【大予測:都政】東京都議選、小池氏勝利へ
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
「西村健の地方自治ウォッチング」
小池劇場第2幕開演。
東京都政は明らかに変わったと思う。以前の都政は先進事例的な取組みが各部署でとられていたものの、行政経営には程遠かった。しかし、小池都知事就任以降、目に見えて職員の行動や態度が変わった。都政改革本部の活動は明らかに改革を軌道に乗せた。東京五輪を巡る問題も小池都知事にならなかったらここまで明らかになることもなかっただろう。
こんな東京を2016年の流行語を使って、振り返ってみると「都民ファースト」という小池氏自身が打ち立てたコピーでセールスを開始。「斎藤(小池)さんだぞ」ばりに突然都知事選挙に立候補。「カープ女子」ならぬ百合子女子?出現。上昇志向を巧みに隠して女性からの支持を得て、日本人的感性からすると眉をしかめるような「保育園落ちた日本しね」という声にも耳を傾け、圧倒的な勝利で後光が差す、「PERFECT HUMAN」ばりのリーダー像を提示。就任後は問題意識を持たない職員には「君の名は?」と聞き、「盛り土」などの問題を取り上げる、その「神っている」センスとタイミング。そして、多くの都民の「アモーレ」となる・・・毎年恒例のギャグはこのへんにして、自称「東京の兄」が2017年を占ってみよう。
小池都知事の支持率も依然高く、世論の力をバックに問題解決と改革を進めていくだろう。しかし、全体のスケジュールを振り返ってみる中、都政に大きく影響を与えるトピックがある。
1 都議会議員選挙で小池氏は勝てるのか?
今年は東京都議選挙があり、それに向けた政局中心になるとみる。それがどう転ぶかで、小池都政は橋下さんが大阪で行った改革のように成功するのか、それとも他事例のように政争にまみれ身動き取れなくなり失敗するのかが決まる。
7月22日が東京都議会議員選挙。定数は127。投票率は平成25年6月23日執行の前回の32.5%を超えることはまず間違えないだろう。そして、前々回の42.7%も超えると予想される。議席はどうなるか、そして小池都政は勝てるのか。
早稲田大学招聘研究員で選挙・世論調査に知見を持つ渡瀬裕哉氏によると、「2月7日の千代田区長選挙が鍵である」という。それによって都議会議員選挙に向けて政局ががらりと変わるそうだ。つまり、小池氏が応援するだろう現職の千代田区長に対して、自民党東京都連(内田都議)が対抗馬を立てられるのか、そして、それはどのような候補者か、どのような結果を出すのか、予測をどこまで覆せるのか、どこまで食い下がれるのか等。その内容と度合次第で、その他の議員や関係者の動きが変わってくる。政局が変わるそこがまさに試金石。小池氏側圧勝の場合は、まさにその動きは「風」となり、雪崩を打って小池氏側に走る議員も増えるだろう。
渡瀬氏は言う「東京都は中選挙区、小選挙区からなっている」ため、選挙区によって事情を見極める必要がある。中選挙区の候補者は、昔の自民党の代議士のように、支持団体の支援と票が安定的に見込めるためによほどのことがない限り落選しない構造だ。
さらに「選挙の強い側と弱い側から動きがある。自民党議員で選挙区情勢が厳しい選挙区から小池さん側に移る」と渡瀬氏は主張する。すでに公明党は小池氏支持を鮮明にしつつあり、年末、自民党の都議3名が、都議会自民党会派から離れて新会派を結成することが明らかになった。
これまでの実績から見て、小池氏が大きな失敗をするとは思えない。今以上に支持率を高めるのではないかと考えられるほどだ。だんまりを決め込む自民党東京都連はどう出るか。小池氏は、都議会議員選挙でもそれなりに勝利して、都民ファーストの改革は継続することが予想される。
2 KPIで見る2017~各計画での実行予定はどうなっているのか?
本連載でこれまで取り上げなかったが、「東京都総合戦略」という計画がある。ここで東京都が目標と達成を約束しているものの中から2017年もしくは2017年度で終わるものをピックアップしてみた。
l 「2017 年度末までに待機児童を解消し、その後も待機児童ゼロを継続」(P68)
l 子育て支援住宅認定制度による整備:1,200 戸【2017 年度】(P116)
l 都の非正規対策による正規雇用化:1万5千人【2017 年度】(P139)
l 海底光ファイバーケーブルの整備:5村6島での超高速ブロードバンドサービスの提供開始(P109)
l 地域居住の場(グループホーム)の整備:2014 年度末の定員数から2,000人増【2017 年度末】(P132)
l がんの75歳未満年齢調整死亡率(人口 10 万人対):75.1【2017 年度末】(P137)
l 災害拠点病院のBCP策定率:2017 年度末、100%(P136)
l がん検診受診率(胃がん、肺がん、大腸がん、 子宮頸がん、乳がん):2017 年度末、50%(P137)
l 海辺の自然再生による水質浄化の促進、野鳥公園における干潟整備:2017年度、11.8ha (P171)
政策評価、目標管理、指標・KPI設定の専門家として問題を指摘することは置いておいて、上記の指標(っぽいもの)と目標数値の実現可能性を考えたい。計画に記載していることは事実なわけで、都民や国へ約束しているため、実行するといっているのだから実現してくれるのだろう。各市区町村の状況、個々の政策の実情を詳しく調べたりヒアリングしているわけではないので、そこは東京都政を信じたい。とはいえ、空き家問題、自殺者数、などはどうなるのか?という問題提起はしておこう。
平成25年の空き家率は11.1% (東京都都市整備局資料「空き家の現状と取組」より)
平成26年の自殺死亡率(人口10万対)は19.8 (内閣府自殺対策推進室 警察庁生活安全局生活安全企画課「平成26年中における自殺の状況」平成27年3月12日 より)
である。個人的にはこの数値は増加(つまり悪化)するだろうと予測している。あとは2017年がどうなるかの前に、2016年度を年次目標に約束した目標などが達成できているかしっかり検証いただきたい。
最後に小池都知事の公約をみなさん覚えているだろうか。都政改革、東京五輪改革をはじめ鮮やかな政策が並び、既に実行しているものも多い。しかし、そこにはかなり現実的に実行が疑問な内容の記載もあった。例えば、「満員電車をゼロ」「時差通勤」「2階建て電車」などなど。こうした優先度が低い(と思われる)ものであっても、公約として掲げた以上どのようにして実現するのか、その道筋やシナリオ、実現は難しい場合どのように対応するのか、その展望を聞きたいものだ。
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この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者
経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家
NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。
専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。