核放棄、最終局面迎える【2018:北朝鮮】
朴斗鎮(コリア国際研究所所長)
【まとめ】
・北朝鮮情勢は緊張激化、決着は“北朝鮮の核放棄”か“米の核保有容認”かの二者択一。
・緊張状況に対する北朝鮮側の反応は2018年1月1日の「金正恩新年辞」で示される。
・北朝鮮の核問題解決は1993年以来の最終局面を迎える。
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来年の北朝鮮情勢は間違いなく緊張激化の方向に動くだろう。今のところ米朝どちらも譲歩する様子が見られないからだ。どちらにせよこの決着は、北朝鮮が核放棄に向かうか、それとも米国が北朝鮮の核を容認するかの二者択一になるしかないと思われる。米国の核容認で決着となれば日本にとって最悪の状況が生まれる。
この点に関して、一部の韓国学者の中では、「2017年に緊張が激化する所まで激化したので、2018年は対話局面に移る」との根拠のない楽観論を広げている人たちもいるが、この人たちは韓国の文在寅親北政権の希望的願望を代弁して流布する人たちだと言える。
現在までのところ米朝両国には、「対話」を裏付ける兆候は出ていない。米国ではティラーソン国務長官が「無条件対話」を主張したが、その後その主張はすぐに引っ込められた。この発言を契機にむしろ強硬発言が相次いでいる。
また金正恩委員長も、黄炳誓をはじめとした党内の高官と軍高官の降格・粛清を断行するとともに、年末に軍需工業大会と党細胞大会(党の末端委員長を集めた大会)を開き、戦争準備態勢を固めるとともに強硬発言を連発した。一部報道では来年に人工衛星発射を口実とした長距離弾道ミサイルの最終実験を行うとの観測もある。
こうした中で米国のジェームス・マティス国防長官は12月22日に、ノースカロライナ州フォートブラッグの第82空輸師団など軍事基地4カ所を訪問して「韓半島に暗雲が立ち込めている」とし「(北核危機を)楽観的に考える理由があまりない」と話した。
▲写真 ノースカロライナ州フォートブラッグ陸軍基地を訪問する ジェームス・マティス国防長官 2017年12月22日 出典:facebook: Mattice News
この空輸師団は朝鮮半島(韓半島)有事の際、空中で直接北朝鮮に投入される部隊だ。普段、北核危機に関して軍事的なオプションに用心深かったマティス長官がこのような部隊を訪問して「韓半島暗雲」を取り上げたのは韓半島で軍事的衝突の可能性が大きくなったという傍証だ(中央日報日本語版2017年12月26日社説)
米国外交問題評議会(CFR)も2018年に米国の安保を脅かす問題のうち北朝鮮との軍事衝突の可能性を8大1等級脅威要素のひとつに選んだ。
この緊張状況に対する北朝鮮側の反応は2018年1月1日の「金正恩新年辞」で示されることになるだろう。新年辞で金正恩が非核化を含めた対話のニュアンスを示せば一転対話の方向に進む可能性は大きくなるが、引き続き米本土攻撃の核ミサイル完成に号令をかけ、挑発を続ければ、米朝の緊張は一気に高まる。米国の平昌オリンピック不参加も議論にのぼるかも知れない。
特に危険なのは毎年3月から4月にかけて実施されている「韓米合同軍事演習」期間だ。米国は2017年中の軍事演習を通じて様々なケースの軍事作戦をほぼ終えた。2018年の「韓米合同軍事演習」期間に北朝鮮が太平洋上での水爆実験や、グアムへ向けてのミサイル発射などを行えば、米国は軍事行動を開始するだろう。それが局部戦争で終わるのか全面的戦争になるかは誰も分からないが、米国は多分最悪の場合全面戦もありうるとの覚悟のもとに行動に移るだろう。
▲写真 韓国ピルスンレンジ(Pilsung Range)で行われた 米空軍、米海兵隊、韓国空軍による合同軍事演習 2017年9月18日 出典:U.S.Pacific Command Photo By: SSgt. Steven Schneider
北朝鮮では現在、経済制裁だけでなく干ばつ被害によって経済状況の悪化が進んでいる。国民の金正恩体制に対する不満はかつてなく高まっているだけでなく指導部内部ですら亀裂が深まっている。
幹部の「面従腹背」はすでに一般化した。統治資金の外貨も枯渇し苦しい状況に陥っている。北朝鮮内部からの情報では、現在の外貨獲得は、正常な道が細り、中露との密輸とサイバーハッキング及びビットコイン操作に依存しているという。そのために当初年末に予定されていた「万里馬運動」の大会も流れた。国内の苦境が深刻化する中で国際的孤立もこれまで見られないほど深まっている。
▲写真 1997年 北朝鮮の干ばつ時の子供たち flickr:Trocaire
米国がこの機会を生かし、トランプ政権が続けてきた毅然とした政策を続ければ、北朝鮮の核問題解決は1993年以来の最終局面を迎えるに違いない。もしも米国がここで決断を先送りにし、軍事的圧力を心理戦にとどめて、だらだらと事態を引き延ばせば、トランプ大統領は、再びクリントン、ブッシュ、オバマの過ちを繰り返すことになるだろう。それだけではない。北朝鮮核除去の最後の機会を逸したという大きな過ちを歴史に記録することになる。
トップ画像:北朝鮮の弾道ミサイル 火星15号 出典 Missile Threat CSIS
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この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長
1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統