トランプ式経済運営に限界あり
「細川珠生のモーニングトーク」2017年1月21日放送
細川珠生(政治ジャーナリスト)
Japan In-depth 編集部(坪井映里香)
2017年1月20日(現地時間)の就任式を経て、正式にドナルド・トランプ氏が第45代アメリカ大統領に就任した。就任演説では「アメリカ・ファースト」を掲げ、特にTPP(=環太平洋パートナーシップ協定)から離脱する意向を正式に表明。今回のモーニングトークは、TPP担当大臣であった甘利明衆議院議員をゲストに迎え、アメリカと日本の今後の経済協力について話を聞いた。
甘利氏はトランプ氏は「破天荒な大統領」と述べ、「周辺の国々は振り回される一年になると思う。」との見方を示した。同時に、「問題意識を共有して正しいアプローチを共有することが大事。」と述べた。
トランプ氏の「アメリカ・ファースト」の姿勢については、トランプ氏は即戦力として、アメリカ国内のアメリカ国民の雇用確保という具体的な実績をあげたいという使命感を持っていて、それは「政治家として悪いことではない。」と甘利氏は述べた。しかし、企業に対しアメリカに立地をしろ、と強硬な態度を示すのではなく、企業の立地選択の条件についてトランプ氏は考えなければならない、とも指摘した。そうでなければ「きわめて短期的には正しい選択かもしれないが、中長期的には逆にアメリカの足を引っ張る結果となりうる。」とトランプ氏の産業政策には限界があるとの考えを示した。
第一に、そもそも企業がどこに立地するかという選択は、甘利氏によると「競争力が高まるか否か」であるという。メキシコに立地するのはメキシコの方が低コストであり、より競争力が上がるからで、例えばアメリカだと、メキシコほど労働者の賃金が低くなく、高い法人税の存在があるため、結果アメリカで作った車は価格が上がり、競争力がなくなる。輸出をしようとしても、高い車は買ってもらえないので輸出力も低下する。そういう理由で企業はアメリカに立地をしない、と甘利氏は解説した。
企業が立地を考える条件として甘利氏は「法人税を国際水準に合わせる」、「研究開発に恩典を与える」、「規制を緩和して手続きを簡素化する」といった具体的な解決策を上げ、「企業が立地をしたくなるような環境を整える」ことに重きをおくことの重要性を指摘した。
また、(アメリカ車の)輸出の際、関税や通関手続きが障害となるが、甘利氏は、「例えば通関手続きを何時間以内にやる、というルールを作り、日米のような自動車産業先進国共通のルールを途上国などに共通化していく方が中長期的に見てアメリカの自動車産業を進展させる。」と述べた。
第二に、農業をはじめとする第一次産業、製造業など第二次産業、そして情報化革命、と時代とともに産業は発展してきている中で、現在は第四次産業革命が起きている、と指摘。第四次産業とは、ビッグデータやAI等、「コンテンツをどう集めてどう分析するか」という産業である。「アメリカはその先頭をいっているから、常に(国内立地は)付加価値の高い産業へと変わりつつある。」(甘利氏)。新しい産業を担う企業が、国内に立地することで競争力が落ちると判断すれば海外に立地するため、「そういった、産業が変革していくということも指導者としてしっかり見ていて、より付加価値の高い産業が立地できるようなアメリカにしていくという発想も大事。」と述べた。
甘利氏は具体的にGoogle、Facebook、Amazon、AppleなどのIT企業の名をあげ、こういった企業がアメリカに本社を置けるようにすることで法人税をアメリカに支払う、という体制をつくれるようにするということだ。
「旧態依然としたままの産業がアメリカに立地すれば稼げるという考えは間違い、そういう産業はどうやってブラッシュアップできるかということに環境整備していく」ことと、「時代を担う産業はアメリカが先導して、アメリカに本拠地をおいて活躍するというような、全体を俯瞰する能力が必要」と述べた。
細川氏は甘利氏の話を受け、トランプ氏がTPP離脱の表明をしていることに対し、日米関係とTPPの重要性の発信を、もっと日本がしていくべきだと思う、と述べた。TPP交渉を行った甘利氏はそれに同意し、トランプ氏の二国間交渉を重視する姿勢に懸念を示した。トランプ氏は、二国間の交渉であればアメリカが相手を押し倒せるからアメリカに有利、と考えていると甘利氏は述べる。しかし、「通商交渉で大事なのはゼロサムゲームではない。」と指摘。つまり、片方が得をして片方が損をする(=ゼロサム関係)ではなく、「通商交渉はウィンウィンゲーム」であると述べ、多国間の交渉が重要だとの考えを強調した。
そのために「大事なことはルールの共通化。」と述べた。「できるだけ多くの国が集まって、これを共通ルールにしていこう、共通にしたものを世界展開していこうというもの。」と述べた。TPPの重要性は、「WTOが動かない中でルールを共通にしていく」こと、と甘利氏は認識している。日米が主体で作ったルールをアジア太平洋標準にし、さらにアジア全体、中東、アフリカ、そしてヨーロッパへという順に、「日米で作ったものが世界標準になる」という点が最も重要なTPPの意義であると述べた。
細川氏は、「日米関係の継続の中でトランプ氏がいい国を作ってほしい。」とトランプ大統領の今後の政権運営に期待を示した。
(この記事はラジオ日本「細川珠生のモーニングトーク」2017年1月21日放送の要約です。ラジオ放送ネット視聴サービスRadikoにて放送後1週間は録音を聞くことが出来ます。)
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この記事を書いた人
細川珠生政治ジャーナリスト
1991年聖心女子大学卒。米・ペパーダイン大学政治学部留学。1995年「娘のいいぶん~ガンコ親父にうまく育てられる法」で第15回日本文芸大賞女流文学新人賞受賞。「細川珠生のモーニングトーク」(ラジオ日本、毎土7時5分)は現在放送20年目。2004年~2011年まで品川区教育委員。文部科学省、国土交通省、警察庁等の審議会等委員を歴任。星槎大学非常勤講師(現代政治論)。著書「自治体の挑戦」他多数。日本舞踊岩井流師範。熊本藩主・細川家の末裔。カトリック信者で洗礼名はガラシャ。政治評論家・故・細川隆一郎は父、故・細川隆元は大叔父。