「圧倒的に勝つ」アイスホッケー女子日本代表その4
神津伸子(ジャーナリスト・元産経新聞記者)
■多すぎるペナルティ
続くフランス戦には、4-1で勝利。「立ち上がり、良い入りが出来た」と、監督の山中武司。だが、スマイルジャパンの悪いところが出てしまった。反則が重なって、7つ。対するフランスは5反則。アイスホッケーでは、反則を犯すとマイナーペナルティで2分間、その反則者が退場させられ、自軍は1人以上少ない布陣で戦わなけらばならない。常時、ゴーリーを除けば、5人のプレーヤーで戦うので、反則すると5人-4人、反則者が同時に出れば5人-3人で戦わなければならず、防戦一方になってしまう。自軍の攻めの流れも、悪くなる。
基本的には、強い相手に追いすがろうとして、反則は犯しがちだが、格下相手にこの数は残念な結果だ。
フランスに打たれたシュートは22本、圧倒的に勝つための、打たれるシュートは15本以内、完封勝利も出来なかった。
■育つ若武者
だが、「若手の動きが良い」と、山中。
第2セット目(注:アイスホッケーは随時メンバーチェンジ出来る。通常、1チームは3~4組のセットを40~60秒のインターバルでどんどん交代させていく。一般的に1セット目が最強だが、作戦で色々入れ替えたりする)を、ピリオドのスタートでは、先頭に起用して、起爆剤に活用もした。
最終予選のスマイルジャパンの2セット目のFWは若手の浮田留衣、床秦留可、永野元佳乃で組まれていた。
「昨年から、ずっとこのセットなのでやり易い」(浮田)
「パワーが発揮出来るセットです」(床秦)
「今回は、力が出し切れなかったので、次、頑張ります!」(永野元)
永野元は、カナダの東海岸、オンタリオホッケーアカデミーで武者修行中、招集されている。
大阪・堺の出身の永野元は、チーム最年少の18歳。ソチ五輪を、パブリックビューイングで応援しながら、「次は自分が!」と、強く決意したと話す。
「強くなるために」と、アイスホッケーの聖地・北海道苫小牧市に中2で母と弟と転居。さらなる高みを目指し、駒大苫小牧高校を中退し、単身カナダに渡っている。
そんな後輩らに、いつも励まし役・声かけ役を買って出ているのはスマイルジャパンの元気印の中村亜実。この試合の先制点をあげ、試合のMVPにも輝いた。
試合後、「まさか、私が!?ビックリ!!な感じです」と、満面の亜実スマイル。国際試合、しかも重要な公式戦で、MVP初体験と言う。
だが、次の瞬間には、中堅選手の自覚が顔を覗かせた。
「ムードメーカーである自分の役割も、少しずつ変わって来ているのだと思います。前は皆を笑わせて、和ませるのが自分の仕事でしたが、今は、声をかけて力づけたり、励まさねばと。まあ、ベテランの中の若手って感じですかね、自分」
最後は、しっかりと笑わせてくれた。
若手・中堅・ベテランのバランスが良いのも、スマイルジャパンの強みでもある。そして、ここに至るには―。
元代表メンバーが、応援に集結したフランス戦
このフランス戦で、スマイルジャパンメンバーを喜ばせたのは、集結したジャパンOGだった。長野五輪出場組や歴代のジャパンメンバーが、応援席から熱い声援を送った。試合後には出待ちしていて、選手たちがなかなか出て来ないため、さすがに焦って、近くにいた警備員さんに待機しているスマイルジャパン用のバスの場所を聞くはめに。それでも、ギリギリ駆け付けて会えて、安堵した。かつてのチームメイトの小野粧子らと声を掛け合うことが出来た。
その陣容はと言えば、幼い娘たちを連れてフェリーで乗り付けた鈴木(旧姓・佐藤)あゆみ、ソチ五輪の強力DF近藤陽子、長野組(いずれも旧姓)の須藤亜希、藤原志保、小田由香、荒城三晴ら、強力メンバー。鈴木は幼い娘の強い要望で、ゴールネットほぼ真後ろの最前列に陣取り、後輩たちの熱い闘いを見守った。
集合写真では、本当に、全員が楽しそうに写っていた。
「今のスマイルジャパンは、上手いし、強い!とにかくあと1試合、出し切って欲しいです」と、鈴木は後輩たちにエールを送る。翌日は、娘たちの練習があるからと、試合後、また、苫小牧港からフェリーで地元に帰って行った。
これらの多くの元ジャパンたちが礎となって、今がある。
「熱い試合を見ていて、(荒城)三晴さんが長野オリンピック開会式の入場の時に、泣いていらっしゃったことを思い出しました」(鈴木)
そして、今、氷上で圧倒的な強さで闘う代表メンバーたちは、元代表らの娘たち、未来のスマイルジャパンに、しっかりとバトンを繋いでいく。
繋いでいかねばならない―。
(文中敬称略) 次回につづく
*トップ写真:低い姿勢で突っ込んでいく最年少永野元選手(公益財団法人苫小牧市体育協会撮影)
*文中写真:皆の夢を乗せて。小さなファンも沢山詰めかけ、連日満席だった(同)
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この記事を書いた人
神津伸子ジャーナリスト・元産経新聞記者
1983年慶應義塾大学文学部卒業。同年4月シャープ株式会社入社東京広報室勤務。1987年2月産経新聞社入社。多摩支局、社会部、文化部取材記者として活動。警視庁方面担当、遊軍、気象庁記者クラブ、演劇記者会などに所属。1994年にカナダ・トロントに移り住む。フリーランスとして独立。朝日新聞出版「AERA」にて「女子アイスホッケー・スマイルJAPAN」「CAP女子増殖中」「アイスホッケー日本女子ソチ五輪代表床亜矢可選手インタビュー」「SAYONARA国立競技場}」など取材・執筆