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.国際  投稿日:2016/6/8

トランプ放言 共和党主流派、猛反発


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー(2016年6月6日-6月12日)」

 

今週はワシントン発の帰国便の中で書いている。今回初めて機上Wi-Fiサービスを利用したが、19ドル95セントで飛行中ずっと使えるのは有り難い。この原稿もアラスカ上空あたりから送ることができた。世の中便利になったものだが、逆に「飛行機の中だから連絡しようがない」といった口実は使えなくなる。どっちが良いのか分からない。

今週はイスラム暦でラマダン(断食月)が始まる。正確にいつから始まるかは各国のイスラム法学者が実際に月を見て決める。また、断食といっても、一か月間ずっと食を絶つ訳ではない。日の出から日の入りまでだが、その間は水も飲んではいけない。6月は中東が最も暑い時期だが、こればかりはアッラーとの契約だから仕方がない。

米国の大統領選は相変わらずだ。週末にトランプ候補が再び大放言をやらかした。裁判係争中のトランプ大学問題で、こともあろうに担当判事を「メキシコ人だから、中立ではない」と批判したのだ。これには共和党主流派も猛反発。せっかくトランプとの共存の道を探り始めたのに、このままでは共和党は上院の多数を失いかねない。

共和党の受難は続くのか。一方、民主党の方は火曜日の「最後のスーパーテューズデー」で数の上ではクリントンが代議員の過半数を制するはずだが、サンダースは猛反発。スーパー代議員を除けば、クリントンは過半数を制しておらず、最終決着は7月の党大会で決まると主張する。

そもそもスーパー代議員は、サンダースのような偏った候補を民主党大統領候補にしないための制度だから、サンダースの主張には一理ある。今回は民主党の「主流に対する一般党員の怒り」が爆発し、そもそも論が蒸し返されたのだろう。サンダースは「出遅れた」にしては「出来過ぎ」たため、逆に撤退表明できなくなっているのかも。

〇欧州・ロシア

7日に欧州委員会が不法移民問題を解決するため、600億ユーロのアフリカ基金創設問題を議論する。提案者は伊首相らしい。気持ちは判るが、ではイタリアは一体いくら払うのか。総額が大きいだけに、加盟国間で話が纏まらないかもしれない。10日にフランスで欧州サッカー協会主催のEuro2016トーナメント大会が始まる。テロリストにとっては絶好の機会だけに、警備は厳重を極めるだろう。何事もないことを祈るしかないが。

〇東アジア・大洋州

5-7日に米中戦略経済対話(S&ED)が北京で開かれる。今回が8回目になるが、回を重ねるほど成果は乏しいようだ。そもそも中国がこのような大人数の会議で本音を言ったり、戦略的な譲歩を行う筈はない。そこは米国も良く判っているが、他に妙案はない。こうして毎年長々と会議が続き、僅かな進展を成功と発表するしかないのだ。6-10日に米軍とフィリピン軍がCARATと呼ばれる合同演習を行う。フィリピンといえばポピュリスト(大衆迎合主義者)の新大統領の対中政策が気になるところだが、軍事面では2014年以降、米比協力が着々と進んでいるようだ。

〇中東・アフリカ

7日にイスラエル首相がモスクワを訪問する。イスラエルとロシアの関係は今年が25周年らしいが、今回の訪問は単なるセレモニーではなかろう。ネタニヤフとプーチンだから、狐と狸の化かし合いになることは必至。これは見物である。

○アメリカ両大陸

南米ではブラジル大統領の弾劾手続きが進んでいる。6日には大統領弾劾委員会が弾劾のための具体的手順を議論するそうだが、オリンピック開催直前とは思えない余裕である。日本だったらこうは行かないだろう。別の意味で、ブラジルは大国だと思う。

〇インド亜大陸

7-9日にインド首相が米国とメキシコを訪問する。近年の米印関係の進展には目覚ましいものがある。特に、軍事産業を含む、軍事面での協力が深まっている。 他方、最近の両国関係を見ていると、対中関係についてインドは米国が思うほど米印協力に前向きではない。その典型例は、最近の米太平洋軍ハリス司令官の発言だ。同司令官がインドで「いずれ米印海軍は共同で航行するだろう」と発言したのに対し、インド側はこれを強く否定したという。さすがはインドだ、非同盟の伝統はまだまだ根強いということか。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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