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.国際  投稿日:2018/2/21

北の時間稼ぎに乗っかる韓国


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー2018#08

2018年2月19-25日

【まとめ】

・北朝鮮の目的はあくまで「時間稼ぎ」。

・韓国は外交安全保障政策より国内政治上の利益の方が重要。

・米中の戦略的妥協がない限り、北朝鮮核問題の解決はない。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真の説明と出典のみ記載されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=38555で記事をお読みください。】 

 

平昌五輪が始まり、先週末は北朝鮮の「微笑外交」をどう見るかに世間の関心が集中した。今のところ状況は北朝鮮ペースとしか言いようがない。この種のチャーム・オフェンシヴはこれが初めてではなく、むしろ北朝鮮の常套手段。筆者は金正恩が果敢に動いた背景に4点あると見ている。

経済制裁がある程度効いており、北は一時的戦術変更に迫られた、しかし、

②北は核開発を放棄する意図など全くなく、うまくいけば米韓分断、制裁弱体化が視野に入って来る

③文大統領は確信犯であり、戦争回避とオリンピック成功にしか関心がない

④されば、今後も対話促進、首脳会談で韓国を揺さぶるのが最も賢い選択だ。

北の目的はあくまで「時間稼ぎ」。

核兵器開発の継続

当座の経済的利益の獲得

米韓、日米韓の連携に楔を打ち込むことで

戦略的生き残りの道を探っている。

これに対し、韓国は確信犯の「前のめり」だ。民族感情からすれば理解できなくはないが、外交安全保障政策よりも、国内政治上の利益の方が重要なのだろう。

今後、南北融和はどこまで進むのか。一定の融和に成功することまで反対はしないが、五輪と核開発は次元の異なる問題だから、いくら対話を行っても核問題で結果は出ないだろう。核開発は北朝鮮にとって戦略問題であり、北はあらゆる機会を通じて「時間稼ぎ」を追求するに違いない。

最大のエサは「南北首脳会談」で、6月とも8月ともいわれるが、万一これが実現すれば絶妙のタイミングとなる。米韓軍事同盟に楔を討ち、経済制裁を事実上骨抜きにするには絶好の口実だ。逆にいえば、南北首脳会談を許してしまえば、日米韓は後れを取り、北朝鮮は優位に立つということだ。

対話か、圧力かという質問もナンセンス。対話のための圧力というのは正しいが、対話だけでは何も生まれない。議論をして交渉した上で妥協しなければ結果は出ないからだ。核凍結ではなく、核断念のため交渉をするためには、これまでの圧力では到底不十分。経済制裁だけでは最終的解決には至らないだろう。

問題解決のカギは米朝ではなく、米中関係だ。国際社会(国連)の役割は限定的だろう。米中の戦略的妥協がない限り、北朝鮮核問題の解決はない。米中が北朝鮮を含む朝鮮半島の将来についてコンセンサスに至らない限り、進展は見込めない。その間も微笑外交が続けば、「北核保有」の黙認問題が現実味を帯びてくるだろう。

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▲写真 習近平中国国家主席と会談するトランプ米大統領 G20にて 2017年7月8日 出典 flickerThe White House

 

〇 欧州・ロシア

EUでは19日から予算関連の会合が続く。予算はどの国でも大問題だが、EUともなれば決定に時間がかかる。20日にはドイツの社民党が大連立について党員投票を行う。結果が出るのは3月4日だが、これで本当に終止符を打つことができるのか。結果は他の欧州諸国にも影響が及ぶので要注意だ。

 

〇 東アジア・大洋州

中国圏の春節は23日まで続き、ベトナムのテト休暇は20日に終わる。23日には米国とタイが主催する共同軍事演習コブラゴールドも終わる。平昌五輪は25日に終了するが、北朝鮮の核問題が解決しないまま、南北対話の議論だけが続くのだろう。このまま南北対話を進めて良いものか。日本が何かできることはないのか。

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▲写真 平昌オリンピック 北朝鮮応援団 flickr : Republic of Korea

日本は「最大限の圧力が先」という今の立場を続けるしかない。米国の情報機関が「決断の時間は限られている」と述べたように、あまり時間は残されていない。今更、対話や交渉をやっても北朝鮮に時間を稼がれるだけ。ICBMが初歩的ながら完成すれば、それは米のホームランドセキュリティとなり、個別的自衛権行使の問題となる。

 

中東・アフリカ

今週の中東は静かだ。先週ミュンヘンで行われた安全保障会議で、イスラエルとイランが非難の応酬を行った。イスラエル首相は撃墜したイランのドローンの破片を手にイランを厳しく非難したが、イランはこれを事実上無視。だが、両者の対立がこの程度で終われば、イランとイスラエルのシリアでの交戦拡大は当面回避できそうだ。

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▲写真 イスラエルのネタニャフ首相 出典:公式Twitter Munich Security Conference

 

 南北アメリカ

司法省の特別検察官がロシア人13人を起訴した。これで直接ロシアゲート問題に悪影響が及ぶ訳ではないが、トランプ陣営が無罪放免になる訳でもない。トランプ政権に司法省とFBIの動きは止められないし、特別検察官を罷免でもしようものなら、事態は更に悪化するだろう。トランプ氏にとっては不愉快な日々が続くはずだ。

対北朝鮮戦略について米政権内は意見が割れている。全てのオプションがテーブルにあるということは、最終的に決めていないということ。良く言えば柔軟だが、悪く言えば決めかねているのだ。ホワイトハウスが軍事作戦の検討を求め、国防省は選択肢を考えながらも実は最もやりたくなく、国務省は十分機能していない。これが実態だ。

 

インド亜大陸

23日、トルクメニスタン、アフガニスタン、パキスタン、インド(TAPI)パイプラインのアフガン部分の竣工式がようやくトルクメン・アフガン国境で開催される。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ画像:金与正氏(中央の女性)出典 Republic of Korea


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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