.国際  投稿日:2015/5/23

[安岡美佳] 【マイナンバー先進国、国民が享受する恩恵】~40年も前から電子政府に取り組むデンマーク~


 

安岡美佳(コペンハーゲンIT大学 研究員)

執筆記事プロフィール

日本で、2015年10月から利用が開始されるマイナンバー。国民一人一人に付与される個人番号の仕組みは、北欧諸国では60年代後半から導入されている。導入前の今の日本では、不安が先に立ってしまっているようだが、40年前のデンマークも同じような状況だったと聞く。ただ、今日では、番号制度の有用性を疑問視する人はいないし、個人的にも便利な点が勝ることを毎日の生活で実感している。今回は、そんなデンマークのマイナンバー、個人番号の話をしたい。

私は、北欧でITシステムをいかに利用者に使いやすくデザインしていくかという課題に関する研究をしている。北欧の電子政府は、非常に使いやすいと言われており、縁あって、2010年より今に至るまで、日本の研究機関と一緒に北欧電子政府の調査分析を定期的に実施してきた。

北欧の電子政府は、各種国際電子政府進展度評価で、何年も上位を占めてきているが、私は、北欧で電子政府の進展が一歩先んじて進んだ理由の一つに、電子政府政策が1996年に始まるはるか前から個人番号制度であるCentral Person Registry (CPR、以下、個人番号)が導入されていたということが要因の一つとして大きいと思う。

CPRは、1968年に紙媒体の徴税記録カードによるデータベース作成のために導入されたが、その後、様々な分野で同一の個人番号が使われるようになる。例えば、社会保障分野、銀行の登録、医療記録、教育分野などである。デンマークは、医療や教育は、社会保障で国民の権利として無料で提供されるものであることと考えると、現在、社会保障サービス分野を中心に社会性の高い分野で個人番号が活用されていることがわかる。

デンマークの個人番号は、生年月日と4桁の番号からなり、1977年8月19日生まれであれば、190877-XXXXといった10桁の番号が個人番号になる。最後の4桁は、その他の属性で構成されており、最後の一桁が偶数であれば「女性」を示す。最近、デンマーク統計局の方と話して知ったことだが、移民や養子であることなどもこの番号でわかるのだそうだ。導入当時は、他の人に知られないように、夫婦や親子間でも隠していたといわれるが、今は、人に知られないように隠している人、気にしている人を私は知らない。同じ名前が多い北欧では、個人番号こそが唯一無二の個人認証手段であり、様々な場で活用されている。

移住当初は、私も相当の抵抗があったが、使い始めてみると非常に便利である。しばらく住んでいると、番号があることで数々の仕組みのデジタル化が簡便になり、契約などの処理が簡略化できることで、毎日の生活が格段に便利になっていることがわかった。個人番号の導入は、平等社会の実現、行政サービスの効率化、個人の利便性向上などの利点が謳われ、それは確かにその通りなのだが、利用者から便利だから広く受容され促進されたのだ。導入当初は市民からの抵抗が見られていたが、運用が始まり、懸念されていた悪用などが起こらなかったばかりか便利であることが認識され、反対運動は自然消滅した。

毎日の生活では、行政サービスに関わる各種処理に個人番号が使われる。税務記録には個人番号が記載され、罹患記録を知りたい担当医師には、個人番号を知らせればいい。医師が、個人医療情報をネットワークで閲覧し、其れなりの処理をする。(注1)

公共分野でなくても、番号は使われる。民間の場合には、金銭関係のセキュリティが重視される分野が中心だ。例えば、売買契約においても個人番号を提示することで、処理が簡便になる。個人番号を持っていることは、国家が個人情報を管理・保障していることを意味するからだ。個人が詐称することはほぼ不可能だし、問題が発生した場合には、個人の追跡や調査が容易だ。

現在、デンマークでは、番号制度導入により利便性が享受できているわけだが、番号が導入されたからというのは厳密には語弊がある。ここに至るまでは、適切な社会システムの仕組みの構築、法的整備、そして何よりも大切なことには、心理的な壁が月日の経過に伴い消滅したことなど様々な要素が絡み合っているからだ。ただ、ひとつ言えるのは、番号制度が導入されて40年。今、デンマークは番号のおかげで電子化がスムーズに進み、市民はその恩恵を享受できていると言えるだろう。

(注1)医師が見られるのは、個人の医療記録など専門に関わるもののみで、その他の個人情報を閲覧することはできない。

 

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