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.政治  投稿日:2013/12/15

[清谷信一]「軍事産業は国の財産」と演説した現実的政治家ネルソン・マンデラの死と「最後の未開拓巨大市場」南アフリカの現在


清谷信一(軍事ジャーナリスト)

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「夢想的な平和主義者ではなかったネルソン・マンデラ〜武装組織への上手な処遇が生んだ安定政権」から続く

ネルソン・マンデラ氏は大統領就任後も軍事を否定しているわけではなかった。南アフリカ共和国は隔年に自国兵器の輸出のための見本市DEXSA(軍事主体の兵器見本市)を行ってきた(現在は航空ショーを兼ねたAADとなっている)。そのDEXSAは国家的なイベントであり、開会式では各国からの代表団や大使らを招いて行う。通常であれば国防大臣に加えて大統領が出席してもおかしくないのだが、毎回、国防大臣がマンデラ大統領の演説を代読していた。

筆者は毎回この代読を聞いていたが、必ず「軍事産業は国の財産である」と述べて、軍事も、軍事産業も否定はしてなかった。このことからもマンデラ氏は夢想的な平和主義者ではなく、軍事を理解した政治家であったことが理解できよう。このようなイベントに出席しないのは世間で流通している「平和主義者」のイメージを損なわない戦略に沿ったものだったのだろう。この辺りは極めて強かで、現実的な政治家であるといって良いだろう。

現在のANC政権(アフリカ民族会議[南アフリカ共和国の与党])は問題も多い。政権をとって20年政権与党の座にあり、かつての自民党のように腐敗している。また横車を押すことも多い。例えば企業の取締役会に必ず黒人を入れろと強要する。断ると政府に対する納入を断られたり、罰則を払う必要がある。その人物が有能であれば企業も歓迎するのだが、コネを使って無能な人物が押し込まれることが多い。だから筆者の知っている企業はペナルティを払っても黒人役員を受け入れていないところが多い。南アフリカ航空などもそのような人物が上層部に増え、かつてに比べると格段にサービスが落ちている。

また製造業では海外から部品を調達しようとすると何故国産品を使わないのか、国産品を使えと強要される。これは外貨を減らさないためだが、国産品に同等品が存在しなかったり、良い品質の物がなくても国産品を使えと強要される。これを跳ね返すための説得に極めて多大な労力を取られる。外国に輸出をしたりして、ドルやユーロなどの外貨で代金を受け取ると、これを現地通貨であるラントに替えるように強要される。

一定以上のランド(南アフリカの通貨Rand)を外貨に替えるためには当局に対するお伺いを建てる必要があるが、これも担当者の気まぐれてあてにならない。このためメインバンクを国外に持つ企業が中小企業でも少なくない。これらの規制はアパルトヘイト時代からあったのだが、当時はさほどの法律が合理的に運用されており問題は無かったそうだ。

更には兵器の取引などでの収賄も多い。90年代に導入が決定した戦闘機や潜水艦などでは巨額の賄賂が支払われ、大きく報道された。それ以外でも国内に安価で優秀な装備があるのに、わざわざ高い外国製の装備が国防軍用に調達されるケースも多々見られる。これらも収賄が疑われている。また国防軍の戦闘機なども極めて安価に払い下げられ、外国に整備員や教育用のパイロット込のパッケージで販売されたりしている。このため一時期南ア空軍ではまともに飛べる戦闘機がなくなった時代がある。これまた政府要人と御用企業の間の不適切な関係が噂されている。

これらの理由から南アを離れる高い教育を受けた白人は少なくない。彼らは大抵英語が話せるので、アメリカやオーストラリア、欧州などにわたっても仕事がある。だが労働者階級はそのような国外脱出はかなわない事が多い。よく我が国では南ア報道で「アフリカ人と白人」という報道がなされてきた。が、これは極めて誤解を招く。南アの白人たちはアフリカーンスと呼ばれるオランダ系やフランス系、その他英国系、ポルトガル系、ユダヤ系などが多いが、数世紀前からの入植者が少なくない。

彼らを「白人=欧州人」と呼ぶならば人のアメリカ人やオーストラリア人は存在しないことになる。アメリカ人と呼べるのはネイティブ・アメリカン(インディアン)のみ、オーストラリア人と呼べるのはアボリジニだけということになる。白人たちもまた「アフリカ人」である。この視点を忘れると事実を見誤ることになる。

「アフリカ人対白人」的な報道がなされるのは日本のジャーナリズムにはアフリカに対する知識や関心が低く、問題を表層的にしか理解していないことが原因だろう。学校の社会化の教科書でもアフリカに関する記述は極めて少ない。

現在の南アでは一部の金持ちになった黒人はそのコネやツテを使って益々豊かになるが、貧困層は仕事がなく益々細っている。また発電所などインフラの整備もお座なりになっており、今後外国資本の呼び込みに影を落としている。今後はANCの長期政権が同国の最大のカントリーリスク要因になりかねない。

アフリカは我が国から遠い。だが、その関係性は年々強まっている。アフリカが最後の未開拓の巨大市場だからだ。特に南アはアフリカ最大の経済大国であり、インフラや工業、金融も発達している。このため日本企業のアフリカ進出の拠点となる国だ。政府も遅まきながら防衛駐在官を南アフリカに配置する予定だ。

ネルソン・マンデラ氏の死去を期に、アフリカ関係の知識を深めてみてはいかがだろうか。

 

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