対北、新ミサイル防衛システム配備を 慶応大学神保謙准教授
「細川珠生のモーニングトーク」2017年10月14日放送
細川珠生(政治ジャーナリスト)
Japan In-depth 編集部(大川聖)
【まとめ】
・北朝鮮への脅威に対し、対話と圧力は表裏一体。対応の実現可能性を議論すべき。
・新ミサイル防衛システムの整備が急務。敵基地能力については日米韓で議論すべき。
・自衛隊は有事対応になっていない。法体系の整備を急げ。
安倍首相は10月22日に行われる衆議院議員総選挙で、北朝鮮をめぐる情勢を国難の一つに挙げ、争点として位置づけている。また、今年9月の国連演説で、北朝鮮が過去2回行った対話での合意を破り、核・ミサイル開発を進めている現状から、対話ではなく圧力強化を訴えた。北朝鮮への対応を含む安全保障について、政治ジャーナリストの細川珠生氏が慶應義塾大学准教授神保謙氏に話をきいた。
■ 対話か圧力か
細川氏は「安倍総理としては、国連演説での下地もあるので、これからは対話ではない選択をするということで選挙に臨んでいると解釈してよいか」と質問した。
神保氏は「事態は刻々と動いているので、選挙において対話と圧力を選択するというのは現実的ではない。基本的に対話と圧力は表裏一体で、対話に導くためには圧力が必要となる。バランスをどう追求するかということになるが、これも投票で決めることではない。
もし、この議論を盛り上げるのであれば、現在の北朝鮮の脅威をどのように評価して、この脅威に対応するためにどういう政策の選択肢があるかということを公約や政策集の中で明示をして、それの成否や実現可能性を投票者に評価させるという論争をするべきだ。
しかし、今のところ非常に曖昧な議論しかなされていない点において、あまり現実的な路線闘争、路線選択が議論されているとは言えない状況だ」と答えた。
■ 防衛体制
細川氏は防衛体制整備について、「国会で予算を確保するところから始め、ある程度年数が必要である。自民党の公約の内容はそのまま今の北朝鮮情勢の対応に当てはまるということではないのではないか」と質問した。
神保氏は「防衛装備はやはり数年間のリードタイムをもって配備されるものなので、直ちに能力が明日から転換するのはあり得ない。
ただ大事なのは、こういう方向性を示すこと自体は、北朝鮮や中国に対する日本の姿勢を示すというメッセージになる。このままいくと日本はさらに同盟を強化し、自衛隊の装備も飛躍的に強化されるというメッセージを受け取った北朝鮮や中国がどういう対応をするのかという意味においては現時点においても大変有効な選択肢である」と答えた。
また、「実際に北朝鮮のミサイル能力は10年前と比べて飛躍的に進化している。例えば、日本を射程におさめたノドンミサイル、スカッドERという西日本を射程に含むミサイルの実践配備が極めて進捗していて、同時発射や同時着弾をしたり、移動式のプラットフォームを使って発射したりして、ミサイル防衛、迎撃を難しくさせている状況がある。
今(日本が)整備している低層・高層のミサイル防衛システムでは、十分ではない。新しいミサイル防衛のシステムを付加的に配備する必要がある。」と述べた。
■ 敵基地攻撃能力
細川氏は「敵基地攻撃能力が現実味を帯びてきていると思うが?」と質問した。
神保氏は、敵基地攻撃能力について2つの議論を指摘した。
「1つは、北朝鮮がミサイルを撃つ前にそのミサイルを破壊し、届かないようにする。(これができたら理想だが、)北朝鮮のミサイルは何百もあり、地下化され、移動式であるため、限定的な予算でそのような装備ができるとは考えづらい。
2つ目は、日本がそのような能力を持つと北朝鮮が日本を攻撃するのを躊躇うという、まさに抑止力を付けるという議論がある。ところが抑止も北朝鮮がためらうくらいの反撃能力を持たないと意味がない。
抑止力のための反撃能力は徹底的なものである。場合によっては北朝鮮の都市に対する大規模破壊を含むようなものを抑止の基盤とするなら、憲法の精神に反する議論だ。」と述べた。
神保氏は2つの議論を踏まえ、「北朝鮮が撃つであろうミサイルを若干程度少なくして、ミサイル防衛の精度を上げていく(これを『被害局限能力』という)という意味において、被害局限の一環として(敵基地攻撃能力が)議論されるというのが方向性としてはあり得る。
限られた防衛予算で敵基地攻撃能力として付加できる能力も限られている。」と述べ、敵基地攻撃能力は、被害を限定的にするための活用が現実的だとの考えを示した。
また、「北朝鮮の問題はアメリカも韓国も対応している。日本が敵基地攻撃能力を持ったからと言って、単独で戦争を始めるのは難しいということを考えると、日米韓三カ国の中での共通の政策として議論されなければいけない。」と述べた。
さらに、「安倍総理とトランプ大統領は何度も電話会談をしており、日米同盟はしっかりしている。」と述べた。一方、韓国との関係については「有事の際、邦人の退避計画や自衛隊の協力が必要になる。日韓関係の信頼は政治的におぼつかないところがある。
もし選挙で議論するならば、日韓の政治関係の正常化、信頼感の高まり、そして安全保障協力、有事の協同計画(を扱うべき)だ。大変喫緊かつ、重大な課題である。」と述べた。
■ 憲法9条
細川氏が、自衛隊を憲法9条3項に追記をすることについて、質問した。
神保氏は「自衛隊を、国際的な標準でいう軍隊という形で、憲法の中に位置づけるということは、成文関係を正常化させるという意味では重要なことだ。
それをどのように実現するかは、憲法9条2項削除で追記する等色々バリエーションがあるので、国民の中で広く議論すればよい。」と答えた。
一方、「大事なのは、安保法制も有事法制もできたが、組織としての自衛隊は有事対応型になっていないことだ。主要国にあるような戦争法廷、軍事法廷のような形で自衛隊が軍事ミッションを行って、場合によっては人を殺傷したりされたりした時の責任をどう問うかという法的な体系ができないまま、リスクのあるミッションに送り出せるのか。法的にまだ穴がある。」と指摘し、自衛隊の地位を憲法において確立した上で、責任の範囲をより明確にする必要があるとの考えを示した。
(この記事はラジオ日本「細川珠生のモーニングトーク」2017年10月14日放送の要約です)
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この記事を書いた人
細川珠生政治ジャーナリスト
1991年聖心女子大学卒。米・ペパーダイン大学政治学部留学。1995年「娘のいいぶん~ガンコ親父にうまく育てられる法」で第15回日本文芸大賞女流文学新人賞受賞。「細川珠生のモーニングトーク」(ラジオ日本、毎土7時5分)は現在放送20年目。2004年~2011年まで品川区教育委員。文部科学省、国土交通省、警察庁等の審議会等委員を歴任。星槎大学非常勤講師(現代政治論)。著書「自治体の挑戦」他多数。日本舞踊岩井流師範。熊本藩主・細川家の末裔。カトリック信者で洗礼名はガラシャ。政治評論家・故・細川隆一郎は父、故・細川隆元は大叔父。