[堀尾藍]一歩間違えれば「国際協力」は現地のニーズとかけ離れた「援助側のエゴ」になる〜ザンビアで食べられているキャッサバも、現地人はおいしいと思ってるわけではない。
堀尾 藍(アフリカ研究者)
今回は、なかなか知ることのできないアフリカ以南に位置するザンビアの「食」文化について紹介したい。ザンビアは植民地時代、北ローデシアと呼ばれ、南ローデシアと称されていたジンバブエと食文化が類似している。食文化とは、民族や国家等で異なるが、アフリカのように国境が無理やり旧宗主国によって引かれた場合は周辺国で同じような文化が見られるため、興味深い。
ザンビアの主食はシマ(Nshima)というメイズ(トウモロコシ)の粉末を水と一緒に茹でたものである。メイズは、1900年頃に原産国である中南米からザンビアに入り、現在は前述したように主食として定着している。小倉充夫は、「銅産業の発展のかたわらで、鉱山開発を担った鉱山動労者向け食糧生産が植民地支配のもとで進展した。ザンビアの中央部から南部にかけて白人入植者によるトウモロコシ栽培が大規模に行われたのである」(注1)とザンビアでのメイズが普及された背景を指摘している。
筆者は、ホームステイ先で他の女子達と一緒に料理を毎日作っていた。このシマを作るのには大きな「しゃもじ」で練り上げるため、かなり力を要する。シマは家庭によって色が若干異なり、料理が大好きな私は、ザンビア人のお宅に訪問する度にその家庭のシマの色をチェックするのが実は習慣となっている。日本でも定番であるオクラはアフリカ原産で、このオクラもシマと一緒に食べることが多い。私は、日本ではオクラをいつも生で食べていたが、ザンビアに行って初めて茹でて食べるのが普通である事を学んだ。
(ザンビアの主食・シマ(Nshima)を作る筆者)
(筆者が作ったザンビアの主食のシマ、キャッサバとピーナッツのペースト添え、ソーセージ)
ザンビアではキャッサバも定番であるが、味に癖があるため、ピーナッツのペーストと一緒に食べることが多い。現地調査で小学校に訪れると、校長や教師に「君はザンビア料理の何が好き?」と聞かれることが多く、私が「シマとキャッサバ」と返答をすると、「え? キャッサバなんて美味しくないよ。君はザンビア人よりザンビア人だな」と言われる。ザンビアで長期滞在を経験すると、キャッサバが必ず食事で出されるため、ザンビア人はキャッサバが大好物だ、と私は考えていたのだが、実は、「美味しいとは思わないが、仕方無く食べている」というのだ。
(近くのスーパーへホストファミリー達と一緒に徒歩で行く筆者)
国際協力も一歩間違えると。専門家が現地人のニーズだと勝手に決定しプロジェクト化したことが、実は現地のニーズとはかけ離れていることがある。キャッサバがいい例だ。日本のODAによってキャッサバが効率良く生産できるようになっても、そもそも現地人がキャッサバを美味しいと思っていないため、援助側のエゴだと捉えられてしまうのだ。
国際協力と一口に言うが、奥が深く、難しい。だからこそ、私は現地の人達と一緒に生活する。だからこそ聞ける声がある、と私は考えている。
(注1)小倉充夫・元津田塾大学教授 http://kaken.nii.ac.jp/d/r/40055322.ja.html
(参考文献)小倉充夫『労働者移動と社会変動-ザンビアの人々の営みから』有信堂, 1995年。
(参考資料)外務省:「ニッポンのODAプロジェクト」ザンビア共和国
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