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.政治  投稿日:2017/1/1

【大予測:安全保障】インドへの片想いは叶わない


文谷数重(軍事専門誌ライター)

2017年、日本はインドへの接近をはかる、だが、それは日本の片想いに終わるだろう。

この3年間、日本は対中牽制を図るためインドに急接近を試みている。これは2012年末の安倍政権成立以降、日本は対中包囲網の形成を企てた結果だ。その中では、オーストラリアと並び特にインドとの同盟関係が模索された。

だが、日本による対中包囲網形成は失敗した。

これは当然なことだ。中国は最盛期をむかえている。勢いのある中国と対立を望む国はない。中国軍事力の成長は不安を呼び起こすかもしれない。だが、平時では経済的交流により利益を求めることが優先される。中国と領土問題を抱えない国の立場はこのようなものだ。状況は日本が思い描いた図画から大きく外れようとしている。ほぼ日本だけが単独で中国と対立する構図に転じつつある。

2016年には包囲網構想崩壊が明らかとなった年でもあった。一時期は歩調を揃えるとみていたオーストラリアやフィリピンは政権交代で対中融和に転じており、東南アジアでも潜在的に協力できると見ていたマレーシアも中国にシフトしつつある。結果、2017年に日本は今以上にインドに傾斜する。対中牽制を実現できるコマがインドしかなくなったためだ。

■ 対インド外交は成果を得られない

だが、このインドへの傾斜は成果を得られない。いいとこ取りをされて終わる。得られるのはリップサービスだけに留まるだろう。日本が成果を得られない理由は次の3つである。

①  中国とは対立できない

第一は、インドは対中関係安定化を最優先するため、日本の求める対中強硬路線はどうしても実施できないことだ。

インドにとって中国の経済的重要性は高く、それに変わる国はない。現在でも最大の輸入相手国は中国であり、インドの輸出相手国としても中国はその重要性を増している。

その中国との経済関係を不安定化させる選択肢はない。特にインドが経済成長を失速させず、国民生活を豊かにするためには中国との貿易や投資が重要となる。

また、安全保障でも中印国境の安定化を望んでいる。インドは周辺域では強引な外交政策を行っており各国と衝突している。今の南シナ海での中国に似た立場にある。その四面楚歌の状況からして、中国との軍事面での対立は回避しなければならない。

②  「気前良い日本」の維持

第二は、インドは日本の気前良い立場を維持しよう、と引き伸ばしにかかるためだ。

日本は幻想を抱いている。日本が中国との対立を宿命的であると信じ込んでいるように、インドも中国を宿敵視している。だから誘いに乗ると信じている点だ。

そのため、日本はインドに気前よく大盤振る舞いしている。これは経済協力だけではない。核不拡散体制に入らない核保有国であるインドに対し原子力協定を結んだことや、最新鋭飛行艇の供与をもちかけたことなどだ。

これはインドにとって都合のよいものだ。だから、それをなるべく維持しようとする。対中包囲網の話を聞くふりをし、言質とならないリップサービスを行い、日本に「インドはその気がある」と信じさせる。

なによりもその状態を維持することがインドの利益となる。インドが日本のプレゼントを得られるのは、対中包囲網に入るか入らないかの宙ぶらりんな状態であるからだ。

③  中国との対立のアウトソーシング

第三は、インドは中国との対立を日本に押し付けようとするためだ。

インドにとって、もちろん中国は安全保障上の不安要素である。自国と領土問題を抱えており、その力の拡大が南アジアに及びつつあることは脅威である。だが、インドは中国との対立を避けたい。その理由は①で述べたとおりである。

その点、日本による対中包囲網の申し出は都合のよいものだ。それにより中国との対立を肩代わりさせ、緊張正面を東アジアにシフトさせられるためだ。

インドは日本の申し出に外見上の興味を示すことで日本を使嗾(しそう)できる。日本に「インドが同盟国」「外交でインドと挟み撃ちにできる」と考えさせることで、中国との対立を煽ることができるためだ。つまり、インドにとっての最適解は「日本にその気を匂わせるが、決して中国とは対立しない」ということになる。結果、日本はそのリップサービスに躍らされるのである。

■ 原発も飛行艇もうまくいかない

その点からすれば、対中対峙だけではなく原発や飛行艇輸出もうまくいかない。これも2017年の予測に含めてよい。

①  原発輸出は進捗しない

原発輸出は空手形に終わる。これはもともと日本の歓心を買い、自国核保有への非難を減らすために持ち出されたものだ。原発輸出の利益で日本の歓心をかい、その際に必要と原子力協定を持ち出すことで自国核保有への拒否感、拒絶を緩和するといったものだ。だが、そもそもインドは原発を欲しがっていない。その本心は豊富な自国石炭資源の活用にある。そして日本の歓心を買い、原子力協定を結んだ以上、原発そのものは特に買う必要はないものとなっている。

その点からインドは原発購入はしない。もちろん日本の気分を害さないように、引き伸ばしを図るがそうなる。

②  飛行艇も引き伸ばされる

これはUS-2飛行艇も変わらないが、その理由は異なる。インドはUS-2を欲しがっている点で原発とは違っているためだ。だが、その経過は原発とあまり変わらない。興味の強調は欠かさないだろうが、引き伸ばし的な交渉となる。

なぜなら、時間の経過はインドの有利となるためだ。日本政府は武器輸出に乗り気であり、US-2輸出を促進するため条件は妥協的となっている。まずはインドでの製造を認め、その範囲を拡大させようとしている。この状況では、インドは交渉の長期化は自国の有利と考える。そのため短期に契約をまとめようとはしない。

おそらく、飛行艇の件でもインドはリップサービスをする。そしてその都度日本では「US-2は輸出できる」と喜ぶだろう。だが、それはぬか喜びでしかない。

■ インドは夢を実現するユートピアではない

2017年、日本は中国との対立と包囲網の失敗から、今まで以上にインドに入れあげるだろう。

そこではインドはリップサービスで日本を喜ばせ、期待をもたせる。日本もそれにおだてられ、インドに過剰な夢をもつだろう。だが、それは現実的な成果は実現せず、やらずぼったくりに終止する。

結局インドは、どのような夢であったとしても叶えてくれる日本にとってのユートピアではない。そのことは承知すべきである。


この記事を書いた人
文谷数重軍事専門誌ライター

1973年埼玉県生まれ 1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。 現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。退職後、軍事専門誌でライターとして活動。特に記事は新中国で評価され、TV等でも取り上げられているが、筆者に直接発注がないのが残念。

文谷数重

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