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.社会  投稿日:2015/1/5

[熊坂仁美]【スマホ時代に求められる「新聞」の編集技術】~「要約力」が求められる時代の到来~


熊坂仁美(ソーシャルメディアプロデューサー)

執筆記事プロフィールTwitterFacebook | Blog

News Pics佐々木紀彦編集長の1月4日のポスト「2015年の予測メディア編」はWebやメディアの世界で今日本に起きていることの大きな流れがつかめるので関係者ならずともぜひ読んでおきたい記事だ。

https://newspicks.com/news/767057/body/

2015年5つの予測、なるほどと思うことばかりなのだが、特に以下の部分が私自身の経験と合致しているので紹介したい。

インターネットがスマホ中心になる「スマホシフト」が加速し、パソコン向けのコンテンツの作り方が陳腐化している。しかしスマホに最適化したコンテンツづくりの正解はまだ見えない、とした上で、

“(今後スマホコンテンツづくりのキープレーヤーになるのは)伝統メディア出身の人たちだと思う。なぜなら、スマホと、テレビ・新聞・雑誌などの伝統メディアは、コンテンツの創り方が似ているからだ。どちらも、“圧縮型のメディア“であり、限られたスペースで、簡潔に情報を伝える、要約力が求められる。”
小さい画面でさっと読める短くて濃いコンテンツを作るには「要約力」「編集力」が必須で、それは新聞、雑誌、テレビといったオールドメディアの得意分野だという指摘。

私は特に新聞の編集力に注目している。というのは、昨年10月から地元の新聞「福島民友」で週刊コラムを書かせていただいているため、新聞がいかにブログなどWebコンテンツと違うかを日々実感しているからだ。

コラムの字数は700字。Wordだと1枚の3分の2ぐらいの分量だ。字数制限のないWebの文章に慣れている身には「何も書けないのではないか」と思うぐらい短い。

編集者のTさんに原稿を渡すと毎回校正が入った原稿が送られてくる。Webに慣れた私のだらだらした文章を、重複表現を削除し、時には主語を略し、枝葉を落とし簡潔にして返してくれる。

たとえば、「フェイスブックとプライバシー」というテーマでの原稿(一部)の校正前と校正後はこんな感じになる。

(校正前)
フェイスブックにおける友達は、ツイッターなどに比べはるかに重く、プライバシーを見せ合う仲を意味する。それを悪用し、個人情報の収集・販売目的でむやみやたらに友達申請を送る輩が後を絶たない。信頼できる人とだけつながり、個人的な内容は友達しか読めない限定公開にし、広く伝えたいことは一般公開にするなど、プライバシー設定を分けて投稿するのがフェイスブックの原則だ。(178文字)

(校正後)
フェイスブックの友達はプライバシーを見せ合う仲を意味し、ツイッターなどに比べはるかに重い。それを悪用し、個人情報の収集や販売を狙ってむやみに友達申請を送る輩が後を絶たない。
信頼できる人だけ友達になり、個人的な話題は友達しか読めない「限定公開」にし、広く伝えたい事は「一般公開」にする。プライバシー設定を使い分けることを鉄則としたい。(166文字)

意味は全く変わっていないが、表現が圧縮されているのにお気づきだろうか。
短縮されたのは12文字。Webでは誤差範囲だが、新聞だとこの12文字で段数が変わってしまうため、同じ意味を持たせながら少し表現を変えて短くしている。結果、文字数の短縮以上に読みやすくなっている。

文章を削るだけではない。たとえば「フェイスブック」という言葉を出すとき、毎回最初の言葉の前には必ず「交流サイトの」という枕詞をつける。「フェイスブックなど誰でも知っているだろう」というのは業界人の思い込みであり、世の中には知らない人にも多くいて、その人たちにも理解してもらう配慮がされている。

この技術はすごいと思う。編集者Tさんから毎週校正を受けているおかげで、Webでも簡略化を心がけながら書くようになった。新聞コラム執筆はこれまでの私の執筆活動の中でも貴重な経験となった。

同じことを伝えるのにある人は2行を要し、ある人は1行で済ませられるとしたら、スマホ時代に書き手として重用されるのは後者であるのは間違いないだろう。

新聞購読者の下落率が過去最高になったというニュースが年末に流れた。たしかに新聞購読という形態が時代に合わなくなっているのは間違いないが、記事のクオリティが問われるこれからの時代には、取材、編集が肝である新聞のコンテンツ作りから学ぶことは大きい。

 

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