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.国際  投稿日:2016/7/22

お粗末なエピソード満載共和党大会 米国のリーダーどう決まる?その19


大原ケイ(米国在住リテラリー・エージェント)

「アメリカ本音通信」

18日から4日に渡る共和党大会が始まった。大統領候補を決めるための予備選開幕当時は16人もいた大統領候補が、一人、また一人と撤退し、最後に何度も暴言を繰り返しながらポピュリズムで選挙人を獲得してきた不動産王ドナルド・トランプが勝ち残った。共和党大会では、その選挙人と共和党の重鎮が一堂に会し、トランプが大統領の器であることを披露し、それを受けて共和党が一致団結して本選を戦う準備ができるかに焦点が当てられる…はずだった。

熾烈な戦いだったせいもあり、どんな波乱万丈の下克上が起こってもおかしくないとされていたが、蓋を開けてみれば選挙人からの異議申し立てで進行が遅れたり、会場からブーイングが起きたぐらいで、懸念されていた口論やケンカ沙汰にはならなかった。場外のデモ隊も暴動には至っていないようだ。

とはいうものの、今回の共和党大会は決してトランプが思い描いていたような祭典にはならなかった。カジノ経営、人気TV番組ホストという経歴を生かして、さも有名人が名を連ねたショーが計画されているのかと思えば、子役の頃に見たことある三流役者だの、見たこともないプロゴルファーどまり。ハリウッド業界がリベラルよりなのに加え、4年前、ミット・ロムニー候補がクリント・イーストウッドを借り出した時に、壇上で空の椅子に話しかけるアドリブ芸を見せられてひるんだのかもしれないが。

セレブが集まらないどころか、大会には必ずと言っていいほど顔を出す、これまでの共和党大統領や過去の候補者など、共和党の重鎮がボイコットする異常事態となった。つまりブッシュ父子、2008年のジョン・マケイン、2012年のミット・ロムニーは欠席。トランプとしのぎを削った候補者たち、マルコ・ルビオ、ジェブ・ブッシュ、リンゼー・グラハム上院議員も欠席している。共和党大会が開かれた地元オハイオ州の現知事でライバルだったジョン・ケイシックも、トランプ陣営に「トランプを推薦しないのならスピーチもさせない」と言われて顔を出さなかった。

最初の3日間は、トランプ陣営の準備不足による失敗が目立った。初日には目玉とされたメラニア・トランプ夫人が夫のプライベートな面を明かすスピーチが、なんと8年前にミシェル・オバマが夫バラクや夫婦の教育方針を語った言葉をそのまま盗用したことがバレてしまった。

こういったスピーチにはプロのスピーチライターが付いているのが通常で、ドナルド・トランプも夫人にトップライターをあてがったのだが、それをメラニアが勝手に変えた上に、過去のスピーチもろくにリサーチしなかった友人に改変を頼み、それが裏目に出たようだ。

2日目の夜はさんざんトランプを批判しながら、自身の予備選撤退の後、手のひらを返すように支持に回ったクリス・クリスティーが、ニュージャージー州の元法務長官だった経歴を活かして、ヒラリー・クリントンは国賊として「有罪だ!」とぶち上げて会場を沸かせた…はいいが、ちょうどその頃、実質上、共和党の広告塔でもあるフォックスTV局のロジャー・エイルズ会長が、セクハラ容疑で辞職するという噂が流れ、マスコミが騒然とする事態となった。

そして3日目の締めくくりは、副大統領候補に選ばれたばかりのインディアナ州知事、マイク・ペンスを華々しくデビューさせる、という流れだったのに、トランプと敵対してきた共和党保守派のテッド・クルーズが、予定時間を超えて長々と喋り続けた挙句、結局最後までトランプの名前を出して支持することを拒否するという、実に子どもじみた演説をぶち上げた。

これには会場もブーイングの嵐で、会場にいたクルーズ夫人が身の危険を感じて退場するという一幕もあった。毎日のように登板して父親のことを褒め称えてきたトランプの子どもたちの表情が凍りついたが、トランプ自身は、事前に支持声明がないことも承知で、クルーズを壇上に上げ、わざとブーイングさせたとツイッターでつぶやくなど、どっちもどっちの争いのようだ。

だが、ここまで失敗ハプニングが多いことに、マスコミは「トランプには本当に、リーダーシップや交渉力があるのか?」という根本的なことを問い始めている。いよいよもって、最終日にトランプがこういった疑惑を払拭できるのか、そのスピーチの重要性が高まるばかりだ。それは後日報告するとしよう。


この記事を書いた人
大原ケイ英語版権エージェント

日本の著書を欧米に売り込むべく孤軍奮闘する英語版権エージェント。ニューヨーク大学の学生だった時はタブロイド新聞の見出しを書くコピーライターを目指していた。

大原ケイ

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