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.国際  投稿日:2017/12/23

能力高い米国家安全保障会議


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2017#51(2017年12月18-24日)

 

【まとめ】

・米国家安全保障会議スタッフは、非常に機能する実務能力を持つチームである。

・米上院の民主・共和議席数は5149となったが、トランプ氏が直ちに窮地に陥るわけではない。

・米ペンス副大統領が中東を訪問したが、アラブ諸国との関係修復を図ることは出来ないだろう。

 

【この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ表示されることがあります。その場合はhttp://japan-indepth.jp/?p=37517でお読みください。】

 

先週はワシントンに出張して来た。本年6月に続き、キヤノングローバル戦略研究所が米国シンクタンクスティムソン・センターと共催でシンポジウムを開催したのだ。日本側研究者が複数の米論客と議論するこのシリーズは今回が4回目だが、毎回筆者のこだわりは日米で「日米関係以外の問題」を議論すること。今回のテーマは「トランプ外交一年を振り返る」だった。

筆者は「日米関係者の、日米関係者による、日米関係者のため」の会合などにあまり関心はない。この種の会合は「日米関係で喰っている人々」にお任せすれば良いとすら思っている。日米関係は大事だが、グローバルに見れば、欧州・中東・アジアという3戦域に対する米外交の優先順位を知る方が大事だ。

シンポジウムの概要は別途書いたのでここでは省略し、今回はワシントンの一般的印象を書こう。今回は珍しく、トランプ政権の関係者にも挨拶してきた。彼らは異質の人々だから通常のルートではアポイントなど取れそうもないと諦めていたのだが、今回はひょんなことからアポが取れた。実に幸運だった。

結論から言えば、対東アジア外交に関する限り、マクマスターNSC担当補佐官以下の国家安全保障会議スタッフが、前評判通り、非常に機能する実務能力を持つチームであることを確認できたということだ。長いトンネルの中で「光が見えた」ということか、日本にとってはまことに得難い存在ではある。

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▲写真 ハーバート・マクマスター国家安全保障問題担当大統領補佐官 出典:photo by U.S. Army Public Affairs

もう一人、名前は言わないが、某有力紙コラムニストで25年来の友人にも会えた。国際ベストセラー作家となった彼との友情が確認できたことは有難かった。経済の分野で続くグローバリゼーションと、政治レベルでのナショナリズム・ポピュリズムが衝突する時代になったという点で意見は図らずも一致した。

果たして「歴史は終わった」のか、「文明の衝突」は起きたのか、本当に「世界はフラット」なのか等についていずれ書く必要があるという点でも一致した。なるほど、米国でも似たようなことを考えている人はいるのだ。この点については日米欧でもっと議論を深める必要があるのではなかろうか。

 

〇欧州・ロシア

18日にオーストリアで中道右派の国民党と極右の自由党による連立政権が発足する。首相は国民党の若い党首だが、外相、国防相、内務相の主要ポストは自由党が獲得しそうだ。この国の極右は難民受け入れに強硬に反対でロシア寄りとされるが、こうして彼らが政権入りした以上、オーストリアとEUとの関係が気になるところだ。

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▲写真 世界最年少でオーストリア首相に就任したセバスティアン・クルス氏 出典:オーストリア連邦政府HP

気になるといえば、21日にスペイン・カタルーニャ地方で行われる選挙にも関心がある。20日にはドイツのキリスト教民主同盟など連立与党と社会民主党との連立協議は再び行われる。更に、22日からは統一ロシア党が来年の大統領選挙を前に党大会を開くそうだ。プーチン大統領支持を打ち出す出来レースとなるのだろうか。

 

〇東アジア・大洋州 

18日から中朝国境にある「友好橋」の「修理」が終わり再開されるという。丹東にあるこの橋が「修理のため」閉鎖されるなんて、ちょっと考えられない。中国側では北朝鮮との関係凍結などが喧伝されたが、要するに今回も完全な関係凍結には至っていなかったということか。別に驚かないが・・・。

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▲写真 中朝友誼橋(鴨緑江大橋) 出典:flickr  Prince Roy

19日から韓国外相が訪日する。1970年代の学生時代に訪韓した筆者は当時、「いずれ日韓外相が英語で話し合う時代は来るだろう」と直感したが、そういう時代がようやく近づきつつある。しかし、いつも思うことだが、時代は変わったが、韓国内政が相変わらずなのは仕方のないことなのか。

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▲写真 韓国康京和外相 出典:United Nations Information Center ©UN Photo/Manuel Elias

 

〇南北アメリカ

今回ワシントンで最も驚いたのは政治家のセクハラ疑惑がワシントン以外にも更に拡大しつつあることだ。日本でも実態は同じはずだが・・・。アラバマ州上院議員特別選挙で疑惑の共和党候補が惜敗し、上院の民主・共和議席数は5149となった。但し、これでトランプ氏が直ちに窮地に陥るとは思わない。

ワシントンのもう一つの話題は共和党の減税法案で、法人税が大幅に引き下げられるという。トランプ政権と共和党指導部はクリスマス前に同法案を成立させたいようだ。しかしこうなると、マケイン上院議員など病気療養中の議員が二人もいる共和党は大変。若い議会スタッフとも会えたが、ご苦労様ですね。

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▲写真 ジョンマケイン氏 出典:United States Congress

 

〇中東・アフリカ 

米副大統領が19日から3日間、エジプト、イスラエルを訪問する。米国がエルサレムをイスラエルの首都と認定してから初めてとなるが、何か前向きな期待を持つのは難しい。イスラエルとの協調を確認する一方、アラブ諸国との関係修復を図るというが、そんなこと出来る筈はない。辛い旅になるだろう。

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▲写真 アメリカ副大統領 マイク・ペンス氏 出典:photo by D. Myles Cullen

 

〇インド亜大陸

18日にパキスタンが中国との「経済回廊」の長期計画を明らかにするという。20-21日には中印国境協議が開かれる。先週の露印外相会談に続き、23日にはロシア副首相が訪印する。来週は本年第52号、あっという間に年末となった。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ画像:トランプ大統領とペンス副大統領、マクマスター国家安全保障問題担当大統領補佐官 2017年7月18日 Flickr  The White House  Official White House Photo by Shealah Craighead


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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