費」は、2003年度の時点で約84兆円だったが、高齢化の進展により急増し、2013年度は約110兆円に達している。この10年の間には、伸びが約1兆円増の年度もあれば約5兆円増の年度もあるといった具合に「ばらつき」が見られるが、平均すれば毎年2.6兆円程度のスピードで膨張してきたことになる。これは、消費税1%の増税で得られる税収分と概ね同じであり、5%増税で調達できる財源=約13兆円は、ほんの5年ほどで食い潰してしまうからだ。

いずれにせよ、財政再建には3つの手法しかない。増税、歳出削減、経済成長の3つだ。この中で、痛みを伴わないのは経済成長による財政再建である。ただし、国民所得を拡大するために経済成長は重要であるが、経済成長に頼る財政再建はギャンブルである。そうすると、財政を再建するには、増税や歳出削減を進めるしかない。その際、歳出削減の中心は、急増する社会保障費の抑制になることは避けられない。つまり、再増税を巡る対立の本質は「増税 vs 反増税」ではなく、本当の対立軸は「増税 vs 社会保障費の抑制」という選択なのだ。

今回の衆議院・総選挙は12月2日公示、14日投開票だ。選挙は我々国民が一票を行使し、国の方向性を決める時であることはいうまでもない。もし増税を延期するのであれば、その間、社会保障の抜本改革を含め、徹底的な歳出削減が必要だ。以上の視点も含め、投票を行うことが望まれる。

 

略歴

小黒 一正(おぐろ・かずまさ)

法政大学経済学部准教授。1974年生まれ。京都大学理学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程終了(経済学博士)。1997年 大蔵省(現財務省)入省後、財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て、2013年4月から現職。財務省財務総合政策研究所上席客員研究員、経済産業研究所コンサルティングフェロー。鹿島平和研究所理事。専門は公共経済学。著書に『財政危機の深層 増税・年金・赤字国債を問う』(NHK出版新書、2014年)『アベノミクスでも消費税は25%を超える』(PHP研究所、2013年)『2020年、日本が破綻する日 – 危機脱却の再生プラン -』(日本経済新聞出版社、2010年)など多数。

 

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