「弱い指導者」の弊害 カタルーニャ独立運動(上)
林信吾(作家・ジャーナリスト)
林信吾の「西方見聞録」
カタルーニャ独立問題・番外編(上)
【まとめ】
・カタルーニャ州州議会選挙の結果は、独立派70議席獲得で過半数超え。
・ラホイ首相率いる国民党は独立派からも反対派からも支持得られず惨敗。
・実際に独立が実現する見込みはほとんどなく、「弱い指導者」は国民のためにならない。
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「火事は最初の5分間、選挙は最後の5分間」という言葉があるそうだ。火事はさておき、選挙の予測というのは、本当に難しいものだ。最後の最後まで、なにが起きるか分からない。
昨年、英国のEU離脱の是非を問う国民投票において、最後は僅差ながら残留派が勝つだろう、と予測して、情けなくも外してしまった私は、つくづくそう思う。
写真)英国EU離脱への抗議 2017年5月
出典)Photo by Ilovetheeu
2017年12月21日、スペインのカタルーニャ州で実施された州議会選挙において、独立派が事前の予測を覆し、過半数を得た。事前の世論調査では、独立反対派がかなり優勢で、独立派は過半数に必要な68議席(定数135)を割り込むだろうと予想されていたのである。
それが蓋を開けてみれば、70議席を得て過半数を確保。一時は下火になった独立運動が、再び活性化すると見られ、市場ではこれを嫌って、スペイン企業の株が売られ、国債の利回りが早くも上昇の気配を見せはじめた。
ただ、独立が本当に達成できるか否かは、当然ながら別問題で、それが実現する見込みはほとんどない、という点では衆目が一致している。
写真)リュイス・コンパニス通りで独立宣言が行われるのを待つ人たち。2017年10月10日、バルセロナにて
出典)Photo by Amador Alvarez
また、独立派が70議席を得たと言っても、それは3党の合計での話だ。具体的には、10月に独立案を可決させ、さらには住民投票での賛成多数を背景に、独立を宣言して話題となった、プッチダモン前州政府首相が率いる「カタルーニャのための連合」は34議席。
これに対して、かつての欧州連邦主義からカタルーニャ民族主義に転向し、独立強行と自治拡大との間で揺れ動いているように見える共和左派が32議席。これに左翼政党である人民連合党の4議席を加えて、ようやく70議席なのである。
写真)プッチダモン前州政府首相
出典)Carles Puigdemont Twitter
一方の独立反対派だが、ラホイ首相率いる国民党は,選挙前の11議席から3議席と歴史的な大敗北を喫している。反対派の票は、独立派との対決姿勢を強めつつあるシウダダノス(市民の党)に流れた。
とどのつまり政権与党は、独立派と反対派、双方の有権者から挟み撃ちにあって惨敗を喫したのである。さらに言えば、独立派も前述の通り一枚岩ではないので、これから連立協議に入るわけだが、プッチダモン前州政府首相らは、憲法違反の独立宣言を行ったとして中央政府から訴追され、目下ベルギーで暮らしている。最悪、再選挙という可能性も視野に入れつつ、新たな州政府の枠組み作りは、非常な苦難を伴うに違いない。
独立派がまとまりきれない理由は、もうひとつある。中央政府からの訴追を逃れるべく、ベルギーに亡命したプッチダモン氏に対して、臆病者呼ばわりするような声が聞かれるのだ。
彼に対しては、反逆罪・国家転覆陰謀罪といった罪状まであげられており、これは読んで字のごとく、テロリストによる殺人などに適用されるものだから、中央政府の過剰反応であることは言うを待たない。しかし、それならそれで、あくまで国内に留まって法廷闘争で白黒をつけるべきだろう、というのが、彼を批判する人たちの言い分なのである。
写真)マリアーノ・ラホイ・ブレイ スペイン首相
出典)flickr: European People’s Party
これに対して、ラホイ首相の政党が惨敗した理由は、はっきりしている。独立の是非を問う住民投票に際して、中央政府が警察を動員して妨害をはかり、多くの負傷者を出したことを、有権者が許すはずなどなかったのだ。
つまり、独立派も反対派も、暴力による解決など望んでいない。にも関わらず、騒動の出口がなかなか見えてこないのは、双方に強いリーダーシップが欠如しているからだと、私は考える。
プッチダモン、ラホイ両氏ともに、もともとは温厚な人柄だと言われている。安定している時期は、それで人気を得られるかも知れないが、今回のような修羅場になるのならば、ただの「いい人」をトップに据えておくべきではなかった。
まったくの事実問題として、二人の指導者が、いずれも強硬派からの突き上げを抑えることができなかったことこそ、穏健な解決からどんどん遠のいて行ったのだ。
独裁者や「強い指導者」が、国民にとって危険な存在であることを、我々は歴史から学んでいる。しかし、優柔不断な「弱い指導者」も、決して国民のためにならないということを、今次のカタルーニャの問題から、我々は学ぶべきではないだろうか。
(下に続く。全2回)
【この記事は2017年12月25日に寄稿されたものです。】
トップ写真)カルラス・プッチダモン・イ・カザマジョープッチダモン前州政府首相 2015年3月20日
出典)flickr:ConvergènciaDemocràticade Catalunya
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この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト
1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。