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.国際  投稿日:2017/10/22

カタルーニャ独立騒動と沖縄基地問題


                          

林信吾(作家・ジャーナリスト)

「林信吾の西方見聞録」

 

【まとめ】

・カタルーニャ独立問題、住民投票賛成多数とはいえ、投票率は半分以下。

・カタルーニャ独立問題は沖縄の基地問題とよく似た構造がある。

・わが国の政治に公正な判断を下す為にも海外情勢について知ることが重要。

 

スペイン北東部・カタルーニャの独立問題は、おおむね予想通りの展開をたどった。州政府が強行した住民投票では、90%近い人がSi、すなわち賛成票を投じたとされるが、そもそも正確な投票数などが公表されていない。

中央政府は、この投票の正当性自体を認めていないわけだが、その判断にかかわらず、現地メディアの分析によれば、投票率は大目に見積もっても30%そこそこであったという。すでに述べた通り、独立を真剣に支持している人は、わずかながら過半数に達していないというのが、複数の世論調査から導き出される結論なのだ。

ただ、今回きわめて遺憾だったのは、中央政府が投票そのもののぶちこわしを狙って警官隊を現地に送り込み、独立派市民と衝突して700人以上もの負傷者を出したことだ。この結果、これまでは、「独立派のやることも強引すぎる」として支持を控えてきた市民の多くが、続々と支持表明に転じた。つまり、政治的な駆け引きとしては、完全に独立派が勝利したと言えるのである。

とは言え、投票から1ヶ月ほどが経った10月初旬の時点では、「カタルーニャ共和国」の独立宣言は、未だなされておらず、州政府はむしろ、中央政府との対話を模索していることも、また事実である。

理由は単一ではないが、構造としては割と単純だ。現時点で独立を宣言したところで、EUはじめ国際社会がそれを承認するとはとても思えず(スコットランド自治政府などの支持は見込めるだろうが)、字義通りの「共和国建国」など不可能であることを、当の独立派自身がよく分かっているのだろう。もちろん、EUとユーロから離れた場合の経済的ダメージに対しても、無頓着でいられるはずがない。

こうして考えてくると、沖縄の基地問題とよく似た構造が底流にあるといわざるを得なくなってくる。もちろん、今やスペイン経済を牽引していると言って過言ではないカタルーニャ地方と、日本における沖縄の位置づけは、当然ながら大いに異なる。

ただ、カタルーニャの人々が考える、歴史的に中央政府を形成するカスティーリャ(マドリッドを中心とする中央部)から差別され虐げられてきた、さらには、もともと独自の部言語や文化があったので、スペインの一部分であり続ける理由はない、といった「歴史認識」は、非常によく似ているのだ。さらに、中央政府が現地の世論にきちんと対応せず、反感を助長する結果を招いている、という点も共通している。 

一方、もっとも異なる点は、周辺諸国との関係性だ。ヨーロッパは歴史的に幾多の民族が割拠し、派遣を巡る戦争が絶えなかった。EUが誕生したのは、400年にわたって血で血を洗う戦いを繰り返してきたフランスとドイツの和解が成ったからであるが、各地で民族・宗教を異にする人々の対立感情はくすぶっている。

英国のスコットランドやスペインのカタルーニャは一典型に過ぎず、人口や経済規模が大きいから日本でも注目されている、というのが実情なのだ。

別の言い方をすれば、こうした分離独立の動きを看過したならば、やがてはEU自体が空中分解しかねない、という危機感がある。カタルーニャの独立をEUは支持しない、と私が断言した理由も、また、EUからの離脱をすでに表明している英国において、スコットランド独立派が、「英国から独立してEUに留まるべき」と訴えている理由も、これでお分かりだろう。

なぜこれが沖縄の基地問題とからめて考えるべきなのかと言うと、もしもこのまま沖縄と日本政府の対立感情が解消されず、沖縄独立論が台頭する自体にでもなれば、歴史的・文化的に琉球=沖縄と関係が深かった中国が、きっと黙っていないからである。

もちろん、日本政府の対応が気に入らないからと言って、中国にすり寄ってもよい、などと考える人が、さほど大勢いるとは思えないが、ひとつはっきりしているのは、「世論ときちんと向き合わない政治」は、決してよい結果を招きはしない、ということだ。

この1ヶ月ほど、国内政治が大きく動いたおかげで、ヨーロッパの政治情勢など、あまり関心を持たれなくなったきらいがある。本当は、これはあまりよくないことだ、と私は思う。

諸外国の情勢について知ることにより、わが国の政治について、より公正な判断が下せるようになるのだから。

 

トップ画像)バルセロナで経済省前で行われたデモ2017年9月20日 Photo by Màrius Montón    

 


この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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