[西田亮介]データ・ジャーナリズムの課題は、技術ではなくガバナンスにある?
西田亮介(立命館大学大学院先端総合学術研究科特別招聘准教授)
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昨今、ソーシャルメディア用の大量の情報や電子データを分析し、分かりやすい可視化手法を用いた「データ・ジャーナリズム」に関心が集まっている。
アメリカの大統領選挙では、州ごとの支持状況が可視化されたりした。今年の参院選でも新旧メディアがソーシャル・メディアの言説の分析等を行った。筆者も毎日新聞社との共同研究を通じて、参院選の最中に新しい選挙報道を試みた。またJCEJなどの団体は先駆的なデータジャーナリズムの普及啓発活動に取り組んでいる。
これらの新しい試みと動向それ自体はとても興味深い。筆者としても応援したいし、その動向に強い関心を持っている。 そのうえでオールド・メディアの場合、技術よりもガバナンスが課題になっている点も指摘したい。データ・ ジャーナリズムの手法は、可視化にセンスが問われるものの基本的には汎用的な手法の組み合わせだ。換言すれば手法それ自体には現状はともかくとして、中長期にはあまり差異化できない。したがって、新旧メディアはその他の領域で(コンテンツの)競争力の源泉を探さなければならない。
それはどこにあるのだろうか。たとえば意思決定の速度だ。参院選の報道で見られたように、データ・ジャーナリズムの分野には今後もネットメディアなどの参入が続くであろう。オールド・メディアも彼らの意思決定の速度と競争することになる。従来の意思決定の速度ではとてもIT企業やベンチャー企業とは競争できない。こちらは防御的な意味で改善が必要だろう。
もうひとつは現場の課題や暗黙知と、報道、コンテンツの一気通貫での結合だ。現状ではオールド・メディアにおけるデータ・ジャーナリズムは「目新しい分析手法」一辺倒だが、調査報道や取材の手法はオールドメディアに一日の長がある。これらの改善とコンテンツを直結する/できることにデータ・ジャーナリズムのポテンシャルは存在するというのが筆者の考えだ。
そしてこの点にこそオールド・メディアにとっての優位性があるのではないか。現場で生じている課題を解決するために情報技術を活用し、現場の暗黙知の継承や改善に情報技術を活用し、それをコンテンツまで繋げていくことができれば、こちらはオールド・メディアにとって攻めのデータ・ジャーナリズムとなりうる。 ただし換言すれば、データ分析と情報技術のポテンシャルを引き出すためにガバナンスも変革しなければならないだろう。
現状の組織や体制、意思決定の速度ではそのポテンシャルを十分に引き出すことは困難である。データ・ジャーナリズムをきっかけにして、ニュー・メディアとオールド・メディアが切磋琢磨して、ジャーナリズムの多様化と調査報道の向上に期待したい。
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