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.国際  投稿日:2024/6/11

ガザ紛争、誰が統治するかがポイント


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2024#24

2024年6月10~16日

【まとめ】

・先週末、ガンツ前国防相は戦時内閣から離脱した。

・ガンツはガザでの戦闘終結後の統治計画策定をネタニヤフ首相に求めていたが拒否されたので辞任は想定内。

・最終的には、第三段階で、誰がガザを統治するのかが最大のポイントになる。

 この原稿は成田行き帰国便を待つラウンジで書いている。最近は羽田発国際線が増えたので成田に帰るのは久しぶりだ。開港前は激しい「成田闘争」が続き、開港後も異常な警備で、空港に入る前に検査、検査で疲れ切ったことを思い出した。と言っても、若い人には「そんなこと、あったの?」と言われてしまいそうだが・・・。

 先週は、米国内政が二つの裁判で揺れていると書いたが、トランプ氏の「愛人口止め料」関連で有罪評決を受けた直後、DトランプJrは「米国を第三世界の途上国にするバイデン政権の企み」、「バナナ共和国の法律戦争」だと吠えた。筆者にはトランプ家の方がよっぽど「バナナ共和国」的だと思うのだが・・・、皆さんはどう思うか?

 一方、バイデン家も負けてはいない。大統領の次男ハンター・バイデンの公判がデラウェア州連邦地裁で始まったからだ。容疑は2018年に違法薬物依存症を隠して拳銃を所持したことなどだが、現職大統領の子息が刑事訴追されるなんて、これまた前代未聞。「どいつも、こいつも」、一体何やってんだ、と言いたくなる。

 しかし、今週の筆者の関心事は「もしトラ」の米国外交についてだ。昔、米政治学者WRミードは米国外交の潮流として4つ挙げていた。具体的には、

1ジェファソニアン「アメリカの国際的関与を基礎に、国益を選別的に考える潮流(例、ニクソン、以下同じ)」

2ハミルトニアン「積極的な国際的関与にアメリカ外交の利益を見出す潮流(GHWブッシュ)」

3ジャクソニアン「ポピュリズムを背景に国威国益擁護のため軍事力行使も辞さない潮流(レーガン)」、そして、

4「ウィルソニアン「米主導の道義的使命を念頭に民主主義や人権の拡大を目標とする潮流(クリントン)」の4つである。

 では、トランプ外交はどうかというと、実はこのどれにも当てはまらない。この問題は2017年当時からずっと考えてきたのだが、やはり結論は「新モンロー主義」だと思う。その理由を今週の産経新聞コラムWorldWatchに詳しく書いたので、ご一読願いたい。要は、トランプ政権の対外軍事介入はあくまで「選択的」ということである。

 今週は移動中につき、欧米から見た今週の世界の動きはお休みするが、最後に定番のガザ・中東情勢を書いておこう。先週はネタニヤフ首相がバイデンの示した停戦提案を受け入れないと「今度は(ガンツの如き)連立内穏健派閣僚が離脱しかねないのも事実だ」と書いたが、実際に先週末、ガンツ前国防相は戦時内閣から離脱した。

ガンツはガザでの戦闘終結後の統治計画策定をネタニヤフ首相に求めていたが、拒否されていたので、辞任は想定内だった

●一部には、ガンツの離脱でネタニヤフ首相の戦時内閣は「機能不全になり、戦闘の先行きにも影響を与えそう」とも報じられたが、ネタニヤフ首相はそれほど軟な男ではない

連立政権を壊したくないネタニヤフ首相はまだクネセット(議会)の過半数を維持しているので、超強硬保守派閣僚数名が閣内に残ればとりあえず生き残るはずだ

●合意案は今も交渉中だろうから、仮に妥結するとしても、かなりの時間がかかるはず、内容はどれもキワモノだから必ず「悪魔は詳細に宿る」からだ

●繰り返すが、最終的には、第三段階で、誰がガザを統治するのかが最大のポイントになる

●これが決まらない限り、まだ楽観は禁物、「期待すると裏切られる」のが中東だから、今週も期待しないで待つことにしよう

 今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:イスラエルのエルサレムで開催された第21回LGBTQエルサレム行進のスタート地点でスピーチするベンジャミン・ガンツ下院議員。2023年6月1日。出典:Photo by Alexi Rosenfeld/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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