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.政治  投稿日:2017/7/20

豊洲・築地2市場両立不可能 東京聖栄大 藤島廣二氏


「細川珠生のモーニングトーク」2017年6月24日放送

細川珠生(政治ジャーナリスト)

Japan In-depth編集部(大川聖)

【まとめ】

・豊洲と築地双方に市場機能を持たせるのは無意味。

・卸売市場の存在は、生産者と消費者双方の利益。

・築地市場を使うならいつからか、はっきりさせるべき。

 

小池都知事が築地市場を豊洲に移転した上で、築地市場を再開発し、市場機能を確保するとの方針を表明した。政治ジャーナリストの細川珠生氏が食品流通の専門家である東京聖栄大学客員教授の藤島廣二氏に話をきいた。

 

■豊洲と築地2カ所の市場は実現困難

小池都知事が表明した方針について、藤島氏は「豊洲と築地の2カ所でやるのは果たして可能なのかという疑念を強くもった。卸売市場が複数あるのは決して悪いことではない。都内には、中央卸売市場が生活部門9つ、水産部門3つある。お互い競争しているがそれぞれ独自の商圏(集客の範囲)を持っている。ところが、築地と豊洲はわずか2、3キロの近さ。道路もできる。両方でやる場合独自の商圏を持つことは不可能。とすれば、お互いの競合が激しくなり、いずれかが成り立たなくなる。」と述べ、豊洲築地2カ所に市場機能を持たせるのは難しいとの見方を示した。

 

■卸売市場の価値

産地直送が増えている現在、食品が市場を経由するのは約5割であるという。その中で卸売市場の存在価値をどう考えるか、と細川氏が問うと、藤島氏は、「卸売市場は、農家・漁師たちが作ったものをいつでも持って行って販売できる」場所であると指摘した。一方契約取引は、「生産量が多いと融通が利かず、逆に少ないとペナルティの対象になる。(卸売市場が存在することで)生産者は安心して生産・漁獲できる。そういう意味で非常に重要な役割を果たしている」と述べ、卸売市場の機能を評価した。

また藤島氏は買い手側にとっての市場の意味を考えるうえで小売業を例に挙げ、「小売業を営む資金があれば、仕入れ先として卸売市場を選ぶことができる。その結果、日本には様々な小売り業者がある。ナショナルスーパーもあればローカルスーパーもある」と述べた。つまり、卸売市場があれば、小売業は大きな資本がなくとも、いつでも仕入れが出来て小売業務を行うことができるのだ。卸売市場が存在することで、日本は小売の寡占化が進まず、自由競争の下、様々な小売店がある、ということだ。

日本の小売業界の寡占率は他国と比較して非常に低い。藤島氏は「日本では上位5社の小売店チェーンのシェアは約30パーセント。しかし、欧米では少なくとも約40%、多いところでは70%。オーストラリアは2つのスーパーマーケットしかないので80%」と述べた。

寡占率が高まってくると、「生産者は安く買われ、消費者は高いものを買わされることにもつながりかねない。」と藤島氏は指摘する。一方、寡占率が低いと、小売は卸売市場から「仕入れることができ、非常に有用な利益になる。」一方で、消費者にとっても、お店、品物を選ぶ、「選択の自由」が担保されると共に、安く買うことができる、と述べた。

卸売市場が生産者、消費者双方にとって、重要な役割を果たしている、と藤島氏は強調した。

 

■市場の活性化に必要な事

卸売市場は経営率が低下している。今後、市場の活性化に何が必要か、との質問に対し、まず、現在ネット販売等流通ルートが多様化している点については、「様々な購入先があるのはよいことなので進めていくべきである」と藤島氏は述べた。

そして、経営率低下の原因は「加工品が増えていることである」とした。現在、卸売市場は卸売市場法に基づいて生鮮食品等(「等」とは花き)を扱っており、未だ市場は生鮮品を扱う所という認識で、「加工品を扱うノウハウがない。」という。

しかし現状として、加工品が増えているので、「加工品が増えてくればくるほど市場の経営率が低下することになっている」と指摘した。

藤島氏は、加工品が増えている理由の一つに高齢化が挙げられる、という。高齢者は体力の衰えや単身者の増加で、外食や中食(なかしょく:弁当や惣菜等出来合いのものを買ってきて自宅で食べる)を利用するようになるからである。

そして、藤島氏は「中食企業、レストランもチェーン・企業化している。」ことを指摘した。理由として、生ものを調理することは、人件費や残り物を産業廃棄物として出さなければならないこと、また衛生等、様々な問題が発生することを挙げた。その結果、加工品の出回り量が増えているという。

加工品の中では特に「野菜が増えてきていて、ポテトチップス等含め少なくとも(市場に出回る)3割以上が加工品である。さらに、果物はジュースが多いが半分近くが加工品である」。

このように結果として市場の経営率が徐々に下がってきている。市場の活性化には、「(生鮮食品だけでなく)加工品も取り扱えるようにし、また、中食・外食等の業務用に対応できるようにするべきだ。」と強調した。

細川氏は、「生活・ライフスタイルに合わせた市場の求められている姿があるだろう」と述べた。

 

今後の築地市場の見通し

現在、豊洲は一時移転、仮住まいのような形に見受けられるが、最終的に築地にこれまでの市場の機能を全面的に残すことについて、藤島氏は「築地にするか豊洲にするか、どちらかをはっきりさせなければならない」との考えを改めて強調した。

また藤島氏は、築地市場を使う場合、「何年までに建物作るのか、何年頃から営業できるのか」を具体的に明らかにすべきだと指摘した。例えば、小売り業者が東京都内は多い。商店街の中に魚屋、八百屋があるからで、地方はむしろスーパーが多い。そうした小売業者が「安心して仕入れるような状況を作らなければならない。

もし、築地市場の先行きが不透明なために、「跡継ぎに任せられないとなり、もし廃業してしまったら」消費者、特に高齢者にとって大きな不利益となる、と藤島氏は締めくくった。

(この記事はラジオ日本「細川珠生のモーニングトーク」2017年6月24日放送の要約です)

 

「細川珠生のモーニングトーク」

ラジオ日本 毎週土曜日午前7時05分~7時20分

ラジオ日本HP http://www.jorf.co.jp/index.php

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細川珠生ブログ  http://tamao-hosokawa.kireiblog.excite.co.jp/

トップ画像:©Japan In-depth 編集部


この記事を書いた人
細川珠生政治ジャーナリスト

1991年聖心女子大学卒。米・ペパーダイン大学政治学部留学。1995年「娘のいいぶん~ガンコ親父にうまく育てられる法」で第15回日本文芸大賞女流文学新人賞受賞。「細川珠生のモーニングトーク」(ラジオ日本、毎土7時5分)は現在放送20年目。2004年~2011年まで品川区教育委員。文部科学省、国土交通省、警察庁等の審議会等委員を歴任。星槎大学非常勤講師(現代政治論)。著書「自治体の挑戦」他多数。日本舞踊岩井流師範。熊本藩主・細川家の末裔。カトリック信者で洗礼名はガラシャ。政治評論家・故・細川隆一郎は父、故・細川隆元は大叔父。

細川珠生

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