都議選公約分析「都民ファーストの会」その2 未来志向ではあるが、問題解決できるか?
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
【まとめ】
・ネット投票実現、ポリファーマシー対策強化など先進的政策も。
・コロナ禍でも問題視された「東京一極集中」対策はスルー。
・「コンセプト」「未来志向」は〇、実行プランは「不明確」。
都議選恒例「都民ファーストの会公約分析」。都民ファーストの会、第二回です。全体的には、時代にあった、社会の重要なトピックを押えているまっとうな公約になっています。
▲画像 【出典】都民ファーストの会政策集2021
■先進的な政策提案も数々
なかなか、目の付け所がよいという政策も多い。
・各種選挙のインターネット投票実現「民主主義のDX」
・東京版ニューディール:職業訓練とセットの就労支援の強化
・ポリファーマシー(多剤服用・併用)対策の強化
・水素ステーション・燃料電池トラック等の普及促進
・VPP等のスマート・エネルギーマネジメントの推進
・東京版・環境減税の強化
・AI水位予測・スマートメータ・多機能型マンホール蓋等による水害対策
聞きなれない言葉が並ぶが、こういった点に目を付けたということはとっても優れていると思う。複数の薬を服用することによって発生する「ポリファーマシー」について記述された公約は初めて見た。薬の数が6種類を超えると発生頻度が大きく増加するといわれており、高齢者の多い東京では大変注意を要する問題である。
また、VPP(バーチャルパワープラント・仮想発電所)とは家庭・家や建物や工場などの小規模な発電設備や蓄電設備をIoTでまとめて集約し、遠隔制御してあたかも1つの発電所のように運営させ、需給バランスなどを効率化・最適化するものである。こうしたエネルギー政策のオルタナティブを提起しているところなどはさすがである。
■3つの特徴
しかし、それ以外の公約を見ると、3つの特徴にまとめられる。
①政策というより行政の役割を述べただけ
②具体性がない、数字がないのでどこまでのレベルまで行うのか不明
③都政改革 「シン・トギカイ」で動かす議会へ ! など、かっこいい・キラキラ感が満載
現在、東京一極集中問題がコロナ禍で明らかになり、多くの国民も東京一極集中への問題意識を深めるようになった。しかし、公約ではほぼほぼスルー。東京の存在意義が問われているのにもかかわらず、それに対して出てこない点が問題であろう。コロナ前から、東京への過度な集中への問題を避けてきた都民ファーストの会であるが、コロナで状況は変わった。東京だけが栄えるのではない「東京と地方の共存共栄」についてのモデルが示せないのは残念である。
■政策評価の専門家としては
さて、政策評価の専門家として5つの視点から評価を下そう。
①コンセプト:〇 ⇒【理由】素晴らしい
②都民視点:△ ⇒【理由】都民からのボトムアップの内容が希薄
③問題解決:× ⇒【理由】与党にも関わらず実行プランが不明確
④未来志向:〇 ⇒【理由】未来志向の内容
⑤政策としての基本要件:× ⇒【理由】抽象的な言葉が並ぶ
ということになる。
▲画像 【出典】都民ファーストの会政策集2021
しかし、「構造改革の断行によるサステナブル・リカバリーの必要性」という問題意識はしっかりしている。日本経済の問題にも言及している。都民ファーストの会の公約推進に期待したい。
トップ写真:都民ファーストのポスター(2017年6月) 出典:荒木ちはる東京都議会議員(都民ファーストの会) facebook
あわせて読みたい
この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者
経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家
NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。
専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。