都議選公約分析「共産党」調査力アピールする為にも戦い方穏健に
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
【まとめ】
・共産党の公約、他党との対立軸が明確。
・課題は、都政のことを国政の問題に結びつけてしまっていること。
・組織や法律を機能させ成果をあげる問題解決思考が見られないのは残念。
都議選恒例「都民ファーストの会公約分析」今回は、共産党。「都民を支えるあたたかい都政に」というキャッチフレーズを掲げている。
■あるべき姿を明確に
問題意識や内容は流石の内容である。あるべき論としてはかなりまっとうで、そこには哲学がある。「コロナ病床の確保が切実に求められているときに、統廃合や独法化を進めるというのは、とんでもない逆行ではないでしょうか」、「「稼ぐ東京」の名による大企業のもうけ第一の都政から、福祉と暮らし第一の都政に、切り替えることです」、「そもそも自治体の仕事は、大企業の「稼ぎ」の応援ではありません。「住民福祉の増進」こそ、自治体の仕事」といった問題意識はさすがである。この問題意識が、他党との対立軸を明確にすることにつながり、結果として、野党としての役割を明確にしている。
そもそも野党にもかかわらず、実績が凄い。
・女性比率72%の共産党都議団
・条例提案は、17年都議選以降だけでも28回(17年7月~21年3月)で、年4回の定例議会にほぼ毎回提出
・学校給食費助成条例、シルバーパス条例改正、18歳までの子ども医療費助成条例、学校体育館クーラー設置条例、マタニティパス交付条例、国民健康保険子ども均等割保険料ゼロ円条例、私立高校入学金無料化条例など
野党であり、数の力では負けるが、地道に提案をする姿勢。普通の人なら挫けてしまうのだが、それでも活動するところに美学すら感じる。
そして、今回の政策案である。まず、その数に圧倒される。いくつかピックアップしてみよう。
-日本共産党の重点公約(一部)-
▽開催都市として、この夏の東京オリンピック・パラリンピック大会は中止を決断し、コロナ収束のために持てる力を集中するよう強く求めます。
▽全国の倒産件数の4分の1が東京です。コロナ危機による営業損失は事業者の自己責任ではありません。直接・間接の影響を受けているすべての事業者への十分な補償にむけ支援を強化します。
▽都の最低賃金を、時給1500円に速やかに引き上げるよう求めます。東京都と契約関係にある労働者には時給1500円以上にします。
▽「孤独死ゼロ」をめざします。
▽心身障害者福祉手当の対象者を、精神障害者、難病患者にひろげます。
▽東京都の女性管理職の割合を、50%をめざし計画的に引き上げます。
【出典】共産党公約
こうした政策を提案できる、さすがの調査力と言える。
■3つの特徴
全体をまとめると、3つの特徴にまとめられる。
①論理的な理由を提示
②数字での根拠を示している
③一方的視点
である。
例えば、外環道の問題を手に取ってケーススタディをしてみよう。
①が如実に示されているのは以下である。論理的な説明であり、この説明にはぐうの音も出ない、さすがの根拠である。
昨年10月、調布市の住宅街で道路陥没が起こり、地下空洞も相次いで発見されました。住民の命にかかわる深刻な事態です。政府の有識者会議は、外環道の地下トンネル工事が陥没の原因である可能性が高いと認めました。
外環道の地下トンネル工事は、「40メートル以下の深い地下での工事は住民の同意なく行える」とする大深度地下使用法にもとづいて進められてきました。この法律に対し、日本共産党は「たとえ大深度でも住民の生命に損害を及ぼす恐れがある」と強く反対しました。都議会でも、国内外の各地で地下トンネル工事によって地盤沈下や陥没事故が生じたことを示して、建設中止を要求しました。政府は「地上への影響は生じない」と言い張って外環道の工事を進めてきましたが、道路陥没とともにこの言い訳は崩壊しました。その大深度法でさえ、国と都道府県に、安全確保、地盤状況の情報収集・提供などを求める規定があり、外環道建設はこれに照らしても違法工事です。
【出典】共産党公約
②が如実に示されているのは以下である。数字で明確に裏付けをしている。
「東京外環道は、工事の開始時には事業費が1メートル1億円でした。現在、練馬―世田谷区間の工事を強行していますが、難工事で2兆3500億円に膨らみ、1メートル1.5億円にのぼります。」
【出典】共産党公約
しかし、上記の文章を読んでいても、一方的視点が目立つことも確かである。外環自動車道がもたらす経済効果、都民の移動のメリットなどとの比較をして考えるべきだと個人的に思うが、その視点は垣間見られない。つまり、多様な視点、多様性が見られない。多様な視点から政策を俯瞰して見れていられてない、一部の利益(価値観?)を代弁していると見えてしまうことはとても残念である。
課題は、都政のことを国政の問題に結びつけてしまっていること、「あいつが悪い」的な責任追及な政治色が強いことである。「政治決戦」「菅・自公政権の腐敗・強権・冷酷政治に、都議選で審判を」といった文言ににじみ出るように、こういった敵を作って内輪で盛り上がっていると部外者の周りはひいてしまう。今後、支持者を増やしていくつもりなら、こうした「内輪体質」を変えた方がよいのではないか。老婆心ながら思ってしまう。
■政策評価の専門家としては
さて、政策評価の専門家として5つの視点から評価を下そう。
①コンセプト:〇 ⇒【理由】明確、ぶれない、論理的一貫性
②都民視点:〇 ⇒【理由】弱者起点
③問題解決:△ ⇒【理由】顕在する問題には対処はできているが・・・
④未来志向:× ⇒【理由】社会の変化を見据えているようには見えない
⑤政策としての基本要件:△ ⇒【理由】どの程度まで拡充するのか不明。設置して運用は?
問題追及はさすがである、ほんと素晴らしい。しかし、現政権への批判も目につく。そうすればするほど、調査力の分厚さや深さや鋭い問題意識がかすんでしまう。
また、「〇〇を設置します」など組織を増やすこと、「〇〇条例を制定します」など法律を作ることが政策案に多々明記されている。組織作りや法律作りでは問題は解決しない。組織や法律を機能させ、成果をあげることこそが大事なのに、その視点はない。そうした問題解決思考が見られなかったのは残念である。建設的な提案をできるだけの能力と知見と見識を兼ね備えている議員やスタッフがいるのに大変もったいない。共産党の政策提案に期待したい。
トップ写真:志位和夫日本共産党委員長 出典:Buddhika Weerasinghe/Getty Images
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この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者
経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家
NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。
専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。