北朝鮮プロパガンダに加担するテレビ
朴斗鎮(コリア国際研究所所長)
北朝鮮は、6日から開いている第7回労働党大会に12カ国約130人の取材陣を招待した。だが、党大会の取材は許可せず、北朝鮮のプロパガンダに利用している。記者たちは大会初日、開会の時間も正確に知らされず、大会場から200メートル離れた所で取材させられた。その後はショーウィンドー平壌の「映画セット」のような建造物を取材させられ引き回された。こうした北朝鮮当局の対応に記者たちの不満が募るのは当然の成り行きだった。
そうした中で北朝鮮当局は、イギリスBBC放送 のルーパート・ウィングフィールド=ヘイズ記者を拘禁して追放した。現地にいるCNNのウォールリプリー記者が 5月9日ツイッターを通じて明らかにした。中国新華通信もヘイズが「不適切な(improper) 報道」によって抑留されたと報道した。
ヘイズ記者は、4月30日に3人のノーベル賞学者に随行して訪朝した記者だが、金日成総合大学訪問記事の中で、学生たちのパソコン操作が未熟だったなどの北朝鮮にとって「不都合な実態」を報じていた。こうした記事もチェックの対象になっていたと思われる。取材を統制し外国記者団をプロパガンダに露骨に利用する北朝鮮当局の対応に対して一部欧米の外信記者たちは強い不快感を示した。
スチーブンエボンス BBC 記者は 「取材陣 4人に各々1人ずつ黒い服の監視員が配置されたし、トイレの中まで付いてきた」としながら「私たちが取った映像の一部を削除せよと指示もした」と語った(デイリーNK2016・5・9)。
しかし最も多数の取材記者を送り込んだ日本の記者団はどうだったのか?映像で見る限り北朝鮮当局の指示に従順のようだ。今のところそのようなトラブルは起こっていない。日本の記者団は従順なだけでなく、北朝鮮のプロパガンダに協力している気配さえある。
平壌の「発展」を見せつけるための高層アパート(未来科学者通り)や平壌の産院、「科学技術の教育施設」など金正恩演出の「平壌劇場」取材に素直に従っているように見える。
これらの報道では「平壌は新しく生まれ変わった」「自動車やタクシーは多くなった」「人々の服装がカラフルになった」「スーパーに国産品があふれていた」「国連制裁は効いていない」などの皮相的情緒的な内容がほとんどで、ごく一部の在京テレビ局の男性記者などは、北朝鮮当局に媚びるような報道すら行っていた。多くの視聴者は違和感をもったに違いない。
少し注意して観察すれば、新築の高層アパートのバスタブになぜ水を張ってあるのか?なぜわざわざ水道の蛇口から水を出して見せたのか?なぜ風呂場に大きなポリタンク2つに水を置いてあるのか?すぐ傍の物置き場に古く小さなプロパン用ボンベのようなものがなぜ置いてあるのか?などについて疑問が湧くはずであるが、そうしたことに注意を払う記者は少なかった。
北朝鮮に対する若干の知識さえあれば、豪華アパートで水を汲み置かなければならない状況が、電力不足と関係していることぐらいはすぐにでも見抜けたはずだ。北朝鮮の劣悪な「水」問題については、昨年10月に訪朝した「水」の専門家であるグローバルウォータ・ジャパン代表の吉村和就(よしむら・かずなり)氏も明解に指摘している。そうした情報も知らないで北朝鮮取材に向かったのであろうか?
吉村氏の情報に接していなくとも、夜の平壌で金日成・金正日の肖像画の場所付近以外が真っ暗であることを見ただけでも、電力と水の関係に注意が向くはずだが、そうした解説報道は一つもなかった。
一向に改善の兆しが見られない日本テレビメディアの北朝鮮取材姿勢は、不当な圧力に立ち向かい、真実に迫ろうとするジャーナリスト精神からは程遠いように思える。これでは、日本国民が「オールジャパンで拉致問題の解決を」といくら強調しても、北朝鮮が日本を侮るのは当然かもしれない。
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この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長
1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統