高まる北朝鮮の脅威 憲法改正急げ
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・北朝鮮の6回目の核実験で日本への脅威かつてないほど高まる。
・しかし今の日本には、軍事的脅威を軍事的な手段で防ぐ仕組みがない。
・北朝鮮の脅威に対して日本は自国の防衛を縛るアメリカ製憲法を変えることが急務。
日本の防衛とは首相がアメリカ大統領と電話で話すことなのか――
こんな皮肉っぽい感想がつい浮かんでくる。北朝鮮の第6回目の核兵器実験に対するわが日本国の対応である。
北朝鮮は9月3日、全世界の反対の中で6度目の核実験を断行した。かつてない爆発規模、そして北朝鮮当局はこの爆発が水爆だったと宣言する。北朝鮮が独自の長距離核戦力の構築に向かっていよいよ最後の前進を果たしつつあるのだといえよう。
北朝鮮が弾道ミサイルに核弾頭を装備しての本格的な核武装を終えれば、アメリカへの脅威よりもまず隣接に近い日本への脅威はさらに重大となる。そもそも日本を敵視する北朝鮮が核ミサイルをいつでも日本に撃ちこめる態勢となれば、日本の安全保障へのその影響は深刻である。日本という国家の存在自体を根底から脅かすこととなろう。
北朝鮮は8月29日にも日本に向かって弾道ミサイルを発射し、北海道上空を越えて、日本領土からそう遠くない北太平洋上にそれを落下させた。北朝鮮当局は日本をアメリカの「追従勢力」と断じて、敵視したうえでの、こんな軍事行動だった。
▲写真 北朝鮮の中距離弾道ミサイル「火星12号」
だがその5日後の核爆弾の爆発実験でも、北朝鮮は日本をアメリカとともに標的と位置づけていたといえよう。この重大な危機の核実験に対して、わが安倍晋三首相はまずアメリカのトランプ大統領と電話会談をして、「日米韓で連携しながら、国際社会と共に協力し北朝鮮の政策を変えさせていくことで一致した」という。
▲写真 米トランプ大統領・露プーチン大統領との電話会談後の安倍首相の会見 2017年9月3日 出典:首相官邸HP
北朝鮮の暴挙に対して、安倍首相はこのところトランプ大統領との電話会談を頻繁に続けている。北の核にもミサイルにも、とにかくトランプ大統領の電話会談がまずありき、なのだ。日本独自の措置が出てこないのである。
安倍首相は日本国内ではこの北朝鮮の核実験に対して「断じて容認できない」と非難した。「アメリカ、韓国に加えて中国、ロシアをはじめとする国際社会と連携して断固たる対応を取る」とも語った。出てくる言葉はみなアメリカや韓国などとの連携なのだ。中国やロシア、さらには国連との連帯だともいう。
このように日本の対応はみなよその国との連携なのである。あるいは国連の利用なのだ。「断じて容認できない」と述べても、その言葉に実効を持たせる物理的な手段はない。
この点はアメリカと決定的に異なる。韓国とさえ異なる。アメリカも韓国も最悪の事態の場合には実力で北朝鮮の核やミサイルの攻撃能力を防ぐ手段を有しているのだ。だがわが日本にはそれがない。だから他の国と手を組む、つまり他の国に戦争や衝突の抑止の役を負わせることとなる。要するにすべて他国任せなのである。
いまの北朝鮮からの日本にとっての脅威は軍事的な脅威である。だが日本側にはその軍事的脅威を軍事的な手段で防ぐ仕組みがない。ミサイル防衛網というのがアメリカの協力を得て、配備されてはいるが、いざ北朝鮮が日本攻撃という態勢となれば、多数の弾道ミサイルを防ぐ方法はない。
日本は憲法によって自国の安全は自国の防衛手段ではなく、「平和を愛する諸国民の公正と信義」(憲法前文)を信頼することによって守ることをうたっている。国としてはすべての戦争も交戦権も武力の行使をも放棄し、陸海空軍などの戦力は持たないと憲法9条で決めている。
そもそも日本を占領中の米軍当局が「日本を永遠に非武装にしておくことを最大目的」(憲法草案を書いたチャールズ・ケーディス大佐の証言)として作った憲法なのである。
▲写真 チャールズ・ケーディス(Charles Louis Kades)大佐
北朝鮮は日本をはっきりと敵と断じて、その日本に向けてミサイルを発射し続け、核兵器をも攻撃や威嚇の手段として開発する。普通ならばその日本が自衛措置をとって、その種の軍事行動を抑えるだろう。相手は日本国の破壊を目的とする具体的な措置を次々にとっているのだ。
戦争をしてでも自国の要求や野望を達しようという国はその相手国が防衛や抵抗をしなければしないほど、侵略的となる。抑止力や反撃能力の少ない相手に対してほど戦争をしかけることが容易となる。
だから北朝鮮は日本を仮想敵として、危険な行動を次々にとるのだ。そんな危険な行動を抑えるためにはこちらも軍事能力を高めることが効果がある。ところが日本はそうした自衛のための抑止力の強化さえも、「平和憲法」なる非武装大典によって禁じているのだ。
中国の脅威に対しても同じことがいえる。日本固有の領土の尖閣諸島を奪取しようとする中国は日本側の防衛の能力や意思が少なければ少ないほど侵略を速め、広げてくる。だから日本を敵としてみる側にとって日本のいまの憲法はまさに好都合なのだ。
私はそのへんの日本の安全保障の構造を近著『戦争がイヤなら憲法を変えなさい』(飛鳥新社)で詳しく解説した。いま目前に迫った北朝鮮の脅威に対しても日本はやはり自国の防衛を自縄自縛するアメリカ製憲法を変えることが急務だと考える次第である。
トップ画像:北朝鮮 中距離弾道ミサイル「火星12号」 出典/Defense Blog
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。