[古森義久]佐々江賢一郎・駐米大使が中国の日本非難に対してワシントン・ポスト紙で反論〜靖国論争を機に日本外務省の消極体質に変容の兆し
古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)
アメリカ駐在の佐々江賢一郎・日本大使が中国の日本非難に対する反論を2014年1月17日付のワシントン・ポスト紙に寄稿した。その1週間前に同じ新聞に掲載された崔天凱・アメリカ駐在中国大使の日本糾弾に応じた論文だった。イギリスでも劉暁明中国大使が大手紙に日本を人気小説「ハリー・ポッター」の闇の帝王だと断じる寄稿したのに対し、1月6日、林景一日本大使が反論の投稿をしたばかりだった。
主題は安倍晋三首相の昨年2013年12月26日の靖国神社参拝だった。
日本の外務省代表が靖国参拝のような歴史認識がらみのテーマについて中国の主張に公然と反論することは非常に珍しい。慰安婦問題しかり、尖閣問題しかり、南京虐殺問題しかり、だった。中国側の主張が日本側主流派の事実の調査や認識といかにかけ離れていても、日本外務省として反対や、否定することはなかった。その理由は「村山談話」や「河野談話」での戦争関連責任の過剰なほどの受け入れだけでなく、過去の出来事についての現在の糾弾は黙って耐えていれば、やがては去っていくという戦後の対立忌避の基本意識のせいだったともいえよう。
だが中国側からの歴史がらみの日本非難は首相の靖国神社参拝がまったくなかった昨年12月までの7年4ヶ月、決して去りはしなかった。安倍首相の参拝決意もその現実が大きな理由のひとつだったのだろう。その参拝を中国側は「軍国主義の復活」「過去の戦争の礼賛」と決めつける。
佐々江大使の寄稿は、
「日本には軍国主義の形跡は皆無であり、国民の靖国参拝も戦争の美化ではない」
と強調していた。さらに、
「中国は軍拡でアジアの平和と安定への深刻な懸念を生み出しているのに、その原因を日本の首相の靖国参拝のせいにする反日プロパガンダを展開している」
とも非難していた。
日本の駐米、駐英両大使が中国の日本叩きにこうして積極果敢に反撃するようになったのも、安倍政権全体としての海外発信の拡大の方針からだろう。日本の外務省はこれまでこの種の論争や発信に慣れていなかった。靖国論争を機に日本外務省の従来の消極体質は変容させられる兆しをみせ始めたようだ。
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